研究誌 「アジア新時代と日本」

第99号 2011/9/5



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

主張 3・11原発事故から日本の新しいあり方を考える 脱原発は脱米脱覇権

論評 米欧経済の破局と日本 (1)

時評 野田新政権を展望する

コミック評 ツルモク独身寮

世界短信




 

編集部より

小川淳


 野田新政権が発足した。政権交替してから二年、かつてのような高揚感はもはやない。竜頭蛇尾に終わったとはいえ、鳩山や管にはそれなりの政治理念があった。しかし、今回の野田政権には、何かが変わるという期待がまるで感じられない。
 野田首相は、かねてから、財政再建、財政健全化の旗を誰よりも高く掲げ、そのための増税を一貫して声高に叫んで来た。また、エネルギーの安定供給を強調しながら、それを理由に脱原発に公然と反対して出てきている。その上、この間、急速にTPPが焦点化されてきている。重要なことは、これらが、この間、米国が日本にもっとも強く要求してきている政策であり、それにもっとも全面的に呼応して出てきているのが野田首相だという事実だ。
 一方、2年前の政権交代時、国民の支持を集めた民主党のマニュフェスト(子ども手当、高校無償化、農家所得個別保障、高速道路無償化など)の見直しを菅政権が自民、公明両党と約束した「三党合意」の遵守を強く表明している。これらは、増税に不徹底さがあり、脱原発に至っては、むしろそれを表明したりしていた菅政権に比べ、野田政権がはるかに徹底した親米・反国民の政権であることを示している。
 野田政権が徹底した親米・反国民の政権であるのは、この政権の成立経緯にも示されている。今回の民主党代表選挙において、5人で競った最初の選挙で1位だった海江田(143票)を2位だった野田(102票)が、1,2位決戦投票で大逆転(215対177)して当選した。ここで重要なのは、民主党内で離米・親国民的傾向が比較的強い小沢、鳩山が海江田を押したのに対し、その他の圧倒的多数が野田の側についたという事実だ。野田は一層親米・反国民的道に進まざるを得ないことを示している。
 一方、小沢氏に近い輿石氏を党幹事長に据え、「脱小沢」路線から転換して「党内融和」を掲げ、小沢派から山岡などを起用し、党内バランスを重視している。自民、公明も「三党合意」を尊重する新政権とは対決よりも「協力」へと進むだろう。増税、原発推進、TPP、対米重視の政策が、「挙党一致」、「挙国一致」で進む事になる。
 この二年、不十分とはいえ、自民との「対決」で政権交代を主導してきた民主党は、自民との「融和」へと舵を切る事になる。何のための政権交代だったのか。53%の「支持」が「失望」へと変わるのはそう遠くないだろう。



主張 3・11原発事故から日本の新しいあり方を考える

脱原発は脱米脱覇権

編集部


 東日本大震災の半年後に当たる9月11日から19日に掛けて、日本各地で脱原発の大行動が予定されている。原発事故による放射能汚染という惨禍を前に脱原発は国民の一致した意思になりつつある。それは日本の生き方を根本から変える起爆力になるのではないか。

■「核の平和利用」は、米国の覇権戦略だった
 原発は、「核の平和利用」ということで進められてきたが、それは米国の核覇権戦略の一環だったことが、最近、新聞などでも明らかにされつつある。
 その一部を紹介すれば、「米大統領アイゼンハワーが国連総会で『Atoms for Peace(平和のための原子力)』を唱えたのは1953年。ソ連が水爆実験に成功し、米国は慌てていた。原発を積極的に輸出して経済支援することで米国の『核の傘』を広げる世界戦略への転換だった」(朝日新聞7月17日)とある。
 50年代、米国、ソ連、英国の度重なる核実験によって大量の放射能がばら撒かれ、特に53年に第五福竜丸の悲劇をもたらしたビキニ環礁での核実験は、周辺の島々の住民数百人をも被爆させた。こうした事態に核実験禁止の声が高まるや、これまで大量に製造貯蓄してきた濃縮ウランの処理、その巨大な製造設備の保持に苦慮した米国は、濃縮ウランを使った軽水炉型原発を世界に広げることで、核兵器製造体系を維持しつつ、エネルギー分野でも米国の覇権を立てようとしたのである。
 実に「核の平和利用」とは、核兵器と表裏一体の米国覇権のための戦略であった。

