研究誌 「アジア新時代と日本」

第76号 2009/10/5



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

主張 鳩山新政権の進路、真に国民のための政治とは?

研究 国連重視の国際協調と二つの国際社会

インタビュー 「コリアン・マイノリティ研究会」世話人 藤井幸之助さんに聞く 異民族共存・共生社会をめざして

世界短信



 
 

編集部より

小川淳


 鳩山首相は、自らの政治哲学として「友愛」を掲げているが、一部の保守的な政治家にはすこぶる評判が悪いようだ。かつて中曽根氏からは「ソフトクリーム」とまで揶揄された。
 だが「愛」はけっして軟弱な言葉ではない。「博愛」という言葉が「自由」と「平等」とならんでフランス革命のスローガンとなり、人々の愛国的熱情を奮い立たせ革命の原動力となったごとく、政治の根底には、文字通り仲間や同胞への人間愛、共同体や祖国への熱烈な愛がなくてはならないと思う。
 「友愛」の根底にあるのは「人間の尊重」のようだ。鳩山首相は、「わたしたち一人ひとりの人間は限りなく多様な個性を持った、かけがえのない存在であり、自らの運命を自ら決するという『個の自立』の原理、そのようなお互いの自立性と異質性をお互いに尊重しあった上で、なおかつ共感しあい一致点を求めて協働するという『他との共生』の原理を重視したい。そのような自立と共生の原理は、日本社会の中での人間と人間の関係だけでなく、日本と世界の関係、人間と自然との関係にも同じように貫かれなくてはならない」としている。
 人間と人間の関係における「自立と共生」が重要であることは言うまでもない。わたしたちが今それ以上に重要と思うのは日本と世界の関係における「自立と共生」、とりわけアジアとの関係だ。
 明治から今日の日本にいたるまでもっとも欠けていたものがそれだったと思うからだ。だからこそ戦前はアジア侵略を行い、戦後はアメリカからの自立を果たすことができなかった。そしてそこにおいてもベースとなるのはやはり「互いに自立性や異質性を尊重しあう」こと、例えば戦争で犠牲になったアジアの人々に思いを致すことであり、換言すれば「愛」ではなかろうか。
 辛淑玉は自民党を評して「自民党は学識を必要としない社会だった。いわんや世界観や理想や見識や文化的視座がまったく必要ない」(「差別と日本人」)と評している。
 ともあれ「理想」や「愛」を語る鳩山政権の今後に期待を持って見守りたいと思う。そして鳩山首相には動じることなく「理想」や「愛」をもっともっと語り、掲げ、実行して欲しいと思う。それこそが「自民党政治」からの脱却だと思うからだ。


 
主張

鳩山新政権の進路
真に国民のための政治とは?

編集部


■「とことん、国民の皆さまのための政治」
 鳩山首相は、その就任記者会見の席で、「…今回の選挙の勝利者は国民の皆さま方でございまして、その国民の皆さまの勝利というものを本物にさせていただくためには、とことん、国民の皆さまのための政治というものを作り出していく。…」と述べた。
 挨拶だけではない。鳩山新政権がこの間、マニフェストなどで打ち出している諸政策も概ねその線にそったものだ。
 子ども手当の創設、高校教育の無償化、後期高齢者医療制度の廃止、消費税率の据え置き、暫定税率の撤廃、中小企業に対する返済猶予、等々。皆、国民の強い要望に応える政策だと思う。
 もちろん、これらを「バラマキだ」「財源はどうするのか」、等々と批判する声は少なくない。しかし、政権発足時の内閣支持率は75%と歴代第2位の高水準を記録した。

