研究誌 「アジア新時代と日本」

第95号 2011/5/5



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

主張 復興を新しい日本創造へ!

朝鮮社会主義と東アジア(1)

東日本大震災 3・11から一ヶ月

コミック批評 白竜―Legend―




 

編集部より

小川淳


 日本という国は四つのプレートがひしめく世界でも稀な「変動帯」であり、世界で起きる巨大地震の大部分が日本に集中しているという。地震だけではない。地震にともなう津波、毎年のように襲う台風や豪雨、火山帯による噴火もある。日本人はこの過酷な自然との格闘を繰り返してきた特異な歴史を持つ。
 その一方で、南北に細長い列島は、四季の変化と豊穣な森と平野、海や川に恵まれ、他の国にはない自然の恵みも受けてきた。東北沖は地震の巣窟であり、同時に世界有数の漁場でもある。東北の人たちがあれほどの悲惨な犠牲を払っても故郷を捨てようとしないのはその豊かさのためではなかろうか。
 日本人独特の寛容さ、忍耐強さ、思いやり、助け合いの精神などは、この長い自然との格闘で培われた民族性に由来するのでないか。特に東北の人たちにその典型を見る思いがする。
 東北の人々の粘り強さを以ってすれば、東北の復興は必ずや達成されるだろうし、そのことを疑う余地はないが、問題はその復興に向けてのグランドデザインを政府がどう描くのかである。
 住宅、道路、港湾など復興が始まった今、その財源をどうするのか。この地震列島にひしめく50数基の原発をどうするのか。その議論が沸騰しつつある。
 今回の震災で感じた事は、誰でも指摘していることだが、地域住民の安全、生活、人命が軽視されてきたことだ。とりわけ原発への対応や津波対策のいい加減さが露見している。巨大な津波の危険性や、そこに住む人々の命や生活よりも米国や大企業の利益が優先された結果が、未だ収束の見通しも立たず、放射能を撒き散らし続けている福島原発事故だった。
 当たり前かもしれないが、何よりもそこに住む人々の生命と生活を第一に復興の柱に据えて欲しいと思う。そのような復興になれば、「消費税増税」や「TPP導入」などあり得ないだろう。ましてや原発増設、再稼動などもあり得ないはずだ。
 更に言えば、これは震災からの復興だけにとどまらない。農民や漁民、地方や地域、沖縄や在日などを切り捨ててきたこれまでの「古い政治」からの転換をも意味するのではないか。
 この復興をそのような「古い日本」から転換に、新しい日本へと繋がる、その一つの契機にしたいものだ。いや、しなくてはならない。



主張

復興を新しい日本創造へ!

編集部


 震災復興と原発事故にどう対処するか、戦後復興以来のこの一大国事、一大危機への菅政権の対応に批判と怒りが集まっている。先の統一地方選での民主党の惨敗はその反映だったと言える。  何が問題なのか。それは、一言でいって、この一大国難に日本が一つになって立ち向かっているとき、それに応えるリーダーシップが発揮されていないからに他ならない。世界が驚嘆した震災に当たっての日本国民の連帯と助け合い、復興への飽くなき意志にどう応えるのか、日本の政治が問われている。