■対米従属覇権の象徴、原発
 この戦略に最も忠実だったのが日本。その象徴的人物、中曽根康弘と正力松太郎の言動をもって、そのことを見てみたい。
 中曽根は、アイゼンハワー演説を聞いて「平和利用できなければ日本は永久に4等国に甘んじると思った」と述懐している。この年、中曽根はハーバード大の国際セミナーに招かれる。主催は後の国務長官キッシンジャー。22カ国から45人が集まった。
 対米従属に反対し再軍備、自主憲法制定を主張していた中曽根は、この時、米国に期待されることを喜んでもいたという。対米従属に反対し「自主」を望む中曽根でさえ、日本が戦前のようにアジアに覇を唱えるだけの力を持った1等国になるならと米国の原発による覇権政策に進んで乗ったのだ。
 こうして中曽根は、54年日本初の原子力予算成立の先頭に立ち、55年には国会の原子力合同委員会の委員長に就任し、三重県芦浜原発計画の現地に出向いて反対住民を恫喝説得するなど原発設立を推進していく。そして、この時の経験をもとに原発建設地に大量の交付金をばら撒きカネで懐柔する「電源三法」を成立させてもいる。
 一方、戦前、警察官僚として人民弾圧に暗躍した正力松太郎は、56年に政府の原子力委員会の初代委員長に就任。読売新聞社主としてマスコミ部門で核アレルギーをやわらげる「世論対策」を担当した。その中では、56年「原子力平和利用博覧会」、58年「広島復興大博覧会」での米国の協力による原子炉模型の展示など、ヒロシマを利用することさえしている。
 こうして米国の力を背景に、政治家、官僚、財閥、マスコミ、学会、地域ボスが原子力という共通の利害関係で結びついた「原子力村」が形成され、「安全神話」の捏造と宣伝、反対者への強権弾圧、カネをばら撒いての懐柔、隠蔽、やらせなどの悪しき日本を作っていった。それは、対米従属覇権という戦後日本のあり方を象徴している。
 3・11原発事故は、そうした米国覇権の下で経済成長し自らも経済大国として覇を唱えようとした戦後日本のあり方を告発するものとなった。

■脱原発は、それ自体、脱米脱覇権
 自らも被爆し、核兵器廃絶と被爆者援護に半生をささげた故森滝市郎・広島大名誉教授は「核と人類は共存できない。反原発の運動は人間が核を否定するか、核に人間が否定されるかの戦いだ」と述べ「原発をこぞって作りプルトニウムと放射性廃棄物を出し続けるということになれば、どういうことになりましょうか」と問いかけている。
 原発が生み出す大量の放射性物質をなくす方法はこの世に存在しない。それ故、原子炉は内部に膨大な量の放射性物質を溜め込んだまま運転され、最後には廃炉にして原子炉と共に地中に閉じ込めるしかない、その運転過程で外に出た核廃棄物はドラム缶に詰めて保管するだけで、共に半永久的な寿命がつきるのを待つしかない。
 何らかの事故が起きれば、それらは飛散、漏出し、国土を汚染し、食物を汚染し、人間の遺伝子に影響を与え後代にまで禍を及ぼし、自らの国だけでなく全人類に甚大な被害を及ぼしかねない惨事を招く。
 3・11は、その悪夢を現実のものとして我々に突きつけた。人間と核が共存することはできない。「減発」などと数を減らせばよいのではなく、計画的に原発ゼロを実現しなければならない。
 原発の寿命は40年であり、これから日本の原発の多くが、その時期を迎える。それを順次廃炉にしながら、自然エネルギーなどの再生可能エネルギーへの転換をはかり、絶対的な原発ゼロを実現していかなくてはならないと思う。
 しかし、米国も日本も原発を放棄しようとはしていない。米オバマ政権が掲げるグリーン・エネルギー政策とは、原発推進であり、米国は、4月のG20でも「原発の安全性を高める」として、原発の継続を表明しており、新しく就任した野田首相も「エネルギーの安定供給」を掲げながら脱原発に反対している。
 日本のエネルギーは、これまで米国の覇権の下、石油やウラン、石炭など外から持ってくる資源に依存してきた。それ自体が対米従属とその下での覇権的な生き方であり、国の基本であるエネルギーがそうなることによって、日本の生き方総体を規定してきた。
 しかし、自然エネルギーは、太陽光や熱、風力、潮力、地熱、小規模水力発電など、その地域にあるものを利用する地産地消の性格が強いのが特徴だ。脱原発・自然エネルギーへの転換は、その国、その地域にある資源を使い他者への依存をなくしていく。
 こうした事実は、脱原発・自然エネルギーへの転換は、即、脱米脱覇権だということだ。
 それは、日本のこれまでの生き方を根本的に変え、真に自立的な脱米脱覇権の新しい国のあり方を可能にするものだと思う。