■動き出した鳩山新政権
 鳩山新政権は、この「とことん、国民の皆さまのための政治」を一体どのように作り出そうとしているのだろうか。
 それについては、この間の新政権の動きを見れば、自ずから見えてくる。国家戦略局、行政刷新会議およびその担当大臣の新設、政策決定機関としての事務次官会議の廃止と閣僚委員会の設置、そして各省庁の大臣による副大臣、政務官の指名とその三役による政策の立案、等々、次々に打ち出される機構と秩序の破壊と創造、この「革命」的な変革こそが、新政権の目指す「国民の皆さまのための政治」、すなわち「脱官僚依存の政治」を実現するためのものである。
 明治以来、日本の政治は官僚依存の政治だった。実質、政治を行っているのは官僚組織であり、政治家は、官僚がお膳立てした政治を演じているにすぎなかった。すなわち、政策の原案は、官僚がつくり、与党に説明に行ってチェックを受け、閣議決定される。閣議は前の日の事務次官会議でまとめられた案件を再確認するだけだった。
 「脱官僚依存の政治」とは、これを政治主導の政治にしようということだ。すなわち、閣僚委員会を政策決定のための調整機関とし、国家戦略局を最高ブレーン機関に、税金の無駄遣いを統制する行政刷新会議を配し、各省庁の大臣・副大臣・政務官による政務三役会議を単位に議員100人からなる内閣チームをつくり、これが政策決定と国会運営を一元的に推進するようにするというのだ。
 ここで官僚組織は、あくまでこの内閣チームをサポートする専門家集団になる。政治家の力量が問われるこの英国流の内閣と官僚組織のあり方が、どれだけ官主導から政治主導への政治の転換になるのかは、今後の鳩山新政権の政治を見てみる必要があるだろう。
 その上で問題は、この政治の転換が本当に「国民のための政治」の実現になるのかということだ。

■求められている政治は何か?
 官僚依存の政治が様々な弊害を生み出してきたのは事実だ。それが長期にわたる自民党独裁のもと、政官業の癒着を生み出し、それが大企業優先、国民後回しの政治の温床になってきた。「政権交代」の必要性も主としてここから言われてきた。
 だが一方で、今回の総選挙や一昨年の参院選で自民党大敗の要因となった生活破壊、地方崩壊など、ますます深刻になる諸問題の根因が構造改革路線にあるのも誰もが認める事実ではないだろうか。
 すべてを自由競争に任せ、規制緩和と民営化で政府をできる限り小さくし、国家による保護も統制も否定した新自由主義・構造改革が一体何を生み出したか。一気に急増した非正規・不安定雇用労働者の大群、社会保障の否定とも言うべき大幅削減、膨大な貧困層の形成と格差の拡大、農業、中小企業など地方経済の崩壊と地域の荒廃、そして経済の金融化・投機化と外需依存化、その挙げ句の果ての経済恐慌と大不況、等々、構造改革路線が残した傷跡は、余りにも深く大きい。
 問題は、この諸悪の根源とも言える構造改革路線がどこから出てきたかだ。官僚依存の政治からか。もちろん、それが官僚によって執行されたのは事実だ。しかし、容易に分かるように、このような路線が官僚自体から出てくることなど有り得ない。では、どこからか。業界、財界か。彼らがこうした「改革」にいろいろと利害関係を持っているのは事実だ。だが、歴史は、それが日本の業界、財界ではなく、米国から出てきたことを示している。
 1983年の日米円ドル委員会での米国による金融自由化の強要がその始まりだとされている。以後、米国は「年次改革要望書」を出すなど、日本の構造改革を督促してきた。それが新自由主義、グローバリズムを掲げ、日米の経済および社会の一体化を進めることにより、米一極グローバル支配を強化するためのものだったことについては、ここで改めて言及しない。
 諸悪の根源である構造改革路線が他でもなく米国から出された要求であり、戦後一貫してとられてきた対米従属政治の所産であるということから出てくるのは何か。それは、鳩山新政権に求められているのが「脱官僚依存の政治」というよりも、何より、「脱対米従属の政治」に他ならないのではないかということだ。

