研究誌 「アジア新時代と日本」

第59号 2008/5/5



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

情勢 韓国、台湾の政権交代から何を学ぶのか

研究 迫り来るスタグフレーションの危機を直視する

論点 不動産不況の現場から

時評 義務教育はすべて国の責任で

資料 虎視眈々と医療保険を狙う外資

世界の動きから



 
 

編集部より

小川淳


 5月3日の憲法記念日、憲法に関する各種の世論調査が発表されています。どの世論調査でも憲法改正派が反対派を上回っていますが、憲法改正すなわち憲法9条改正というわけではないようです。
 何を改正すべきかについては、日経では「環境権など時代の変化に対応した規定がない」が49%でトップ、毎日では「首相を国民投票で選べるようにする」が55%でトップでした。「国の自衛権を明記、自衛隊の存在を明文化する」は毎日も読売も5位と最下位でした。
 9条の改正か、支持かで比較すると毎日でも41%対46%で支持派が多く、朝日では憲法9条改正反対が66%と、賛成23%を大きく引き離しています。朝日の調査では憲法改正を支持する人の中でも9条改正を支持する人はわずか37%にとどまっています。改憲論の焦点となっている「自衛隊の海外での武力行使」については毎日でも27%対63%と反対が圧倒的でした。
 これら世論調査で言えることは、「首相公選制」「地方自治」などと憲法改正には多くの人が賛成しつつも、9条改正については賛成しておらず、とりわけ安倍政権以降、改憲論の焦点となっていた「自衛隊の海外派兵や武力行使」を可能とするような憲法改悪については圧倒的国民が強い拒否反応を示しているということです。
 4月17日には、名古屋高裁で「イラク派兵違憲判決」が出ています。この判決が画期的なのは、自衛隊が活動している地域を「戦闘地域」とし、自衛隊の活動を「多国籍軍の戦闘行為と一体となった必要不可欠な軍事的後方支援であり、武力の行使」と認定し、自衛隊のイラク派兵を明らかな「憲法違反」としたことです。そして「すべての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基本的権利」として裁判所が歴史上はじめて憲法の「平和的生存権」を認め、そこには「具体的権利」があるという原告側も驚くような踏み込んだ判断を示しました。これで潮目が変わったと見るのは早計でしょうが、多くの人が憲法9条の時代的な価値に気付き始めたことは確かなようです。


 
情勢

韓国、台湾の政権交代から何を学ぶのか

編集部


 韓国の政権交代に続いて、台湾でも民進党政権に代わり国民党の馬英九新政権が誕生した。  この二つの政権交代の要因として、前政権の「イデオロギー過剰」に対して、「実利主義」と「バランス感覚」が支持されたなどということも言われている。果たしてそうなのか。韓国、台湾での政権交代は何を教えているのか、そこから学ぶべきは何か、それを考えてみたい。

■求められた経済不振、生活苦からの脱却
 韓国でも台湾でも政権交代の要因は経済問題が大きかった。
 台湾の場合、「台湾独立論」を掲げる民進党に対し、「統一」を国是とする国民党の馬英九候補は「両岸共同市場」構想を打ち出し、その是非をめぐって論争が展開された。一人当たりGDPが韓国に抜かれるなど経済が低迷する中でいかにそれを活性化するか。そのために中国との連携をいかに強化するかが争点になったのである。
 韓国の場合も経済と生活が焦点になった。韓国の大統領選挙での関心は「経済活性化」が59%、次いで「雇用問題」、「物価の安定」の順だった。
 韓国で人々が経済への関心を強めたのは、経済と生活への不安がある。いわいる「サンドイッチ論」、「中国は急速に追い上げ、日本は先に行ってしまう。両国に挟まれサンドイッチ状態になったのが韓国の現状だ」(サムソン李健熙前会長)。
 その上、最近の原油価格高騰の余波を受けた資源高騰、食料など物価上昇が重なった。また米国サブプライムローン問題が韓国経済を痛撃している。米国経済の不振は対米輸出、あるいは中国を経由しての輸出を減少させ輸出の足を引っ張っている。それはまた韓国株価の低迷や韓国金融の資金供給力の減退などをもたらし、韓国経済を冷え込ませつつある。
 とりわけ韓国では二極化が進み、多くの人々が下層に追いやられ生活苦が増大していることへの不満が大きかった。世論調査によれば、韓国民の最大の不満は、社会が「不公平」だということである(77%)。統計資料によれば、所得中間値の半分以下の収入しかない貧困層は96年の11%から06年には20%へと増加した。
 年間の新規雇用は40万からこの3年間は30万人に減少しているだけでなく、非正規就業者比率は50%を超え、全労働者1600万人のうち非正規労働者は820万人、その賃金は正規雇用の半分、各種社会保障もなく、雇用は不安定である。大卒でも就職率は48%であり、大卒で非正規就業者の平均給与は88万ウォン(約10万円)であり、「88万ウォン世代」と呼ばれている(日本でいえばロストジェネレーション世代か)。今回の選挙では、この世代が李明博支持に回った。「88万ウォン世代の逆襲」と言われるゆえんである。