■脱原発の主体は、脱米脱覇権の主体だ
 脱原発の運動が活発化している。東京、高円寺で始まった脱原発デモの「素人の乱」などが9月11日から19日にかけて、東京で5万人、全国100万人のデモを計画し、時を同じくして1000万名署名などが計画されている。このような動きは全国各地、さまざまな分野で起きており、映画会、講演会、公開質問状、訴訟など実に多様な形態で行われている。そして、それらは、日本の「ジャスミン革命」であるかのようにネットを通じ互いに連携していっている。
 一方、自然エネルギーを導入する取り組みや運動も、活発化している。7月中旬秋田で開かれた「自然エネルギー協議会」には20人の知事を含む35道府県の代表が集まりエネルギー利用の転換を訴えた。こうして、山梨の太陽光、秋田の風力や地熱など地域の特性に合わせた取り組みが本格化している。個別の家庭でも太陽光発電の補助金申請も昨年の1・5倍になるなど自然エネルギー導入意欲が高まっている。
 だが、米国や日本政府の態度は変わっていない。米国は核兵器と原発という二つの核による核覇権戦略を止めようとはせず、日本もその米国覇権の下で覇を追い求める覇権主義をやめようとはしていない。そうであれば、脱原発や自然エネルギーの運動は、米国とそれに追随する日本政府との闘いを不可避とし、その闘争主体、運動主体も脱米脱覇権への志向を強めずにはおかないだろう。
 久しい前から、脱原発・自然エネルギーへの転換を主張してきた飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)は、その実現のためには、市民と地域が主体的に自らのエネルギーを選択し、それを全体の総意にして知恵と力を出し合って育てていく「エネルギーデモクラシー」が不可欠だということを強調し、北欧などの実例を挙げている。
 この脱原発・自然エネルギー運動の国民主体、地域主体が脱米脱覇権の日本の新しいあり方を代表する力となるのは間違いないのではないだろうか。



論評

米欧経済の破局と日本(1)