■歴史の新段階と「脱対米従属の政治」
 実際、脱官僚依存を断行し、政治主導の政治を行ったとしても、その「政治」自身が「対米従属の政治」を行ったのでは何にもならない。
 鳩山新政権もそれは百も御承知のようだ。その証拠に、緊密で対等な日米関係を唱え、日米地位協定の改訂や在日米軍基地の見直しを重要政策事項として掲げている。
 ところで、今日、「脱対米従属の政治」を行おうとすれば、一つ考慮しなければならないことがある。それは、他でもなく、米一極支配の崩壊だ。
 鳩山首相も、総選挙前に「ニューヨークタイムズ」誌に寄稿した論文の中で、「私もイラク戦争の失敗と金融危機を通じて、米国主導のグローバル化の時代が終わり、世界が多極化の時代に進んで行っていると考える」と述べている。
 世界は、もはや米一極支配の時代ではない。多極化の時代だ。だが、その多極化は単純な多極化ではない。米一極支配か多極化かのこれまでの攻防が覇権多極化か反覇権多極化かの新しい攻防へと発展してきている。すなわち、「G20」などと表現される欧米やBRICs諸国など、多極をなす地域大国間の協調とそれによる世界支配か南米諸国連合やASEAN主導の東アジア共同体など主権尊重の地域共同体の形成とその連携による反覇権多極世界の実現かの攻防だ。オバマ政権は、どうやら前者の立場に立ち、「国際協調」でそこでの主導権を取ろうとしているように見える。それは、彼が提唱する「核兵器なき世界」が、核大国、覇権大国の核軍縮を米主導で推し進めながら、かえす刀で、反覇権国家への核拡散を許さず、核大国、覇権大国の核による世界支配とそこにおける米国の主導権の確立を図るものであるところなどに透けて見えてきているようだ。オバマ大統領自身が臆面もなく「最後に核をなくすのも米国」と公言しているところなどに、その底意が露呈されているのではないだろうか。
 こうした世界にあって、日本が「脱対米従属の政治」を行うとはどうすることなのか。鳩山首相は、日本は友愛の精神に基づき、世界の「架け橋」の役割を果たすべきだと言っている。東洋と西洋、先進国と途上国、核保有国と非保有国、アジア諸国間、多様な文明の間、等々の「架け橋」だ。
 だが、今日、国々の間にある利害関係の相異の中で、もっとも鋭く本質的なものは、国の主権をめぐる覇権か反覇権かの対立ではないだろうか。それは、主権こそが国にとっての生命であり、その主権をめぐっての覇権か反覇権かの攻防が世界の基本趨勢になっているからに他ならない。
 今、鳩山新政権に切実に問われているのは、こうした時代の要請に応じて、日本の主権を確立し、同時に、主権尊重の立場から東アジア共同体をその一員として構築していくことではないだろうか。また同時に、覇権多極化を主導する米国の覇権主義を東アジア共同体が受け入れるよう橋渡しするのではなく、米国が東アジア共同体の反覇権、主権尊重の精神を理解し受け入れるようにするために「架け橋」の役割を果たすことなのではないだろうか。
 これこそが歴史の新段階における新しい「脱対米従属の政治」のあり方であり、この政治を作り出すところにこそ、「とことん、国民の皆さまのための政治」の実現もあるのではないかと思う。