■大震災を招いた古い日本
 震災からの復興でまず問われるのは、今回の震災自体をどうとらえるかだと思う。  それと関連して、震災発生とともに識者、関係者から連発された「想定外」という言葉がある。本当にそうだったのか。869年、宮城県沖で起きた巨大地震、貞観地震に関する描写は今回の大震災そっくりだという。そして1896年、明治三陸大地震では最大38・2メートル、1933年の昭和三陸大地震では同じく28・7メートルの大津波が記録されている。この歴史的事実を前に5メートルの津波しか想定していなかった福島第一原発事故で「想定外」を口にすることは許されない。いや、原発だけではない。東日本大震災全体が十分に想定できた人災だった。「明治に15メートルの波が来た」という言い伝えからそれを超える防潮堤と水門をつくって津波をはね返した岩手県普代村はそのことを教えてくれている。  今回の震災を人災と見る根拠は他にもある。まず言われているのは安全性の軽視だ。これまで経済性が重視され、安全性は二の次にされてきた。原発を規制する原子力安全・保安院が原発を推進する経済産業省傘下に置かれていたこと自体がその象徴だ。  今回、大震災を招いたのは単に安全性軽視によるだけではない。そこには地方・地域の衰退があった。これまでの日本は、農林漁業や鉱業、地場産業などの振興が抑えられ、食糧、資源の対外依存とともに地域循環経済の衰弱が進行した。経済の新自由主義化、グローバル化は、産業空洞化など、それを一段と促進した。今や農漁業の高齢化と若年労働力の流出は地方・地域の荒廃を甚だしいものにしており、東北はその典型になっている。今回の震災による死者の55・2%が60歳以上の高齢者であった事実は、その実情を白日の下にさらけ出した。  震災への弱さと言ったとき、それは、外部、外需依存の経済のあり方にもよっている。震災以降、トヨタなど全国の少なからぬ工場の操業が停止し、欧米や韓国、中国の工場まで止まってしまった。その結果、今、部品調達の見直しが始まっており、それが部品供給基地、東北に及ぼす影響は深刻だ。また、東京など対外出荷に依存する農水産物の生産、販売が原発事故や遠距離輸送の破綻などで被っている痛手も大きい。地域経済の循環によるのではなく、外部、外需に依存するこの経済の脆さが震災の傷を一段と深めている。  今回の震災が人災である所以を見たとき、それらはすべて、これまでの古い日本のあり方によっている。経済性第一、地域崩壊、外需依存の日本だ。そして、これら古い日本の背景には、米国の利益、大企業の利益がある。  地震と津波の震災大国日本に、安全性を二の次に原発が54基も、しかも海辺につくられた裏には、核燃料、そして海水による冷却が必要な軽水炉の米国による独占的製造と販売がある。また、地方・地域の衰退、外需依存もそうだ。そこには、食糧や資源、そして商品販売市場を対米、対外依存させ、それを通して日本を統制・支配する米国の対日戦略があり、それと結びついて儲ける日本大企業の利益がある。新自由主義、グローバリズムは、それを労働市場の対外依存に至るまで極限化した。  国民国家日本は名ばかりだ。米国の利益、大企業の利益のために、国民の安全と利益が犠牲にされ、踏みにじられてきた。この米国のため、大企業のための古い日本のあり方にこそ、大震災を招いた根因があるのではないだろうか。

■国民のための新しい日本創造へ
 今日、大震災からの復興を語るとき、それは原発事故の収束を離れてはあり得ない。そして原発の見直しなどエネルギー政策の転換は、単純な復旧でない「創造的復興」の重要な柱の一つになっている。さらに住宅の高台への移転など「職住分離」や農業の大規模経営化など様々な問題が提起されている。
 その上で重要なのは、震災を古い日本の産物と見、震災からの復興をそのような古い日本からの転換、新しい日本の創造と見る見方ではないかと思う。大震災を招かず、逆にくい止める日本、すなわち、米国や大企業のためでない新しい日本の創造だ。
 それは、国民のための日本以外ではあり得ない。米国は大震災を招いた古い日本に利害関係をもち、大企業の多くも多分にそこに自分の利益を見ている。だが、国民はそうではない。経済第一よりも安全第一、東京一極集中よりも地域主権の地方・地域の全国的発展、外需依存よりも内需主導の日本を切実に要求している。
 今回の大震災は、そうした国民の要求、利益を現実の生活の中で生き生きと教えてくれた。被災民の多くが、避難所に行っても、それまでともに生き働いてきたコミュニティに集まり、コミュニティとともにあくまで自分の郷里を復興することを望んでいること、一旦東京に出た青年たちまでがこの大惨事を目のあたりにして故郷の復興を心に誓って出てきていること、日本国民皆が東北の惨状を自分のこととし、被災者たちの復興への思いに共感・共鳴し、一体になって助けていること、そして何より、原発事故のため、郷里に戻ることさえかなわぬまま、怒りと不安の中、じっと待機している人々、この国民、地域住民の郷土を愛し郷土とともに生きる心にこそ、二度とこのような大震災を起こさない、国民による国民のための新しい日本の姿が示されているのではないだろうか。