京都総合研究所 佐々木道博


 7月末より、アメリカ議会において国債発行上限の改定をめぐり民主共和両党の合意が成立し、債務不履行(デフォルト)の危機を一旦回避した。しかし、アメリカ国債は格付け会社S&Pから格付けの一段下げを宣告された。これを契機にアメリカ経済への投資家の不安からその後1か月毎日のように100ドルから500ドルの範囲で株価は乱降下を繰り返している。そして欧州株も年初来安値をつけ、ドイツ株に至っては今年すでに30%以上下落している。ギリシャの国債の利回りは9月6日19%を超え、ほとんど価値を成さないほど急落している。イタリアやスペインにまで金融危機は波及している。本稿では米欧の経済政治危機について論じてみたい。
 リーマンショック以降、アメリカ経済はどうなっているのか。
 2008年9月のリーマンショックから既に3年が経過するが、事の起こりは前年の7月から始まったサブプライムローンの破綻危機である。
 1990年以前は金融資産と世界のGDPは、ほぼ同様に均衡していたが、90年ソ連崩壊の冷戦終結以降は、米・欧は金融を経済成長の原動力とし、2010年時点で世界のGDPは63兆ドル、そして金融資産は212兆ドル(マッキンゼー推定)日本円で1、6京円の残高になっている。
経済成長の主役を次々と登場させ、2000年のITバブルそして2005年からはブッシュ政権の持ち家政策と金融緩和、住宅ローンを含む各種の証券化とレバレッジ(元金3%〜8%で最大12〜30倍まで貸し付ける)によって資産拡大をはかってきた。
 ゆるゆるバブルの転がしによって、金融機関は莫大な利益を稼いできた。その資産は借金によってつくられたものであるから,不動産や株、商品が3〜8%下落すれば元金はふっとんで0になるという構造である。0ならまだしもバブルが逆回転し、膨大な不良債権となって金融機関投資家に襲い掛かってきた。
 これがリーマンショックであり世界の金融危機である。
 こうした金融危機に対してアメリカではどう対応してきたか見ておこう。金融機関、特に、投資銀行に対しては、国有化などの手段を使って公的資金を大量に投入し、また極端な金融収縮(貸し渋り)に対してゼロ金利政策、需要不足に対して財政投入、公共事業の拡大等々、あらゆる政策を駆使し、危機回避に動いてきた。この4年間で新規国債発行約5兆ドル、新ドル増刷5兆ドル、フレディマック、ファニーメイなどの住宅ローン保証会社等に対する政府保証約5兆ドルを投入し、民間の損失を政府が肩代わりしてきた。アメリカGDPが14兆ドルといわれているが、その一年分の資金を3年間で投入したことになる。アメリカの税収は日本円で100兆円も割り込んでいるので、国家予算の10年分を投入したことになる。アメリカ国債が、いままでAAAの最上級に位置づけられること自体異常であったのである。基軸通貨国の恩恵を最大限に利用して世界中でやりたい放題をやっていたのである。
 今、アメリカはQE3(金融緩和策)の是非を論議しているが、これをやれば一層ドル安と世界にインフレをばらまくことになり、またやらなければ雇用は一層深化し、景気悪化は避けられない。前にも後にも行けない状態が今のアメリカである。
 翻って、この経済情勢がアメリカ社会にどんな影響を与えているのか。興味深いレポートとしてウォールストリートジャーナルに日本人ジャーナリストの肥田美代子氏がレポート記事を載せている。その一部を紹介しておきたい。その記事のテーマは「消えゆくアメリカンドリーム―加速する"超格差"の実態」(8月19日)である。
 一部引用すると「ニューヨークに本拠を置く世界最大の会計事務所デロイドが今後10年に亘る世界の富の成長を予測した調査結果(5月発表)によれば世界25か国地域の富豪が所有する92、26兆ドルのうち、38、6兆ドルを米国の大富豪がしめる」「また、上記の38、6兆ドルに加えて、タックスヘイブン(租税回避分)の資産6、3兆ドルが上積みされ、アメリカがトップ0、1%、約30万人が46兆ドルを持っている計算で日本円に換算すると一人100億円以上となる。米国個人資産のほとんどをこうした1000人に1人の富豪たちが独占している」ということである。
 一方、このレポートでは「翻って米国の中間層や低所得層の苦境ぶりは鮮明だ。米民間世論調査期間ビュー・リサーチセンターが、7月26日に発表した調査結果では、米国の全世帯の2割にあたる約6200万人が09年時点で資産が0か負債を抱えていることが明らかになった。(05年は15%)」と述べている。それに続いて「また、フードスタンプ(低所得者向けの食糧配給券)受給者も依然として増え続けており、今年5月時点での受給者数は全米で約4580万人と前年同期比で12、1%増を記録した。ニューヨーク州では約302万人が、政府の援助なしには食事も事欠く状況だ。わずか6年前には全米で2570万人しか助けを必要としなかったことを考えると、貧困化が急ピッチで進んでいることがわかる」「8月2日に成立した財政赤字削減策の下で社会保障がカットされると貧困率(09年時点14、3%)が倍になるという調査結果も出ている」ここまで肥田美代子氏のレポートを引用してきたが、これに加えて本年9月初め失業率は9、1%(求職活動をしている人)そして求職活動をあきらめた本当の失業者7%を加えると16%以上(約2400万)の人が職につけていない状況である。