 
研究

国連重視の国際協調と二つの国際社会

魚本公博


■オバマの「国連重視」
 第64回国連総会での米国オバマ大統領の演説が注目を浴びた。
 演説でオバマ米大統領は、ブッシュ前政権の単独行動主義が過ちであったこと、そのために米国への不信が増大したことを率直に認め、今後、米国は、世界各国と協力して世界の様々な問題を解決していくとして、「国連重視」を鮮明に打ち出した。
 オバマ大統領は、今日様々な問題が山積しているが、これは米国だけでは解決できないとしながら、世界的な問題解決には、米国だけでなく世界の全ての国が、これに取り組む責任があるとして、米国のリーダーシップの下に世界各国が協力することを求め、「新しい世界への関与」を打ち上げ、その具体的な課題を「4つの柱」として、「核」「国際平和」「地球環境」「世界経済」を挙げた。 オバマ大統領は、「新たな連合」と言う言葉を使い、今やいろいろ文句を言ったり、責任を他になすりつけたりする時ではないとしながら、南北、東西、黒白、その他すべての違いを乗り越えていこうと訴えた。
 そして、国連の創立当時を想起させながら、国連は、国連の名にふさわしい役割を果たさなければならないと述べ、「今、国連は分裂の場になるか、結束の場になるかの正念場にある」として「国連重視」の姿勢を明らかにし、「国連」にも積極的に「関与」していくことを表明した。
 その後、オバマ大統領は、15カ国の首脳が参加した「核不拡散と核軍縮」をテーマとした安保理事会を主宰し、そこでは「核なき世界」のための決議案が採択された。総会の前の「国連気候変動ハイレベル会合」やこの安保理事会、そしてピッツバーグに場を移してのG20の経済会合など、米国を舞台にした一連の国際会合は、米国オバマ政権が国際問題に積極的に「関与」していくことを印象付ける一大カンパニアの感があった。

■「もう一つの声」
 オバマ大統領の演説は、概ね好評をもって迎えられたようだ。
 反米色を鮮明にし、ブッシュを「悪魔」と呼んだベネズエラのチャベス大統領でさえも、この演説には、一定の賛辞を送っている。しかし、その上で、次のように語っている。「二人のオバマがいるという感じを受けた。一人は演説を立派に行うオバマであり、もう一人は実際には自身の演説と矛盾する結論を下すオバマだ」と。チャベス大統領は、その矛盾する行動として、「コロンビアに7つの米軍事基地を置こうとしているのは何故か?」と問いかけている。
 オバマ大統領が言う「4つの柱」についても、発展途上国には、その一つ一つに対して意見がある。「核」の問題で言えば、核拡散・核増大は、主に核大国によって生じたものであるのに、国際原子力機構(IAEA)は、核大国については責任を問わず、ただ発展途上国だけを「管理」し平和のための核開発も許さない機構になっているとして、その改革を主張している。核拡散を問題にする前に、まず核大国が核をなくすのが先決ではないかということだ。
 「国際平和と安全」に関しては、反テロ戦争を行って、イラク、アフガニスタンを惨憺たる状態にし、さらにはテロを世界に拡散させたのは米国ではないかということだ。反テロ戦争自体にも、気に入らない国を武力攻撃する口実に使われていると考えており、イラクから撤退してもアフガニスタンでは軍事増派するなど、反テロ戦争を継続することへの不信と不満は大きい。
 「地球環境」問題もそうだ。これまで大量に排気ガスを排出し、地球温暖化の原因をつくってきたのは先進国であり、まず先進国が削減すべきだ。それをやらずに共に責任があるとして発展途上国にも削減を要求するのは、その工業化を妨害するものだということだ。
 「世界経済」の問題では、世界に新自由主義市場経済を強要してきたのは米国であり、発展途上国を食い物にしながら、投機に走った結果、世界の金融を破壊し、世界経済をメチャクチャにしたのは米国自身ではないか。それが今になって、世界経済に皆が責任をもち、ともに財政出動しようと言われてもということだ。こうした声は、今年7月5日、エジプトのシャルム・アル・シャイフで開かれた第15回非同盟首脳会議での発展途上国の声に典型的に現われている。「平和と発展のための国際的連帯」を課題にしたこの会議で各国首脳は、非同盟運動が「国際関係における力の使用と危険、覇権主義を排撃し、不平等を克服し正義を守ること」について言及した。
 同様の声は、今年2月、ベネズエラの首都カラカスで開かれた「アメリカのためのボリバール対案」成員国首脳会議でも聞かれた。そこでは、地域内諸国が団結、協力して外部勢力の干渉と支配主義的策動を打破し社会各分野で進歩と発展を成し遂げようとする討議が行われた。同じ2月には、第12回アフリカ同盟首脳会議が開かれ、大陸の一体化を促進しインフラ開発を進め、同盟機構を強化する問題が討議された。最近、開かれた2回目の「中南米アフリカサミット」でも、中南米とアフリカが連携しつつ、2つの大陸を、今後の多極型の世界における2つの極に発展させることが提唱された。