■コミュニティ主体、全国民の連帯と協力で
 復興を国民のための新しい日本創造へと推し進めるために、その体制はどうするか。
 この問題について、菅政権が出した「復興庁」構想に異論、反論がいろいろ出されている。その基本は、もっと東北主体の体制にということだ。「復興庁」が中央省庁出身者で構成され、霞ヶ関に設置されようとしているのに対し、東北6県の知事を主要メンバーに、東北の地に設置すべしというもの、等々だ。
 こうした中、クリントン国務長官、米商工会議所会頭連れ立っての来日があり、菅首相、米倉日本経団連会長との震災復興に関する会合がもたれた。何が話し合われたのか知らないが、もし、GHQ主導の戦後復興のイメージで話が進められたとすれば、これほど許し難いことはないだろう。
 「復興はどこまでも東北中心、被災地中心に!」。これは、今も被災民の仮設住宅暮らしが残っている阪神・淡路大震災の教訓だ。日米の協力関係も、あくまでこれに服従するものにならなければならないだろう。
 だからこそ、「復興の主体はあくまで地元」、これが重要だ。片山総務相なども、復興庁構想に疑問を呈しながら、「まず地元の市町村と県が将来のビジョンを描いた方がよい」と言っている。そこで注目すべきは、避難所などでも生活と行動の単位になったコミュニティだ。この組長を中心とするコミュニティを主体とし、それを県や市などが助け、国が助ける体制こそが、被災地中心の復興や孤独死防止、ひいては地域主権で地方・地域の発展を図るために一番よいのではないだろうか。
 20兆円を超える被害が出たと言われる今回の震災で、復興のための財源問題は深刻だ。今、財源としては、復興を名目とする増税、国債、基金などが言われている。どれも、未曾有の大震災への全国民的な連帯と協力が前提だ。そこで提起したいのは、カネのある者はカネを出し、力のある者は力を出す、日本が一つになっての大胆な積極策だ。大量の復興国債を発行して、カネ余りの大企業がそれを引き受けるようにし、それを財源にインフラ復興、地域循環経済復興など、大々的な内需復興経済の拡大を図り、それによる税収増で、増税なしに国債の償還を果たしていくことだ。この大企業までがともに進む全国民的な復興運動で財源問題を積極的に解決し、それを内需主導の国民経済の構築、ひいては国民のための新しい日本創造につなげていってこそ、リーダーシップというものではないだろうか。



 

朝鮮社会主義と東アジア(1)

京都総合研究所 佐々木道博


 昨年、私は「朝鮮経済は飛躍の道筋をつけた」との論文を発表したが、数多くの反響を得た。それに続いて、その一年後の経過についてここに記したいと考えるが、まずその論文から皆様には読んでいただきたいと考えます。文章の中には時間が一年経過しているため経済的数字の変化(例えば携帯電話普及数10万台と記しているが一年後今年の4月には70万台を超えていた。来年までには120万台予想ということである。急速な変化である)もあるが、基本的には同様の流れである。この論文以降、巨大なビナロン工場の建設と稼動があり、それに付随し、繊維製品と化学工場、肥料工場などがコンビナートとして同時に動き出してきている。朝鮮にある無尽蔵といわれる石炭を使っての繊維と化学工業が大きく花開いたのである。この肥料工場だけで年間60万トンの肥料生産が可能となり、食料問題が今年限りですべて解決できるという見通しとなったことが特筆すべきことである。こうした事態が示すように自国の資源に頼り、自国の独自の科学技術により基本問題をほとんど解決してきている。こうした自立経済への道筋をつけてきた朝鮮社会主義建設を再度検証してみたいと考える。筆者の見るところ、今後5年間で現在の韓国の生活レベルには追いつき、10年で世界の先頭に立つと充分予測できる情勢が現れてきている。こうした情況を伝えるとともに、中朝同盟対米日韓の国際情勢や、今後の東アジア情勢についても論考を進めてみたいと考えている。事態は驚くべきスピードで変化していることを我々は知らねばならないだろう。

 