 今後、オバマ政権と共和党の合意の下、財政削減策が強化されると一層の貧困化が進むが、同時に全国民の0、1%の30万人は、富を独占しているが、この富さえも国家破綻、ドル崩壊と共に自らの富を失うことに大変な恐怖を抱いているのである。アメリカの高所得者番付3位のウォーレン・バフェットが高所得者への増税の主張をしはじめているのも、こうした意識の表れであろう。このままでは国家がもたないところまで来ているという事である。
 アメリカ社会はこうした経済的背景の中で、人口3億人の国に2億7千万丁の銃があふれ、年間20万人の死傷者で出ており、そのうち3万人以上が毎年死亡している。朝鮮戦争でも3年間で3、7万人、ベトナム戦争でも10年間で5万人の死亡者であったことを考えれば、イラク・アフガン戦争という外での戦争より国内戦の銃の死亡者の方が圧倒的に多いという事である。また、この国内戦以外にメキシコ国境では麻薬の密売摘発のため、アメリカ警察とメキシコ警察がマフィアと戦争状態で、この3年間で3万4千人が死亡したと報道されている。アメリカンドリームはすでになく、多くの国民は職に就けず、中間層は住宅ローンが払えず、差し押さえの恐怖におびえ、街へ出ると銃撃戦に巻き込まれるリスクを避けるために神経を使っている、きわめて不安定で病んだ社会になってしまったのである。アメリカ政府がしばしば他国の人権問題に介入し、批判もしているが、まず自国の人権状況を点検してみることが先決であろう。
 ここまでアメリカの現状について論じてきたが、ヨーロッパも同様の危機の中にある。この9月初め、ヨーロッパ中央銀行(ECB)の理事会メンバーであるベルギー中銀のクーン総裁は「欧州における流動性とコンフィデンスの問題はリーマン破綻後ほど深刻ではないが、その方向性に向かっているとの認識」(9月2日ロイター通信)と述べている。そして、その4日後9月5日にはギリシャ国債の利回りが19%に跳ね上がり(日本国債は1%)破綻状況になった。そして、その日独の株価指数DAXは5%以上下がっている。他の欧州株も軒並み下げている。独株式は年初より30%以上の下げ幅である。仏も英、伊、スペインも同様である。EU全体でなんとか危機に対処しようとしているが、独、仏だけでは到底支えきれない様相である。
 また、独自のポンドを有するイギリスも、GDP200兆円の国が、国と民間の負債が800兆円にも達し、どうにもならなくなっている。先日、国内暴動で3300人を上回る逮捕者を出したのもこうした背景からである。
 ヨーロッパはこうした経済危機の中で仏を中心にリビアの反政府勢力をそそのかし、石油資源の強奪も狙ってカダフィに戦争を仕掛けた。こうした目論見もイラク・アフガンの状況をみてもわかるとおり、長続きするわけでもなく、自らの危機を深めるだけである。一時的に仏、サルコジの支持率を高めても逆に大きな荷物を負ったことになるであろう。
 中東、アフリカは今、大動乱の中にある。アメリカやヨーロッパの支配もタガがゆるみ、各地でデモや暴動が相次いでいる。イスラエルでも物価高や政府の経済政策に反対して45万人の大規模なデモが発生している。イスラエル建国以来の出来事となっている。
 これまで見てきたように、経済危機は深刻化し、破局の様相を見せている。1929年ブラックマンデー世界大恐慌の時もその後数年間は財政出動(ニューディール政策)などによって一旦小康状態を見たが、4年後1933年から世界は本格的恐慌と市場分割戦に入っていった。1933年ドイツではナチスが政権を握り、日本は満州国(カイライ政権)建国に異を唱えるリットン調査団の調査報告書を認めないと宣言し、この年1933年に国際連盟を脱退した。そして各国は戦争への道へ突き進んだのである。現在は、当時と比べて、反帝国主義と自立を求める世界各国人民の力が強大になったため、今回のこの事態が世界大戦へ突入するという単純な歴史のアナロジーはできない。しかし、欧・米は素直に自滅の道を歩むわけでなくあれこれの生き残り策を弄して、これから1〜2年どういう事態が起こるか、予測は難しいが、ただ言えることは欧米の帝国主義の時代は確実に終わりを迎えざるを得ないことは確かなようである。
 次の論考では、中国を始めとするアジア経済、そして、こうした情勢の中で大震災と原発事故に直面し、円高、不況、空洞化等々に如何に対処するのか、私なりの考えを述べてみたいと思う。

