研究誌 「アジア新時代と日本」

第90号 2010/12/5



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

主張 現代の「黒船」、TPPの正体

研究 沖縄知事選が訴えるもの 「戦時の安保」ではなく、「平和時の安保」を

時評 緊迫する北東アジアをどう見るか

世界短信




 

編集部より

小川淳


 朝鮮半島を巡って3月黄海で起きた「天安艦事件」、今回の延坪島砲撃と不可解な事件が続いている。「天安艦事件」では北の関与を示す決定証拠はなく、捏造か事故だったのか、疑惑はますます深まりつつある。しかし今回の砲撃は紛れもない事実だ。なぜ朝鮮は砲撃したのか。さまざまな憶測が乱れ飛んでいる。朝鮮戦争は終わっていないこと、単なる「停戦状態」に過ぎないことが改めて思い知らされる形となった。
 金大中政権下のような南北和解の雰囲気があればこのような衝突は起きなかっただろう。しかし今の李明博政権のような敵対的雰囲気の中ではいつ偶発的衝突が起きてもおかしくない。とりわけ黄海上の休戦ラインは南北間で確定されておらず、南北が洋上で衝突を繰り返してきた紛争多発地である。李政権がそれを知って、あえてここで演習を行うとは、衝突が起こりうることを予見したものであり、衝突が起きても構わないという意思表示とも言えた。
 金大中や慮政権下の南北融和に反対し、敵対と緊張の激化を望んでいるのは誰か。南北統一の歴史的な流れに逆行して登場した李政権が、あえて北の警告を無視して休戦ライン以北で演習を企てたとするなら、挑発したのは朝鮮側ではなく、李政権側と言えるのではないか。先の天安艦事件では、あれだけの犠牲者を出したにもかかわらず、国内世論は冷静で、地方統一選挙で李政権は敗北した。しかし今回は民間人の犠牲者が出たことで世論は北に対してこれまでになく厳しい目を向けている。北との緊張が高まれば高まるほど米韓同盟は強化され、国内の支持率も高まり、李政権の基盤は磐石となる。
 延坪島砲撃事件の直後に行われた沖縄知事選では仲井真知事が再選を果たした。普天間県内移設反対を掲げて闘った伊波候補とは僅差となった。仲井真知事は今回は反対しているが、自公政権下で普天間基地県内移設を容認した張本人だった。なぜ仲井真だったのか。民主支持者の3割、無党派層の5割の票が仲井真知事に流れたという。勝敗を分けたのは僅差だった。もし今回の砲撃事件がなかったら無党派層の票が伊波候補に流れた可能性は高い。砲撃事件後の南北対立の激化、朝鮮半島有事への不安が安保容認派の仲井真への追い風となったのは明らかだ。単なる偶然であれば、絶妙のタイミングで起きたことだけは確かだ。



主張

現代の「黒船」、TPPの正体

編集部


 突如と現れた「黒船」、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)という名の現代の「黒船」が騒がれている。「開国」を迫るこの通商協定が日本の経済、いや国のあり方にまで及ぼす影響はきわめて大きい。今、激しい論議を呼び起こしているTPPとは何か、その正体について考えてみたい。

■現代の「黒船」が迫る「開国」
 TPPが現代の「黒船」と呼ばれるのは、米国から押しつけられてきたこの通商協定が「例外なき関税撤廃」を原則とし、「開国」を迫ってきているからだ。
 従来の通商協定では、関税及び非関税障壁で自国の産業経済を守るのは当たり前の前提とされていた。また、このところ主として二国間での締結が世界的範囲で進行してきているFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)などにおいても、関税及び非関税障壁の撤廃が掲げられながらも、その一方、加盟国の国情を互いに配慮した様々な例外が設けられている。
 この「例外あり」と「例外なし」の違いは大きい。それは本質的な違いだと言っても言い過ぎではない。前者が主権国家間の相互尊重に基づく側面を多分に持っているのに対し、後者が主権国家否定のグローバリズムに全面的に基づいているからだ。
 幕末の「黒船」は、「開国」を迫りながらも、日本の主権を完全に無視することはなかった。しかし、現代の「黒船」は違う。日本の産業経済を守る主権の行使を認めない。TPPが迫る「開国」を「第三の開国」と呼ぶのはそのためだと言ってもよい。明治、そして戦後と時代の推移とともにその都度一層甚だしくなってきた主権の制約と剥奪は、今や、その極致に至っていると言うことができるだろう。
 主権否定の「開国」、TPPの是非を問う論議が深刻の度を深めているのは余りにも当然だ。