朝鮮経済は飛躍への道筋をつけた

 私は過去1995年から訪朝を重ね、また2006年から2009年までは4回の訪朝とその度ごとに朝鮮経済学研究所所長李幸浩氏とのインタビューや討論を行い、各地の工場や農場、そして市場などを定点観測してきた。
李幸浩氏の論点を要約すると
 1980年代後半の経済最盛期であった時点まで生産と消費を回復させる。それが「2012年強盛大国への大門を叩く」ということである。(前回にも記した製鉄1000万トン、電力1000kwの生産能力、貿易40億ドル、そして食糧700万トンなどの目標である。貿易についてはすでに達成し韓国との貿易を含めれば2008年で57億ドルとなっている)
 2009年5月時点では、その目標の70〜80%まで達成しているということである。
 2002年に経済調整を行い、市場での日用品などの取引(商品)を認め、人民への商品供給(主に輸入品、食料品)を認めたが、これはいずれ、国内生産によって、日用品等の供給が確保されるようになれば随時縮小する。われわれは中国の改革開放政策はとらない。あくまで、社会主義経済を堅持するとの考えである。
 こうした論点に留意しながら2007年以降の経済情勢を見ていくと2006年の核実験成功以来2007年より労働新聞等三紙共同社説からもみてとれるが、軍事優先から経済再建へと大きく舵を切り換えていることがわかる。核とミサイルの実験成功により、防衛力については、アメリカに攻め込まれる心配はほとんどなくなり、経済再建に集中できる環境が整い、いままで先軍政治で相当部分を軍事に使ってきた資源も人材も資金も経済に集中的に投下されてきていることが明白である。
 また、2008年より中国やエジプト(オラスコム社)など海外企業との合弁事業も積極的に推進し、ガラス工場やセメント工場などに100億円単位の資金が投入されている。
 16年間、工事がストップしていた柳京ホテルも建設工事が再開した。2009年5月時点ではすでに全面総ガラスがはられていた。(高さ350メートル、105階建てビル)
 また、2008年にはオラムコムテレコムが約400億円投入し、携帯電話事業を開始し、平壌市だけで、1年で10万人が契約使用している事が報道されている。数年後にはエリアを全国に広げつつ、数百万人の契約者を目指し、その達成にも会社として自信を持っているとの事である。
 その他食品工場やビール工場などが次々と稼働し、2004年時点では市場で売れている日用品や家電製品の80%以上が中国製といわれていたが、2009年には半分程度にシェアが落ちてきたと現地で聞いた。
 政治的にもすでにアメリカには金融制裁やテロ支援国家指定の解除をさせたし、彼らは力の政治と対話の政治をうまく組み合わせながら一歩一歩果実を積み上げている。今後は朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に変えさせ、アメリカの「対北朝鮮敵視」政策をやめさせ、その上でアメリカや日本との国交を正常化させ、懸案の南北統一へ臨もうとしているのである。  特に2009年は朝鮮の経済再建において大きな出来事があった。
 150日戦闘そして100日戦闘と続き、その中で重工業や電力部門で、生産力が11%伸びたと政府報道されているが、その数字は事実であろう。
 ここ数年各地で中型、大型の発電所の竣工があいつぎ、現在さらに大型の水力発電所、火力発電所を建設中である。そうした産業基盤強化を元に、城津製鋼所において、コークスを使用せず(いままでほぼ全量を輸入していた)製鉄ができる新しい酵素溶解炉と製錬炉が完成し、実用化された。
 これにより朝鮮にある豊富な鉄鉱石と石炭だけで、大規模に製鉄が可能になったということである。この製鉄所だけで、生産が4〜5倍になるという。この鉄を称して朝鮮ではチュチェ鉄と命名されている。この快挙は金正日総書記が「第3次核実験を成功させるよりも偉大な勝利だ」と高く評価している。
 それ以外にも5軸制御のCNC旋盤の開発や1万トンプレスの開発などなどいくつかの分野で画期的な技術革新がなされているのである。これに鼓舞された全国の企業所では、様々な工夫や技術革新で今までにない成果をあげている。
 先日、1月15日付 毎日新聞で報道された記事によると、昨年4月に打ち上げられた人工衛星ロケット(日本ではミサイルと大々的に報道されたが、アメリカNASAのHPには人工衛星ロケットの試験であると認めていた)の推進力が6分間で高度265キロメートルに達し、日本のH2Aロケットとほぼ同様であり、1998年のテポドン1号(人工衛星)より推進力が8倍になっていたことが日本の北大の日置教授の研究結果として、昨年12月アメリカの学会で報告されたとのことである。