(以下次号)


 
時評

野田新政権を展望する

編集部


 当面、野田新政権の前に提起される最重要課題は、震災復興であり、原発事故の収束だ。この課題の遂行において、新政権が徹底して親米の立場に立つのは火を見るより明らかだ。
 復興においては、現在、日米共同で推進されている「復興と未来のための日米パートナーシップ」による「提言書」の作成(11月完成を目標)を促進し、それに基づく米国主導の震災復興を推し進めていくだろう。これにより、復興特需への米国独占の参入と農業をはじめとする日本産業の自由化、グローバル化が促進され、それへの米国独占の参画が推進されるだろう。また、地域主体の美名の下、地方分権の道州制の導入が促進され、この方面からの米国による対日支配が強化されるようになるだろう。
 原発問題に関しては、先に挙げた「エネルギーの安定供給」の名の下に、原発の維持が図られ、脱原発運動の世界的範囲での盛り上がりに逆行して、原発による米国の覇権を支えていくことになるだろう。
 野田新政権の軍事外交政策について見たとき、その対米従属性は一層甚だしいものになるだろうと予想される。沖縄の普天間基地問題をはじめ在日米軍基地問題で、新政権は米国の言いなりになるのはもちろん、日米共同の基地利用、共同軍事演習など、軍事の日米一体化をこれまで以上に促進するだろう。また、対朝鮮、対中国など、東アジア共同体に対する日本外交のあり方がこれまで以上に米国べったりになるのも目に見えている。
 そうした中、米国が対朝鮮政策を対話の方向に転換してきている今日、新政権が日朝関係においてもそれに追随してくるのはほぼ確実だろう。菅政権がつくった対話への流れは、大きくなることはあっても小さくはならない。もちろん、それが米国による覇権の再構築を支えるものであるのは言うまでもない。
 こうした野田新政権の今後の動向は、これまでの民主党政権(鳩山、菅)と比較してより安定的なものになることが予想される。それは、第一に、新政権の対米従属性がより徹底しており、より強力な米国による支えがあると同時に、第二に、新政権がよりしっかりした政治的基盤に基づく政権になるからだ。野田が民主党幹事長に小沢派の輿石を据えたこと、民主、自民、公明の三党合意の遵守など、野田新政権の政策が自民、公明とほとんど変わらないこと、そして何より、野田が「対話の政治」を掲げ、周到な根回しに基づく政治を心がけていること、等々、民主党内の挙党一致、政府と与党、与野党間の一致、挙国一致の強化が図られていっていることはそのことを示している。TPPがこれに対し批判的だった鹿野派を内閣に取り込み、TPP反対の急先鋒、山田正彦(元農相、鹿野派)を黙らせて強行採択される見通しが強まっているなどは、その最たる実例だろう。
 以上から言える日本政治情勢の展望は、日米一体化の一段の強化の下、挙党一致、挙国一致体制をとる野田新政権と国民の利害の対立の甚だしい激化、深刻化だ。そうした中、国民の切実な利害を反映する脱原発の闘い、復興のための地域主体の闘い、自然エネルギーを担う主体の運動、そして沖縄をはじめ全国的な反基地、等々、国民大衆底辺からの闘いの高揚が今後の情勢展望での基本になっていくだろう。