■求められる「国連改革」
 オバマの米国が自国を舞台にしてくりひろげた「国連重視」「国際協調」の一大カンパニア、しかし、そこには、それに同調しない「もう一つの声」があった。それは非同盟諸国会議に代表される圧倒的多数の発展途上国の声であり、地域共同体を作り、大国の支配干渉を排し、地域の諸国が自主権を相互に尊重して結束しながら、各地域の共同体が連携・協力して世界の平和と繁栄を追求する反覇権多極世界の声である。そこから見れば、オバマ大統領の問題提起などは、これに対抗し、地域を地域の大国を中心に統合し、米国主導に世界を支配しようとする覇権多極化の動きだと言えるのではないだろうか。
 この二つの動き、二つの声がある中で、オバマ大統領の言うように、東西、南北、黒白などすべての違いを乗り越えた国際協調を「国連重視」で行っていくのは並大抵のことではない。そのためには、どうしなければならないだろうか。
 そこで、最低まず求められるのが「国連改革」だ。第15回非同盟諸国首脳会議でも、国連改革が焦眉の課題として提起された。彼らは、「国連が改革されない限り、力と軍事力によって弱小国家を犠牲にする試みは続くであろうと」と指摘しながら、「国連安全保障理事会の権限乱用によって信頼が低下している」という実情の下で、非同盟諸国は、運動の立場と利益を守るために、安全保障理事会の改革を強く打ち出すべきだと主張している。
非同盟諸国が言うように「安保理の権限乱用」は、米国の気に入らない国、言うことを聞かない国にやたら制裁を加えたり、米国の武力侵攻にお墨付きを与えるなど目に余る。これで、どうして「国際社会の平和と安全」を守れるのか。
 そうなっているのも、国連が大国に有利な構造になっているからである。国連の重要な目的は「国際社会の平和と安全」であるが、これに第一義的な責任をもつのは安全保障理事会であり、その決定については、加盟各国はそれを受諾し履行する義務を負う。
 しかし、その反面、すべての国が参加する総会は、最高機関とされてはいるが、その決定は、安保理に勧告するだけのものとされている。したがって、国連は、実際には、5大常任理事国など少数の大国が自分たちに有利な決定を発展途上国など大多数の国々に押し付け従わせる機関となってしまっている。すなわち、国連の構造と秩序自体が覇権多極世界のためのものになっており、反覇権多極世界の動きを妨害するものになっているということだ。
 それ故、非同盟諸国は、まず、国連の改革を要求している。その改革案は、総会を国連の最高決定機関にしようというものや、常任理事国を増やし、ここにアフリカ、アジア、ラテンアメリカ(カリブ地域を含む)の発展途上国より各1か国を入れよという案など様々あるが、彼らの本質的な要求は、すべての加盟国が主権を尊重された平等な構成員として遇され、様々な国際問題の解決には加盟国全体の総意を反映できるような仕組みに改革すべきだということだ。
 オバマ大統領が、真に国連を重視し、世界各国と協調して国際的な難問を解決していこうとするなら、何よりもまず、国連自体を改革しなければならないのではないだろうか。


 
インタビュー 「コリアン・マイノリティ研究会」世話人 藤井幸之助さんに聞く

異民族共存・共生社会をめざして

聞き手 小川淳


 藤井幸之助さん、48歳。京阪神の大学で朝鮮語を教えながら、「コリアン・マイノリティ研究会」や「北大阪朝鮮初中級学校を支える会」など、在日朝鮮人研究や支援活動を関西圏で精力的に続けている。在日朝鮮人の抱える問題とは何か。私たちに日本人にとって、どういう意味があるのか。研究会の根拠地である「陰陽連絡線セッパラム文庫」(大阪市東淀川区)に伺いお話を聞いた。