 日本のH2Aロケットも40年間の歳月と3900億円の資金を投入し完成させ、またEUも1.5兆円を投入し、アリアンロケットを開発した。朝鮮は、これとほぼ同じ能力をもつロケットを自力開発していたわけである。ロケットは素材から、燃料、エンジン、コンピュータなどの総合技術の塊であり、朝鮮の科学技術はこの10年間著しく進展しているとみるのが妥当である。
 日本では10年1日のごとく脱北や食糧難、経済混乱ばかりを報道しているが、まったく事実を見ようとしない、悪質かつ意図的なものでしかないといえるだろう。
 2010年の労働新聞など三紙共同社説では「人民生活を第一とする」というスローガンが掲げられ、軽工業や日用品の供給に全力を注ぐという方針が打ち出された。この数年間の重工業や電力生産にめどがつき、いよいよ日用品や住宅建築に注力できる態勢ができたということである。
 先年11月より断行したデノミもこうした一連の経済の動きの中にみることが必要である。1ドル=140ウォンという公定レートが、市場では1ドル=2800〜3000ウォンという法外な二重価格状態がここ5〜6年常態化していたが、これを正常化するためにデノミを断行し、一般人民から法外な収益をあげていた市場管理人や商売人に規制が入ったのである。政府としても若干の混乱は覚悟のうえで実行したのである。商品供給が不足していたので、それがほぼ自力生産の見通しができたことで、今回の断行に及んだのであろう。一般人民にとっては商品が安く買えるようになったので大歓迎であろう。一部の貿易で稼いできた商人や不正蓄財してきた人には打撃だったようである。また、今後、予想される海外貿易の増加に備えたものである。 そして1ドル=96ウォンという新しいレートが設定され、おしなべて1ドル=140ウォンの数年前と比べて25%〜30%切り上げとなっている。政府予算も25〜30%増となっているようであり、2007〜2009年の3年間でほぼ経済が25%〜30%増になったと私は結論づけている。
 2006年度アメリカCIAは朝鮮の一人当たりのGDPを1800ドルと発表し、韓国経済院は1000ドルあまりと報告している。中国内陸部や都市部でのGDP比較を30年前からみていた私の個人的な予測では朝鮮の場合、CIA予測の方がより実態に近いと思われ、2007〜2009年が25%〜30%伸びているので、現在約2500ドル程度ではないか。「2012年の強盛大国の大門を叩く」頃には3000ドルを少し上回っているのではないかと推測できるのである。
 以上見たように、朝鮮の経済はようやく飛躍の軌道にのり、これから大きく伸びる可能性があると私は見ている。1990年代半ばには生産稼働率が30%程度に落ち込み、崩壊もささやかれていたが、現在ほぼ75%〜80%へと回復しているようだ。これは朝鮮の努力が大きいが、中国の経済大国化も寄与していると考察される。この原稿を執筆中にニュースがとびこんできたが、韓国連合ニュースによると「先日訪朝した中国共産党の王家端党対外連絡部長が北朝鮮に対して、100億ドル(日本円9000億円)以上の投資計画を約束した。」と伝えている。いよいよ中国が6カ国協議の主導権を確保し、東アジアの安全保障を積極的にリードしてゆく姿勢のあらわれであろう。国連の特使訪朝もこれに関係し事実上の制裁解除ということである。
 日本も2002年100億ドルの戦後補償をバネに対朝鮮政策を構築していたようであるが、すでに日本もアメリカにもその力はないということか。
 先に述べたように、朝鮮のロケット推進力は「テポドン1号」が飛距離3000キロメートルといわれてきたが、この北海道大学の日置教授の研究によると推進力は約8倍になっており、単純に計算すると飛距離は24000q、アメリカのワシントン、ニューヨークは10000キロ余りであるが、それの倍以上をとばすことができるわけである。
 アメリカや日本はミサイル実験の失敗として報道しているが、アメリカの政府関係者や軍事専門家は皆知っていることであり、内心寒々としているのである。こうした情勢の下、朝鮮政府は余裕をもって、次の6カ国協議に臨み、自らの主張を最後まで譲ることはないとみるのが妥当といえるだろう。
 最後に―中国を中心とする(報道では中国60%その他40%)100億ドル投資が既成事実として進行するなら、現在の朝鮮経済への一層の追い風になることはあきらかである。また、別の角度から見て、この朝鮮式社会主義が成功するかどうかも今後の世界に与える影響も大きなものがあるだろう。世界の資本主義が完全に行き詰まりをみせている中で大いに注目されていいだろう。
今後とも朝鮮経済については一層の注視が必要だろう。