■TPPは経済そのものを破壊する
 今、TPPで問題にされているのは何よりも農業の破壊だ。事実、三重県の試算によれば、TPPの締結により県内農業生産額は半減するようになるという。コメなどはほぼ壊滅的な98%減だ。コメ778%、牛肉38.5%などの関税で保護されてきた日本農業は、「例外なき関税撤廃」によって壊滅の危機に瀕している。
 これに対するTPP賛成派の見方は冷たい。前原外相などは、「GDP1%にも満たない農業のために産業全体を犠牲にしてよいのか」とまで言っている。GDP3・4兆円の押し上げが期待できるTPPのため、農業は犠牲になってもらうしかないということだ。言い換えれば、国際競争力の低い農業や地域産業、中小企業などは、淘汰されても仕方がない、その代わり、競争力が高い自動車や電機など外需産業が大企業を中心に復興し、それが日本経済を泥沼の停滞から脱却させられるなら、それでよいではないかということだ。
 その一方、農業の国際競争力を高めるための論議が盛んになっているのも事実だ。菅政権なども、農業の競争力引き上げのための改革を提起し、そのための会議を来年度計画の目玉の一つに掲げている。農産物の高付加価値化や農業の大農経営化、等々、様々な競争力強化策が花盛りだ。
 すべては競争が解決する。これまでお荷物だった農業問題も、競争の試練の中で解決すればよい。「例外なき関税撤廃」によるボーダレスな世界的大競争、それが舞台だ。
 だが、ちょっと待て。この「大競争」のセリフは以前聞いたことがある。その結果があのリーマン・ショックであり、その後の泥沼の経済停滞だったのではないのか。それなのに、その「大競争」に「例外なき関税撤廃」で拍車をかけ、経済のグローバル化、新自由主義化の徹底化を図ることが問われていることだと言うのか。
 そうではないだろう。そんなことをすれば、リーマン・ショックに輪をかけた金融大恐慌が起こり、今の経済停滞にも増した泥沼の世界大不況に陥るだけではないのか。
 実際、例外なき関税撤廃を原則とするTPPが生み出す経済の不均衡は決定的だ。競争力の低い農業、地域産業、中小企業、等々の崩壊は何を生み出すか。それは、産業や地域、企業間の格差と不均衡のさらなる拡大だけではない。それは何より、膨大な失業者の大群と所得格差、貧困の拡大を生み出し、さらにはこうした経済総体の著しい不均衡の中で、市場の縮小と金余り現象、経済の金融化、投機化がリーマン・ショック時にもましてさらに広く深く一気に進行する。それが「百年に一度」と言われたあの金融恐慌とそれに続く経済破綻、泥沼の停滞をもはるかにしのぐ、未曾有の経済の破滅を引き起こすのは目に見えているのではないだろうか。
 TPPが生み出すのは、経済そのものの破壊に他ならない。泥沼の経済停滞の中、景気の二番底、三番底が言われ、さらには現在の停滞が底なしの景気下落の単なる踊り場にすぎないと言う人まで出てきている今日、TPPはこの経済危機を救う「救世主」になるどころか、危機に拍車をかける経済の徹底した「破壊者」になってしまうのではないだろうか。