コミック評

ツルモク独身寮

水樹連太郎


 最近のコミック本は、作者ごとのタッチが実に個性的であり、物語の起承転結もなかなか巧みに組まれている。中には予想外の結末を見せられ、感心する作品も結構ある。だが、何か物足りなさや爽快感にかけている気もするのである。そんな折、タイトルに聞き覚えのあるこの作品に目を通してみた。私の直感はヒットしたようであり、久々の感動を得ることができた。
 この作品自体は20年前のものである。しかし、「批評」にこれを選んだのは読み終えた時の充実感と懐かしさ、この作品が連載されていた良き時代に、自分も登場人物たちと同じような時代を送っていた一体感、嬉しさからと言えようか。
 独身寮というタイトルからして、日々、一波乱ありそうである。主人公の正太は地方から上京して「ツルモク家具製作所」に入社し、同室の先輩方と共同生活が始まるわけだが、この先輩二人がとてもユニークな個性派なのだ。一人は室長の田畑であり、何と趣味が向かいの女子寮の「ノゾキ」だが、さっそくこれにつき合わされ、着替え中に視線が合った女性がヒロインのみゆきである。主人公とヒロインがこんな形で出会うところが、ありがちな恋愛物コミックではあり得ない、若者の日常ではありがちな現代ならではの新しい視点で捉えた作者の鋭い感性を感じる。もう一人のルームメイトが、女子社員たちの憧れの的である杉本だが、実は名うてのプレイボーイでもあるイケメンだ。
 正太を含むこの3人に加え、ヒロインのみゆき、そして後に田畑の恋人となる野沢を含めた5人を中心にハチャメチャな寮生活が展開されていくのだ。だが、作者は「青春労働ラブストーリー」と銘打っているように、単純なラブストーリーではない。激しい労働現場の実態、会社の生産システムの改革に乗り込んできた美人工場長に抗う正太達の労働者の意気込み、職制の班長試験に懸命に挑む「ハンチョウリーナ田畑」の涙ぐましい努力の様子など、働く人々の生き生きとした姿が誌面一杯に広がっている。心ない職制の言葉に傷ついて実家に引きこもって出社しない野沢を自転車で連れ戻しに向かった田畑。班長テストの二次試験を放り出して来た彼はこう叫ぶ。「オレは逃げない。周囲にどんだけ笑われようが、何度でも試験は受けてやる。不器用な自分をさらけ出して生きるんだ・・!」イケメン杉本は恐ろしい不美人である大富豪の令嬢に見初められて「助けてくれ〜!」と顔面蒼白になって振り回されるが、徐々に令嬢の女らしい部分に魅せられていく。
 そんな二人の先輩の人間味溢れる個性に囲まれ、正太もみゆきも成長してゆく。実家の家具屋の親父までが上京して正太達の物語に登場するが、日頃はヒョウキン者の父親の威厳ある態度に改めて尊敬してしまうあたりは、家族愛の大切さを学ばせてくれる。他にも学生時代からの恋人ともみとみゆきの間で決断できない正太を叱る後輩や、やがて青森の実家へ帰って家業を継ぐ後輩を大切にする正太と仲間たちなど、心優しい場面と抱腹絶倒のギャグシーンが絶妙なタッチで描かれている。
 ところで、作者の窪之内氏は付録のマンガで自身を紹介されているが、大変な苦労をしてこの作品にまで至り、自身が家具メーカーに勤めていた経験を活かしてこの作品が生まれたそうである。例え辛くとも楽しくて愉快な青春を仲間と送ったからこそ、こんな作品が出来たに違いない。
 ちなみに、本作品は実は映画化されていた。今も名のある俳優さん達や新人女優さんが正太やみゆき達、そして仲間達を見事に演じていたそうである。全11巻、第1巻の「ようこそ!」で始まり、最終巻は「ただいまっ!」で終わるこの作品、青春の真っ只中にいる若人も、青春を忘れた(?)世代の方も、是非読んで頂きたい。
 まごう事なき「青春グラフティー」である本作品から、きっと貴方なりの元気を貰えると思う。良き時代を学ぶ私の一押しの作品である。