(2010.2.15記)


 
東日本大震災

3・11から一ヶ月

山茶花


 震災後の余震は1万余件。この文章を書いている今も建物は揺れている。そのたびに?満身創痍の福島原発を思う。今後、一カ月以内に東日本大震災の震源域の東側で、マ?グニチュード(M)8級の巨大地震が発生する可能性が高いという。
 こんな地震大国日本に、なぜ危険な原発を55基も作ってしまったのか?4つの巨大プレートがひしめき、世界の地震の1〜2割が発生する日本。広島、長崎の原子爆弾で苦?しめられたのに、なぜ自らの手で自らを放射能の被害にあうようにしてしまったのか?・・・ 考えれば考えるほどやるせなく、哀しく、怒りがこみあげる。

■レベル7
 1号機水素爆発以降も、テレビでは枝野官房長官、原子力安全委員会、保安院、東京電力が、「炉の中の健全性は保たれている」と強調し、原発推進派の御用学者・コメンテイターが「安全」を説き続けてきた。水素爆発で建物が吹っ飛び、炉心が露出し、それを冷やそうとして水を注入しても水位が上がらないという異常事態は素人でも放射能が大気に放出され、汚染水が海に流れ出ているということだと分かる。
 一番心配だったのは福島周辺の被災地の方々のことだ。よく、自衛隊員が被災地の人の救助で地域をまわる映像が出たが、放射能防護服に身を包み頑丈なマスクをしている自衛隊員とマスクもせずにいる現地の人の姿が対照的だった。色も臭いも無い見えない放射能に対して「ただちに健康に影響を与えるものではない」という政府の言葉を信じているからだろう。
 4月12日、福島原発事故の評価がレベル7に引き上げられ、「事故の様相は違うとはいえ、放射性物質の放出量から見てチェルノブイリ事故に匹敵する、あるいは超えるかもしれない事故になったことを重く受け止めている」(東電)と報道された。
 これに対して福島の人々は「安全だと言い続けてきて今度は想定外と言い続けている。はらわたが煮えくりかえる思いだ。この事故で何百万人もの人に迷惑をかけているのに、今さらごめんなさいでは済まない。2度目の爆発のときからものすごく大変なことになっているというのは分かっていたはず。村は振り回されているし、俺たちも相当被曝(ひばく)していると思う」(無職Sさん)と怒りをぶちまけた。
 ちなみに欧州放射能危機委員会の試算では今後50年で福島第1原発半径200km圏内で被爆した人の41万7,000人が癌になるとの予測。NHKもICRPの基準を元に今後三ヶ月の汚染で東京都内で発生する発癌増加率は人口に対して0.02%(首都圏全域だと6000人)の増加と発表。 たった3ヶ月の汚染でこれだけのガン増加とすれば、今後、何年も放射能と付き合わなければならないといわれているのに一体どうなるのだろうか?