■米国による覇権維持の道具、TPP
 例外なき関税撤廃を原則とするTPPは、保護主義にもっとも徹底的に反対するものとして、80年前、大恐慌から関税引き上げ合戦によるブロック化、そして第二次大戦へと進んだ歴史の教訓に基づいているかのごとく言われている。
 こうした見解に対して、慶大の金子勝教授は、NHKのビジネス展望で米国による「新たなブロック化」なのではないかと異を唱えていた。すなわち、太平洋周辺の20カ国以上の国々を対象とするこの多国間通商協定が、東アジア共同体や南米諸国連合といった地域共同体に米国が関与し、覇権を行使していくための道具としてその妥結が狙われているのではないかということだ。
 今日、形成されている地域共同体は、80年前、帝国主義によってつくられたブロックとは本質的に異なっている。後者が帝国主義による覇権抗争の産物だったのに対し、前者は米国による世界支配に反対し、主権尊重、脱覇権のためにつくられたものだ。
 米国の覇権にとって、この地域共同体は大きな脅威だ。米国の支配権、覇権の傘が及ばない主権尊重の交易圏、通貨圏ができ、安保圏が生まれてしまう。そして、今それは確実に、実体をともなって成長してきている。
 その米国にとって、太平洋は重要な「足場」だ。これを口実にアジアや中南米に関与し、それぞれの地域共同体を突き崩していく。これまでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を通してアジアへの関与を追求しながら、これといった成果を上げてこれなかった米国は、今日、TPPを掲げこれに日韓を引き入れ、中国の加盟も誘って、新たな米国主導の無関税「共同体」をつくり、それによる東アジア共同体の有名無実化を図っている。
 農業問題から関税撤廃のFTAへの参加を見合わせてきた日本に対し、韓国をTPPへ誘い、韓国との競争に後れをとる心配につけ込んで、経済停滞に苦しむ日本にTPPへの加盟を迫る、この余りに露骨な現代の「黒船」外交にこそむしろ米国の苦境が露わになっているのではないだろうか。

※      ※      ※

 米オバマ政権は、来年秋のTPP妥結を狙っているという。その成否を分ける鍵は、経済大国日本を加盟させられるかどうかにある。そこで問われているのが菅政権の動きである。
 戦後65年、日本は米国の覇権の下、その手先として覇権に生きてきた。しかし、今日、米国の覇権が弱まり、その崩壊が明らかになっている今、あくまでも米国にしがみつき、その手先として覇権に生きるのか、それともそうした古い生き方自体を見直すのかが問われている。TPPはそのもっとも切実な試金石の一つだと言える。
 この間、菅政権は、天安鑑問題、尖閣諸島問題、そして延坪島問題と、米国の意思に忠実に、そのアジア覇権戦略を支えてきた。今、このTPP問題でも、手先としての同じ行動をとるのかだ。
 これは、日本の運命に関わる問題だ。どこまでも米国の手先としての道を選択し、日本を経済破滅の運命に落とし込めるのか、それとも、主権を立て、日本を破滅させるTPPに断固反対して、東アジア共同体に依拠し、国民経済の均衡的発展を支える新しい通商貿易体制の構築を追求するのか、運命の選択が問われている。覇権か協調か、競争か協力か、政治と経済、国のあり方自体の根本が原理的に問われてきている時代の転換点にあって、選択の誤りは許されない。



研究 沖縄知事選が訴えるもの

「戦時の安保」ではなく「平和時の安保」を

魚本公博


■僅差の大接戦
 11月28日に行われた沖縄知事選は現職の仲井真氏が伊波氏の猛追をかわして当選した。得票数は、仲井真氏の33万票余に対して伊波氏29万表余、その差3万8626票という僅差だった。
 この選挙戦が注目されたのは、普天間基地の移転をめぐって、「国外移転」を主張し「日米安保の見直し」にまで言及してきた普天間基地をもつ宜野湾市の伊波市長が「県内移設は受け入れない」「政府との話し合いにも応じない」ということを掲げて立候補したことによる。
 伊波氏が知事になれば、辺野古移設が不可能となるだけでなく、日米安保見直しによる沖縄の米軍基地の是非をめぐる論議にまで進む可能性があった。これは「安保堅持」の日本政府にとって由々しき事態であったし、日米安保に反対する人々にとっても大きな関心を払うものとなったからである。
 伊波氏は選挙戦が終わった28日夜、記者団に「革新の私たちを支持してくれている県民の思いは相当強かったし、運動も進展していた。結果は信じられないが、訴えが十分には届かなかった部分もある」と述べた。1月の名護市長選、5月の辺野古移設反対の大県民集会、9月の名護市議会選挙での移設反対派の躍進などで示された県民の思いの強さは健在であり、急な立候補にもかかわらず、運動は進展し「猛追」と言われるほどの追い上げを見せた。まさに僅差の大接戦。この僅差の大接戦を分析する中でこそ、今回の沖縄県知事選のもつ意味が浮かび上がるのではないか。