※      ※      ※

―朝鮮に触れた最初のきっかけは何だったのですか
 「高3のときに日本史の教師が始めた朝鮮語学習会に参加したことがきっかけです。もともと英語は嫌いではなかったんですが、同級生や教師たちの受験勉強偏重への嫌悪感がありました。高2から中国語を勉強したりして、中国のことを知りはじめ、アジアに眼が向いた時期もこの頃で、それがすごくよかった。そして、その横に朝鮮というまた別の世界があることに気付きました。それがきっかけで大阪外国語大学朝鮮語学科へ進学しました」。

 先輩に在日韓国人政治犯の支援活動をしている人がいて、誘われて集会に行ったりしたという。政治犯の中には李哲さんや康宗憲さんなどが死刑判決を受けていた。当時、朝鮮語学科では学年に1人くらいは韓国に語学留学していたが、祖国留学した在日韓国人の留学生が死刑判決を受けるような軍事独裁政権の国では勉強したくないと、藤井さんの関心は徐々に朝鮮半島自体より在日朝鮮人に向かったという。当時、密航で来ていた韓国人が告発されて、日本で生まれた子どもたちも含めて一家で退去強制を命じられる事件があった。この家族に在留特別許可を求める集会に参加したり、被差別部落の子ども会で学力保障の一環で民族のことばを保障しようという朝鮮語講座に関わるようになるなど、藤井さんはさまざまな活動に関わるようになった。

「差別を受けるかわいそうな人という見方から、したたかな生き様を見て、大学の教室ではあまり勉強しなかったけれど、街でいろんな人から学んだことの方が多かったと思いますね」。

―「コリアン・マイノリティ研究会」とはどんな団体ですか
 「1991年に、文化人類学者の原尻英樹さんが東京で始めた『在日朝鮮人研究会』が前身です。学術的な研究会はほかにもあるので、ここにはいろんな人が来てサロン化したらいいと思います。日本人も朝鮮人もきて、研究者もいるし、研究者でない人もいます。15人から20人くらい集まります。ここがその事務所で、第3土曜の午後に月例会をやって、その後に手料理の宴会をします。居心地がいいと評判です」。

 大学では朝鮮語や在日外国人の人権問題などを教えているが、学生から「北に偏っているのでは?」といわれることもある。それでも藤井さんは「共和国」のこともきちんと取り上げていきたいという。日本にいる自分たちは南北とは「等距離」に付き合って、互いに切磋琢磨するような東アジアの関係を作りたいという願いがあるからだ。

―今後、研究会はどういうふうにしていくつもりですか
 「月1回必ずやることです。固定メンバーが10人くらいいて、ウェブサイトに案内を流しています。自分たちの手の届く範囲でやれればいいし、他人に『どうこうしろ』というつもりはありません。在日朝鮮人をとりまく日本社会には問題があり過ぎて、しかも深刻過ぎます。まずはネットワークをしっかりつくっていこうと。案内を送っている人が900名くらい、メーリングリストが10くらいあって、結構『通の人』に喜んでもらっています。主義主張がちがっても誰でも付き合おうと…。」。

―いま一番重要な活動は何でしょうか
 「箕面市で『みのおセッパラム』という朝鮮・韓国を知るお祭りを10年くらいやりました。その中で在日朝鮮人の歴史を知るための紙芝居のようなものを作ってきました。今回、それを本にしました。日本の子どもたちは日本人も在日朝鮮人も、なぜ日本に在日朝鮮人がたくさんいるのかを知らないからです。付録に情報をいっぱいつけました。たとえば軍事費の比較です。日本と韓国と共和国とぜんぜん額が違う。一目で日本と朝鮮の歴史の流れがわかるように年表もつけました」。