■言論統制とネット
 明らかに政府は言論統制を行っていた。3月12日に保安院の中村幸一郎・審議官が、「(1号機の)炉心の中の燃料が溶けているとみてよい」と記者会見で明らかにしたが、「菅首相と枝野官房長官は、中村審議官が国民に不安を与えたと問題視し、もう会見させるなといってきた」(経産省幹部)と、審議官の"更迭"を命じ、その後保安院の会見に中村幸一郎審議官は登場しなくなった。
 日本国民はあの震災時にも冷静な対応で世界から絶賛された国民だ。真実の報道、正しい政策があれば冷静に対応できるはずだ。むしろ正しい情報がない=政府を信じられないがゆえに、「自分のことは自分で守るしかない」とむやみな買いだめにも走る。
 政府やマスコミが曖昧にすればするほど、ネットやツイッターでは情報が流れ、テレビでは語られない本音が叫ばれた。
 「この狭い国土の地震大国に次々に原子力発電所を建て続けたのは、電力会社と結んだ自民党政権。なぜ自民党の罪を問う声が起こらないのかふしぎだ。?大手広告主の電力会社の顔色をうかがって、原発の危険性に目をつぶってきた大手マスコミも同罪である。」「戦時中の流言飛語の取締り。『戦争を早く止めてもらいたい』と言って禁固四ヶ月等々。以前読んだときは、なんて馬鹿な国だったんだと笑っていたけれど・・・今や笑えなくなりつつある。」「反対って言うと、芸能界で仕事干されるんです、御存知でした?でも言ってやります、反対!?皆さんは、原発賛成?反対?原発賛否のアンケートとってみません?」
 4月10日(日)、東京・高円寺の『4.10?原発やめろデモ』が行われた。たった10日前のツイッターの呼びかけで、主催者の予想をはるかに超える1万5000人が参加する大きなデモとなった。しかもこれに呼応し国内で8都市、海外では6か国12都市でも同じ日にデモが行われた。
 そんな人々の中には、「・・・原発の危険性を言う人は、危険をあおっていると、世の中は叩く傾向にあるようで、これは何かおかしい流れだと思う」と自身のブログで語った藤波心さんや、自身のヒット曲「ずっと好きだった」を反原発の詩「ずっと嘘?だった」に替えてネットで流した斉藤和義さんに共感する若い人々も沢山いただろう。

■今こそ、知恵を集めて
 4月15日、毎日新聞ニュースに目を疑った。菅首相が発足させた東日本大震災復興構想会議が14日始まったが、なんとそこで首相が議論の対象から原発問題を外すよう指示したというのだ。当然、参加者から「原発問題を考えずには、この復興会議は意味がない」と意見が出たが、管首相のダメさ加減には言葉がない。賛否の割れる原発問題だから避けたと思うが、今早急の根本問題なのだから、しっかり踏み込み、日本の今後を考え牽引するのがリーダーではないか。全国民が、とにかく一刻も早く原発事故を終息して欲しいのだから。
 「オール日本で」「チームジャパン」と叫ばれている。今、これを本当の意味でやってほしい。そもそも、原発の危険性を訴えてきた優秀な科学者、技術者、ジャーナリストを無視し徹底的に排除してきた結果が今日だからだ。
 実際に福島原発を設計し一番よく知っている技術者、原発反対派の人々、地域で地道に環境問題に取り組んできた人々を参加させて、最善の策で、一刻も早く原発を止めてほしい。そして世界が羨む日本創造のために取り組むべきと思う。今、反原発の人々の中で?は、単に反対するだけでなく、放射能で汚染された福島をどうするかという視点から、土壌に稲を植え、放射性物質を稲に吸収させ、その米を蒸留して焼酎やエタノールにする案や、足りない電力を様々なバイオマスエネルギーで補う案など積極的に考えられているという。いつまた巨大地震による惨禍が起きてもおかしくない日本、一刻を争うと思う。