■ボカされた争点、民主の自主投票
 今回の沖縄知事選の焦点は、周知のように普天間基地の辺野古移設をめぐる問題であった。元々、仲井真氏は辺野古移設を容認していたのであり、選挙では、これを容認するのか反対するのかが争点になるはずであった。ところが仲井真氏は「県外移設」を掲げた。そして選挙戦ではできるだけ、その話題に触れないようにしたという。これで争点がボカされてしまった。そうなれば、沖縄の経済振興を掲げ中央とのパイプの太さを強調する「現職の強み」が発揮されたのは当然なことであったろう。
 その上、民主党は、独自の候補を立てることなく自主投票にした。
 これは、「日米安保堅持」であり、「日米共同声明(5月28日)履行」を米国に約束する菅政権は、「伊波では困る」ということで、民主党県連や沖縄の民主党支持層の伊波支持の意向を押さえつけて「自主投票」にしたものであり、実質、仲井真氏を支援するためのものであった。民主党政権は、一時中断していた「沖縄政策協議会」を再開するなどして、仲井真氏の「経済振興策」への協力姿勢を示し、県連の動きをけん制して仲井真氏を助けた。これによって、民主支持層の3割が仲井真氏に流れたという。
 民主党沖縄県連の山内末子県議は「沖縄を変える大きなチャンスに、一番やらなくてはいけない民主党が自主投票で全力を出せなかったことが大きな敗因の一つ。民主党がもっとやっていれば勝てたのではないか」と涙ながらに語っている。

■「戦時の安保」を煽る「尖閣」と「延坪」
 その選挙戦の最中に「延坪島砲撃事件」が起きたが、尖閣諸島での「紛争」から続く一連の周辺海域での「紛争」「事件」も仲井真知事への追い風になったようだ。
 「国内移設は受け入れない」とする伊波氏の主張は、冷戦が終わった今は、「冷戦時の安保」ではなく「平和時の安保」が必要なのだという氏の持論に基づいている。ところが、東シナ海で起きた一連の「事件」は、「冷戦時の安保」を通り越して、「戦時の安保」の必要性が浮き彫りにされることになった。これが仲井真氏に有利に働いたことはいうまでもない。
 これについては、英国の「フィナンシャル・タイムズ」紙も、「北朝鮮が韓国の島を砲撃して死傷者を出したことによって、日曜の選挙(沖縄県知事選)の重要性が浮き彫りにされた」と指摘している。
 延坪島海域に引かれた北方限界線は、朝鮮戦争停戦後に米韓が朝鮮の沿岸に深く入り込む形で勝手に引いたもので朝鮮はこれを認めておらず、当然のこととして陸地の軍事分界線を延長した海上軍事分界線を主張している。それ故、今回の軍事演習に対しては自国領海を侵犯するものとして断固たる措置をとることを再三警告してきた。
 それにもかかわらず、その警告を無視し、軍事演習を強行した韓国側は、今回の結果を十分予測していたはずである。そして、それは沖縄知事選において、米国として、ほくそ笑むべき結果を生んだ。尖閣諸島での「紛争」が「尖閣諸島は日米安保の対象」という合意を引き出したのに続く、米国にとって大きな「成果」であったことは間違いない。
 となれば、こうした「事件」の背後には、米国があることを見なければならないのは当然なことである。韓国軍の統帥権は米国が握っており米国の指図・承認なしに、かかる軍事演習は行えない。また、尖閣諸島の「紛争」を主導し、これまで「穏便」にすませていたものを強硬な漁船追い出しに変更させて衝突を引き出し、漁船を拿捕し船長逮捕にまでもっていったのは、日本のネオコンといわれる前原外相だ。
 その前原外相は知事選の結果も出ていない17日に「誰がなろうと『日米共同声明』を履行する」と高言している。それは、まさに沖縄県民の声、日本国民の声よりも米国第一と考える者の沖縄県民、日本国民への挑戦的な発言と言わざるをえないものだ。
 日本の外交防衛政策は、こうした者たちによって、東アジア事態に対応する米国の「懲罰的抑止力」に追随する「抑止力」体制として、日米韓三角軍事同盟として、まさに「戦時の安保」へと転換されようとしているのだ。