 

世界短信

 


■経済共同体創設を目指すASEAN
 ASEAN諸国は2015年までの経済統合を合意している。最近ASEAN諸国は、関税障壁撤廃で多くの前進を遂げたが、地域統合には多くの問題が横たわっている。
 ASEAN諸国が経済協力を促進する上で障害になっているのは利害関係の不一致だ。シンガポールとタイ、インドネシアのように発展した国があるかと思えば、ラオス、カンボジアなど遅れた国もある。それ故、一つの経済統合体を作るのは簡単ではない。
 もう一つの重要問題は、経済共同体を形成した後、中国とどのような関係を樹立するのかという問題だ。今年1月1日からASEANと中国が自由貿易地帯を創設した。しかし、中国に対するASEAN諸国の態度は異なっている。中国との協力は中国の投資でメコン江三角地帯を開発するなど良い面がある一方、中国経済が大蛇のようにASEAN経済を飲み込むとういうのだ。
 そこで、ASEANは経済政策を多角化しようとしているが、それはロシアとの経済関係発展の良い機会になる。2005年に最初のASEAN?ロシア首脳会議が開かれて後、貿易量は3倍に増えた。ロシアはASEANをアジア太平洋地域経済の成長の中心地の一つと見ている。ロシアが経済現代化を進める上でASEANとの関係強化は重要だ。再生エネルギーとグリーン技術を利用するためにロシア?ASEANセンターが稼動すれば、エネルギー対話も発展するだろう。

(ロシアの声)

■新しい「リチウム同盟」創設計画
 アルゼンチンとチリ、ボリビアが「リチウム同盟」を創設する計画だ。3国のリチウム埋蔵量は世界の85%を占める。リチウムは電気自動車や携帯電話などの電池に使われる。世界で生産される電池の40%がリチウム電池だ。
 今後、その需要は増える。世界の自動車界は電気自動車生産に向かっている。ドイツでは2020年までに100万台の電気自動車を生産する国家目標を発表した。生産量世界一を目指す中国は、すでに数十億ドルを投資。日本を始め各国が埋蔵量で1位を占めるボリビアのリチウム開発に参入しようとしている。

(朝鮮・労働新聞 )

■米国は反省すべきである
 8月5日にS&Pが米国債の格付けを引き下げたことは、世界経済を混乱させている。長期的には、米国経済が「第二の衰退」に入ったという憂慮を激化させ、ユーロ危機と共に世界経済を危機に陥れかねない。
 専門家たちは、この原因は、米国の消費方式、赤字政策、政党対立が米国信用の基礎を破壊したところにあると見ている。
 米国には、深刻な反省が求められている。
 第一にこれまでの過度の消費と過度の赤字など持続不可能な経済発展方式を深刻に反省し責任的な財政政策を実施し経済を均衡させることだ。言葉だけでなく実践で。
 第二に米国は、国際的な責任も眼中になく、政党間の争いをするのではなく、世界の投資家に責任を負うことだ。
 第三に米国は覇権的思考方式を捨てて世界への干渉政策を転換すべきだ。
 ソ連崩壊後、唯一の超大国になった米国は強大な軍事的力に依拠して各地で国際問題に介入し覇権主義を実施し、それを経済的に支え得るのかということは考慮してこなかった。経済的苦境に立った米国が自己の覇権主義的行動を反省するのはまさに今だ。

(新華社)


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