コミック批評

白竜―Legend―

水樹連太郎


 成人コミックの中で任侠物を扱った作品は相当の数に上るだろうが、この白竜はかなり異彩を放っている。絵コンテが丁寧に描かれているのも特徴であり、アクション場面も迫力いっぱいに映し出されており、人物の表情も実に細かい。だが、何よりも主人公の策略と行動力が他の任侠コミックと大きく違って図抜けていると言えようか。
 東京・渋谷に活動拠点を置く新興暴力団「黒須組」。だが、わずか40名の構成員のこの組を実質的に率いているのは、組長の黒須ではなく、白川竜也こと「白竜」である。
 組織内では若頭の地位にあるが、驚くほどの英知と「読み」に長けており、組長はじめ組員からの絶大なる信頼を得ている。初巻から圧倒されるのは、渋谷から拠点を六本木に移す展開からである。六本木ヒルズに象徴される巨大ミッドタウン・六本木。しかし、そこにはすでに組織構成員8千人を誇る、関東最大の暴力団「王道会」の事務所があり、完全に六本木を仕切っているのである。夜の六本木のスナックで、単身で堂々とグラスを傾ける白竜とはち合わせ、因縁をつける王道会組員に身じろぎもせず、足元に弾丸を撃ち込む百竜。度胸と格の違いを見せつけるが、その場は颯爽と立ち去る。やがて黒須組事務所開きの当日、本当に無事ですむのか、シノギも命あってのものだろうと問い直す組長に対し、知将・白竜は応える。「俺たちは死ぬために来たんじゃなく、生きるために来たんです」。さらに、8千人を向こうに回して勝算があるという。そして王道会理事長が直々に事務所に「アイサツ」に来ると知った時は、黒須組長にこう言い放つ。「全て私が仕切らせて頂きます」。やがて来る王道会理事長の、六本木からの「撤退命令」にも、一歩も退かない知将・白竜。
 暴対法下の抗争はゲリラ戦であり、組の大小が強さではなく、無期懲役を覚悟に、何人の鉄砲玉を持っているかだと主張する白竜。捨て身の組員の質なら組長の元に結束する黒須組が勝る、やってみますかと迫る姿にたじろぐ王道会理事長。
 その迫力に押され。「他人のシマに土足で踏み込む、筋違いの行為だ」と言い張る王道会理事長に、何と先に土足で踏み込んだのは王道会だとつめ寄る白竜。実はこの展開も読んでいた彼は決定打のカードも用意していたのだ。これに反論できなくなった王道会理事長は黒須組の六本木進出を認めざるを得なくなり黙って引き上げてゆく。この一日で六本木の勢力地図は完全に塗り換わってしまう。実に見事な戦略に長けたカシラだ。
 ある時、知将・白竜は世の中にはヤクザ以上に悪党がいると言い放ち、それは企業だという。そしてターゲットは日本最大の私鉄会社「西都グループ」の「王国の闇」に向けられる。伝説の老総会屋が西都鉄道社長に株取得をした挨拶に訪れただけで気前よく1億を差し出した。その話を老総会屋の書生から聞いた黒須組のメンバーは、早々、カシラの白竜に報告する。知将の勘が大きなシノギを引き寄せ、「西都の心臓と引き替えに巨額を引っ張り出してやる」と断言する・・・。この章でも圧巻なのは、巨大グループ企業のトップを追い詰める、白竜の大胆な知略と行動力である。不正の証を握られまいと、手段を選ばず攻撃する西都の手口も全て見透かす白竜の前にはお手上げの状態に陥る。クライマックスにさしかかる交渉では、200億の口止め料でさえ断る知将の心理戦が更に冴えわたる。
 さて現在も連載中のこの作品だが、今回の白竜の矛先は原発である。だが不思議なことに、3月11日の東日本大震災の2週間前から原発の安全を揺さぶる百竜が、現地へ乗り込んで地元の関東電力の闇に触れるあたりで、あの津波震災が発生した。しかも、その後の号は「過去の名場面」にいまだにすり替えられたままである。一体、何があったのか? 知将・白竜の追及が、政府や東電(関東電力)もよほど怖いのだろうと思われる。機会があれば是非一度読んではいかがだろうか。クールではあるが決して冷酷ではない彼に、女性ならずも魅力に惹かれると思う。締めに,舎弟のケンジが白竜に対する信頼のセリフと、白竜がケンジに教えるセリフを聞いて頂きたい。
 「カシラならやる・・。やるといったら必ずやるお方だ!」
 「ケンジ・・。命を捨ててかからなきゃ道は拓けないんだ!」


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