■沖縄県知事選が訴えるもの
 様々に不利な状況が作り出されていった中での僅差の大接戦。それは、沖縄県民が「平和時の安保」への見直しをいかに強く望んでいるかを如実に示しているのではないだろうか。
 伊波氏を支援した辺野古がある名護市の稲嶺進市長は「残念な結果に終わったが、仲井真さんをそれまでの立場を変えざるを得ないところまで追い込んだ。今後は日米両政府に対し、県と名護市が立場を一つにして共闘していきたい」と語っている。
 仲井真知事も、これだけの注目を浴びた中で「県外移設」を公約した以上、おいそれと辺野古移転を認めるわけにはいかないだろう。さりとて、県外移設も難しい。共同通信と加盟新聞社が行ったアンケート調査によれば、全国の都道府県知事と市区町村長の78%が政府から受け入れ要請があっても、「検討する意思がない」と回答している。
 それは沖縄県民だけでなく、日本国民全体が米軍基地に反対であることを示しており、日米安保の見直しが避けて通れないものであることを示している。
 そうであれば、安保堅持勢力は、ますます「冷戦時の安保」から「戦時の安保」への見直しを煽るための様々な動きを仕掛けてくるだろう。すでに沖縄近海での大規模な日米合同軍事演習が始まろうとしているし、新防衛大綱などでは、西部重視が盛り込まれ、尖閣諸島に近い先島諸島や与那国島への自衛隊配備が取りざたされている。
 しかし、それは脱覇権の時代の流れに逆らう者たちの愚かな行為であり、そこに日本の未来はない。
 今問われているのは、「冷戦時の安保」から「戦時の安保」への見直しではなく、「平和時の安保」への見直しである。それこそがアジアと共に平和と繁栄を築く脱覇権時代の日本の進むべき道ではないだろうか。
 今回の沖縄知事選は、まさに「戦時の安保」ではなく「平和時の安保」への見直しを日本政府、米国に訴え突きつけたのだ。
 伊波氏は、知事選が終わった夜、「仲井真候補は、ぜひ県外移設を実現してほしい」と訴えながら、支持者を前に「私たちは米国の召し使いではない。県民が誇りを持ち、沖縄の問題を主体的に解決することが大事だ。今後も解決に向け挑戦するし、いつか私たちが勝つだろう」と述べている。
 その言葉は、本土を含めた私たちすべての日本人が共有しなければならないものではないだろうか。


 
時評

緊迫する北東アジアをどう見るか

編集部


 11月23日、南北休戦ライン(NLL)の南沿いにある韓国の小島「延坪島」に朝鮮人民軍が砲弾を撃ち込み、民間人が犠牲となった。朝鮮戦争停戦以降、軍同士の衝突はたびたび起こっているが、民間人居住地域への攻撃はこれまでなかっただけに、韓国内は無論のこと、日本にも大きな衝撃を与えた。
 オバマ大統領は「言語道断の挑発的行為」と糾弾。横須賀を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントンを急派し、最大規模の米韓軍事演習を黄海で実施した。12月5日からは韓国軍による全土の砲撃訓練も開始され、朝鮮半島はこれまでになく緊迫の度を強めている。
 半島の緊張は北東アジア情勢ばかりか、日本の政治にも決定的な影響を及ぼす。沖縄の反基地、安保見直しの闘いも、労働運動や9条護憲の闘いも、もし朝鮮半島で軍事衝突が起きれば一瞬に吹き飛ぶばかりか、米軍基地のある日本も確実に戦場となる。