 題名は『ある在日コリアン家族の物語 つないで、手と心と思い―絵と物語で読む在日100年史―』(アットワークス刊)。付録のデータ集には、わたしたちが知らない「在日の歴史」が細かく刻まれていて、朝鮮人であることを明らかにして活躍する歌手やスポーツ選手のリストも興味深い。

―なぜ藤井さんはそこまで在日朝鮮人にかかわれるのでしょうか
 「かかわることで自分も生かされてきたということです。始めは加害者意識からでした。自分たち日本人が悪い、朝鮮人を差別して恥ずかしいくらいに思っていました。いまは自分が解放されるためにやっています。理不尽なことに対して怒りはあるけど、楽しく明るく生きるためにやっています。ぼく自身のテーマは民族学校と民族まつり・マダンと朝鮮人集住地域の研究です。先日は新宮まで養豚業をしていた朝鮮人の話を聞きに行ってきました。また、JR環状線桜ノ宮駅近くの旧大川の河川敷にある済州島出身者の女性たちの祈りの場である龍王宮のことを調べています。人が働いて生きてきたことを記録し、伝えたい。誰もが自分のことを卑下せずに楽しく生きられる社会をつくるためです」。

―民族を超えた共生というような…
 「元からいる人も後から来た人も、どの民族も共生する。『多民族共生』よりも『異民族の共存・共生』です。そこにいるだれもが人として尊重される社会をつくる。島国根性という日本の閉鎖性を脱して、アメリカに追随することなく、近くの国と仲よくすることで生きていく。いまは同じアジアにあるのに『アジア人』として見てもらえていない。アジアの国から尊敬される国になってほしい」。
 「なぜアジアから嫌われているのか、やはり政治の責任が大きい。アジアには戦争の国家賠償もしていません。身を切って同じ痛みをもって共生していく。朝鮮・韓国が『東海(トンへ)』というのはいいけれど、日本海を『東アジアの平和の海』にしていく。冷戦の海になってしまった海を古代人が行き来したような海にしたいですね」。

―政治的な活動は考えていないですか

 「根源的な文化を見つめなおすことも政治とつながっていると考えています。多くのことを望むよりも近いところでできるところからやっていく。それが回りまわって広がっていく。外国人政策が日本にはないわけですから社会の仕組みを変えていかんとあかんでしょう」。

―在日外国人問題の中で一番大事なことはなんでしょうか
「市民権ですよ。就職権とか居住権とかがあたりまえにある状態。日本人でない人たちを排除しない社会。当然、参政権も必要です。日本国籍がなくても人を排斥しない国になってほしいですね」。

―最後に、民主党政権への期待について
「麻生さんは鳩山さんに2002年の『日朝ピョンヤン宣言』は生きていると言いました。ならば拉致被害者の一時帰国の問題で約束違反したことを共和国に悪かったと謝ってほしい。米朝が先に国交正常化をやってしまうのか。そんな主体性のないことで日本はいいのでしょうか。また、日本軍性奴隷の被害者は高齢でどんどん亡くなっています。歴史教科書にきちんと記述する。被害者はお金が欲しいのではない、謝って、二度と同じことを繰り返さないでほしいと考えているんです。在日朝鮮人への不当な処遇についても書く。大学ではじめて朝鮮人と出会い、そこことで自分自身が楽になった。つらい中で生き抜いてきた在日朝鮮人に励まされてきました。アジア各地で日本人に虐殺された人たちの無念の思いを、亡くなった人たちの名前を刻み、忘れないことは二度と過ちは犯さないという誓いでもありますし」。

 藤井さんは日朝国交正常化したら1年くらい共和国の地方大学で勉強したいという。

「ピョンヤンよりも東海(日本海)側の都市がいい。共和国の人たちの普通の生活を実感できれば…」。

 藤井さんは軽快なフットワークでさまざまな活動を展開している。「在日朝鮮人問題」というと重い政治的なテーマに違いないのだが、藤井さんの話をきくとまったくそのように感じないのが不思議だ。深刻ぶらない、自分が楽しむ、そこが藤井さんの魅力なのかも知れない。最近は朝鮮関係の研究者や活動家も若い人が増えてきたという。もっともっと活動の輪を広げていただきたいと思う。