■緊張を望んでいるのは誰か
 まず確認したい事は、朝鮮半島の緊張激化を望んでいるものは誰か、ということである。ほとんどの主要メディアの報道は、今回の延坪島への砲撃を「北朝鮮による軍事的挑発とみなす」ことで一致している。しかし朝鮮は米韓との緊張激化を望んでいるのだろうか。
 メディアの分析を綜合すると、アメリカを交渉のテーブルに着かせるためだとする説が有力だ。しかし軍事的挑発すれば懲罰や制裁を招くだけで米国が交渉に乗り出すどころか交渉はますます遠のく。後継者に決まった金正恩氏の軍事的業績を作るため?という説もあるが、それがなぜ後継者の軍事的業績となりうるのか。その納得のいく説明はない。これらの分析にあまり説得力がないのは、「緊張を望んでいるは朝鮮側であり、だから挑発したのだ」という前提が間違っているからではないだろうか。
 事件の経緯はこうだ。今年3月に発生した韓国哨戒艇沈没事件(朝鮮の関与を否定する主張が相次ぎ、国連安保理も名指しの非難決議を採択できず)を口実にした米韓合同軍事演習が強行され、実弾が使用された。朝鮮はその度に「我々の領海への実弾発射は直ちに止めよ。さもなければ報復せざるを得ない」と警告を発していた。事実、今回は朝鮮側が認めていないNLLラインの北側でこの警告を無視して実弾が使用されたことで、警告どおりの報復射撃となった。このような経緯に対する報道はほとんどなされておらず、一方的に朝鮮はけしからんという感情論がメディアを支配しているのが現状だ。

■経済再建へまい進
 いま朝鮮が必要としているのは朝鮮半島の平和と安全だ。なぜなら「強盛大国」に向けて今一番力を注いでいるのが国内の経済建設だからであり、そのためには緊張ではなく平和が必要だからだ。
 経済建設を巡っても実は見方が二つあって、朝鮮は経済改革に失敗していまや苦境のどん底にあり外国からの支援を得るために「瀬戸際外交」に踏み出しているのだという見方と、そうでなく経済建設は相当に進んでいて、確実に「強盛大国」に向かっているという見方の二つである。延坪島砲撃を「北の挑発」と見るメディアは当然にも朝鮮経済は苦境の中にあると見なしている。しかし、今年に入って現地を訪れたジャーナリストのいくつかのレポートはそれとは違った見解を示している。例えば成田俊一「『自給自足国家』へ向かう熱気」。「週刊金曜日」10/29日号がそうだ。
 「この国はいま、猛烈な勢いで経済改革を進めている。今回の取材先でその勢いを最も示していた生産現場が大同江タイル第一工場だ。瓦や外装、床タイルなど国内で使用する建設資材を生産。東京ドームなら10個は造れるというほどの広大な敷地に24時間3交替で約2000人の従業員が働く。生産規模もさることながら、原料となる鉱石や土、砂などはすべて国内から供給し、コンピューター集中管理による一貫生産ラインが敷かれている」
 「飼育数一万羽というダチョウ牧場とその周辺に広がる有機農地では肉と野菜の循環型生産が進んでいる。また広大な土地を整理して作ったという果樹園は、今年初めてりんごや果実を収穫した。いまこの国の食料生産力は食品ごとに生産規模の拡大と寒冷地でも生産できるバイオテクノロジーを導入し一気に近代化農業の領域に入っている」という。
 朝鮮の経済改革がいま軌道に乗りつつあることの背景を、06年から7回訪朝しているという経済人はこう分析している。
 2006年に核実験とミサイルの実験があって、それによって各国から相当な批判を受けて、制裁もなされたが、朝鮮の立場から言うと、戦後60年続いたアメリカの圧殺策動から、ようやく対抗できる自分たちの自衛力ができたということで、それまでの10年間の先軍政治の中身と変わっている。それまでは優秀な人材や大量の資金、資材を軍事部門に回さざるを得なかったが、核とミサイルを持ったことで金や人、特に軍人を経済建設に大量に投入できるようになっている。16年間とまっていた「柳京ホテル」も今年行ったら裏も表も総ガラス張りになっており、あと1、2年で完成する。巨大な化学プラントのビナロン工場も今年3月に新たに運転が始まった。コークスを使用しないで鉄鉱石と石炭だけで鉄をつくる技術も開発され、製鉄所も稼動している。いろんな形で20代,30代の若い技術者が経済を先導しながら新しい形の経済建設に邁進している。ここ4年間ずっと見ているが、日本で考えるよりもずっと早いスピードで経済の方が伸びてきているなという感じを受けている、というのだ。

■朝中は新たな同盟へ
 もう一つの要因は中国の存在だ。金総書記は今年8月末に東北三省を訪問し、長春で胡錦涛主席と会談し、その宴席で次のような演説をしたという。
 「金日成主席は青年時代にここ東北の地で中国の空気と水を飲み抗日の決戦を繰り広げられたし、その過程で中国の老革命家たちと一緒に断とうとも断つことのできない朝中親善の輝かしい歴史と伝統を作られました。今日の複雑な国際情勢の中で朝中両国の革命の先輩たちが高貴な財宝として譲って下さった伝統的な朝中親善のバトンを後代に上手く譲り渡して、それを代を継いで発展させていかせることは、我々が負った重大な歴史的使命です」。
 金総書記の中国東北3省と金日成主席の抗日遺跡の訪問は、新たな朝中の親善と団結を示し、反帝共同戦線を構築したと見ることができる。
 1992年に中国と韓国が国交正常化して以降、中朝関係は上手く機能せず、半ば敵対状況になっていて、2000年まで相互の往来というのは殆どなかった。2000年から中朝首脳部が年に一回くらい交流を始めていたが、06年の核実験では中国が核実験に反対し、国連の制裁決議でも賛成にまわったりした。しかし昨年、朝鮮が二回目の核実験を強行する中で、朝鮮と関係を持つのを負担とする外交部と、過去の朝鮮との友誼を大事にしたいという軍部を中心とする勢力、朝鮮との関係は資産だと考える「資産派」との間で相当に激しい争いがあり、去年の夏以降、「負担派」が一掃され、中朝同盟が今年の8月の段階でもう一回出来た。軍事、政治の分野でも中朝は相当親密な協力関係が作られるようになっている。前掲、経済人はそう分析している。
 一例を挙げるなら、今年3月の韓国哨戒艦沈没事件では韓国側の主張に異を唱え、今回の延坪島砲撃事件でも朝鮮への批判を行っていないばかりか、黄海での米韓演習に不快感を示している。中朝貿易も00年の7億ドルから09年には26億ドルへと拡大している。
 一方で、尖閣諸島の問題、天安艦事件、そして今回の延坪島砲撃を通じて、辺野古への基地移転など日米同盟もいっそう強化されている。朝中対アメリカという新しい北東アジアの構図の中で、菅政権は新たな対米同盟へと傾斜を強めている。その中で、日本がどこまで日本独自の外交を展開できるか、現状では手も足もでないばかりか、東アジア共同体ではなく米国が主導するTPPへの加盟、普天間基地の辺野古への移転、沖縄米軍基地のさらなる固定化へ、アメリカの思う壺へ突き進むのではないか。日米安保への見直しや対等な日米関係はますます遠のくことになる。
 日朝問題を打開していかない限り、東アジアの平和は担保できない。そのためには東アジアが今後どう進むのか。その鍵となる朝鮮、そして中国の動き、東アジア情勢へのきちんとした展望を持つことが決定的だ。



 

世界短信

 