●コリアン・マイノリテイィ研究会 http://white.ap.teacup.com/korminor/


 
 

世界短信

 


■鳩山民主党政府の外交動向
 第一に、依然として日米同盟関係を外交政策の「礎石」とするであろう。
 民主党は野党時代にイラク戦争とインド洋での給油活動などで自民党に反対し、「米国と距離を置くような」傾向をみせたが、政権をとるべきとの声が高まるにしたがい日米関係重視の立場を鮮明にし始めた。
 差異点があるとすれば、ただ米国に従うだけの自民党の路線を捨ててより対等な日米関係の構築を主張していることだ。日米地位協定の見直し、期限の切れるインド洋での自衛隊の給油活動を延長せず、これまでの米国の単独主義とは距離を置くなど一連の「自主性」は見せるかもしれない。
 しかしこれは日米同盟関係を弱化させるものではないだろう。
 第二に、アジア重視の現実的路線を実施するであろう。小泉政権時期、日本は対米関係を重視してアジアの隣国との関係を軽視した。対米関係さえ良くすれば他の国々との関係も自然に良くなるという思考方式からのものだ。
 イラク戦争は依然、終わりが見えず、米国発の金融危機が根本的に好転する兆しがみえないなかにあって、民主党のアジア重視は現実的選択となるだろう。いまアジアは世界の新しい経済成長の中心地となっており、日本の発展はアジア諸国との緊密な協力なしに考えられない。
 鳩山の発起した東アジア共同体構想の一側面は、東北アジア非核化構想の実現だが、これは日本、韓国、朝鮮が核兵器を保有せず、米中ロがこの3カ国に核兵器を使用しない保証を与えるという構想だ。(略)

(中国・新華社)

■ベトナム戦争を思わせるアフガニスタン戦争
 最近、オバマ大統領とその補佐官、軍の将官、そして米国全般からは、アフガニスタン戦争が約40年前、米国が敗れたベトナム戦争の亡霊をよみがえらせているようだという話が聞こえるようになった。アフガニスタン戦争を討議する場でベトナム戦争を思い起こす言動がしきりに行われているということだ。

(米・VOA)

■アフガニスタン戦争へのオバマの見解に米国人が反対
 多くの米国人が、世界的なテロとの闘争に勝利しようとすればアフガニスタンで必ず勝たねばならないとするオバマ大統領の主張に懐疑的に対している。ワシントン・ポスト紙がABC放送と共同で行った世論調査の結果である。
 51%がアフガニスタン戦争には人的、物的支援の価値はないと答え、米軍増派には42%が反対、賛成は26%にすぎなかった。

(ロシア・イタルタス)

■朝鮮が貿易決済のドルからの変更を検討
 朝鮮貿易省副大臣は、中国吉林省長春で開かれた東北アジア経済貿易会議で、貿易決済を米ドルに代えて他の通貨を使用することを検討していると述べた。
 彼は、ユーロ地域諸国と中国、ロシアが各々自国通貨の影響力拡大を志向しており、このことは朝鮮に貿易決済でドルに代えてユーロ、人民元、ルーブルを使用できる機会を与えるとしている。

(新華社)

■ピョンヤン秋の国際商品展示会、参加企業増
 新華社通信は16カ国、131企業が参加、その40%を占める中国企業54社が参加と伝えた。国連による制裁が続く中で、今年、新しくフィンランド、フランス、ベトナム、オランダの企業が参加し、昨年秋の12カ国、112の企業数を今年は上回った。他の参加国は、英国、オーストリア、オーストラリア、ドイツ、イタリア、インドネシア、ポーランド、スエーデンそして台湾などである。

(VOA)


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