■複雑で不安定になるアジア太平洋地域情勢
 11月は東北アジアと中東などアジア各地で危険な対立構図形成の動きが鮮明になり、予想しなかった衝突が起こった。
 米国は中国「脅威」を一層騒ぎ立てた。米国会「米中経済及び安全評価委員会」は中国がアジアにある主な米軍基地の6ヶ所中、5ケ所をミサイルで打撃消滅できる能力があるという報告書を発表した。また、米国のCNNテレビは中国の経済力に対する世論調査で米国人の半数以上が中国の経済力を「脅威」と評価し、米国で「中国脅威論」が急速に拡大していると伝えた。
 果たして、中国の「脅威」でアジア太平洋地域の平和と安定が危険に陥っているのだろうか。現国際情勢の流れは、この地域でむしろ米国の脅威が深刻に提起されていることを実証している。
 最近、米当局者が日本、南朝鮮、オーストラリアなどアジア太平洋地域の国を訪問した。そこでの重要論議は、米国―アジア太平洋地域諸国間の「軍事的協力」、この地域での米軍事力増強であった。米国防長官ゲーツは米国がアジア全域で米軍兵力の規模を拡大する計画であり、オーストラリア軍との協力関係を強化する方案を検討中とした。これとともに米国は日本、南朝鮮に米軍を長期駐屯させる野望を露骨にしている。米国のアジア太平洋政策の危険性はオーストラリアを米、日、南朝鮮3角軍事同盟体系に引き入れアジア版NATOを創設し、それをアジア太平洋地域に対する支配戦略実現のテコにしようとしていることである。
 アジア太平洋地域の情勢が複雑化しているのは明らかに米国によってである。
 11月は、米帝の朝鮮半島で戦争挑発しようとする策動がより大きな危険性をおびた月であった。
 米帝は23日に朝鮮西海で南朝鮮カイライ軍と《護国》という名称の北侵戦争演習をおこない、カイライ軍を煽って共和国の神聖な領海に砲射撃をおこなうという軍事挑発を行った。これに対応してわが革命武力は即、強力な物理的報復打撃を行った。
 米国は今回の砲撃事件を口実に原子力空母《ジョージ・ワシントン》までひきいれ、28日から南朝鮮カイライと、また新しい合同軍事演習をおこなった。これと共に追随勢力を発動してわが共和国を誹謗中傷、国際的圧力を加えるために狂奔している。これは朝鮮半島で新しい戦争を挑発しようとする米帝の計画的で意図的な策動である。

(朝鮮・労働新聞)

■対北朝鮮護国訓練
 チームスピリットを超えた最大規模韓・米合同護国訓練は砲射撃と上陸訓練も含まれていた。
 ヨンピョン島が砲撃された23日は「2010護国訓練」が実施中で、北はこの日午前韓国軍がヨンピョン島の海域に向けての砲射撃に対して北側を狙った訓練ではないか、これは座視しないと警告していた。北朝鮮の海岸手前12Kmの超接近した距離での軍事訓練だった。

(日本のネットから)

■北南関係の急激な悪化にもかかわらず平壌の雰囲気は正常
 数日前、黄海のヨンピョン島水域で軍事的衝突が発生し南朝鮮との関係が急速に悪化したにもかわらず、平壌では戦争雰囲気が感じられない。
 200万の人口をもつ首都の市民はいつもとかわらず朝には自分の職場に向かい、バスの停留所には列ができている。国家機関と商店、博物館、食堂、遊技場などもいつもと変わらない。朝鮮、全域でキムチ漬けが一斉に行われていた。
 朝鮮中央通信は「南朝鮮カイライ政権の挑発政策」を非難する声明とともに朝鮮の日常生活の興味深い面を多様に伝えている。例えば、ピョンヤンの微生物研究所では天然原料を使って免疫を高める薬が開発されたこと。また、他の報道では街を彩る真っ赤に熟した柿が映し出されその効力などが紹介されていた。新しく開館した玉流館料理専門店をはじめ連日新しい建築物が創造されていっている。

(イタルタス通信)


ホーム      ▲ページトップ


Copyright © 2003-2011 Research Association for Asia New Epoch. All rights reserved.