■前政権の誤りはどこにあったのか
 台湾、韓国での前政権の敗北の原因はどこにあったのだろうか。言われるように「イデオロギーの過剰」にあったのだろうか。
 そうではない。台湾、韓国の経済不振と生活苦の増大は、この間の経済のグローバル化と新自由主義改革がもたらしたものだからである。
 97年末、タイで発生した金融危機はまたたくまにアジア全域に波及し韓国でも多くの銀行が支払い不能に陥った(これが米国によって仕掛けられた危機であったことは今では明白)。こうしてIMFが緊急融資に乗り出し、「IMF支配」とか「IMF植民地体制」と言われる事態が現出した。IMFとは米国が牛耳る機関であってみれば、この事態は米国による韓国経済の「支配」「植民地化」の一段の強化に他ならなかった。
 98年に発足した金大中政権は、結局、この徹底した「植民地」体制の下で、米国の意図する「改革」を行うための政権であったということができる。金大中政権の経済政策は、「市場原理、透明性、グローバルスタンダード」がスローガンであったように、それはグローバル化、新自由主義改革であった。
 象徴的には、韓国財閥の徹底的な解体再編である。韓国の財閥は個人資産家とその同族による経営であり、これが政治家、官僚と結びつくという古い体質をもっていたが、この構造を徹底的に破壊した。著名財閥のうち16が破綻消滅し、「現代」や「大宇」も解体された。
 また、規制緩和、リストラ、賃金での成果主義の導入、韓国電力や韓国通信などの国営企業の民営化、外資導入策(外国人投資の自由化、M&Aの許容、不動産市場の全面開放、税制優遇措置など)も採られた。雇用関係では「整理解雇制度」(企業の勝手な解雇を許容)が導入された。
 決定的なのは、経済の血液であり根幹である金融部門の外資化=植民地化である。主要商業銀行26行は14行になり、その全てに外資が入り経営権は完全に外資に握られた(大手8行のうち外資が過半を超えるのが3行、30%を超えるのが5行)。その経営指針は「ウォール・ストリートで評価されること」であり、韓国経済は、米国に気に入られるように改造されていった。
 慮武鉉政権は、この流れを引き継いだ政権である。元来、政治軍事的に米国への従属度が強い上に経済命脈まで完全に握られた状況にあって、慮政権としては、米国主導の新自由主義経済でやっていくしかなかった。そうであれば、慮政権がイデオロギー過剰だったから経済が不振になったというのは的外れの分析だろう。

■経済と生活を破壊する新自由主義経済
 今日、世界的に米国主導の新自由主義経済が国の経済を破壊し国民生活を破壊するものだという認識が深まっている。
 その典型は、中南米であろう。米国の裏庭といわれたこの地域は80年代初から、「ワシントン・コンセンサス」によって新自由主義経済導入の実験場にされてきた。その結果、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンなどで起きた通貨危機はこれらの国の富を一晩で消し去り国民生活を一挙に凋落させた。アジア通貨危機でも同様のことが起きた。
 新自由主義経済においては、ケインズ主義経済で起きたスタフグレーションを克服するものと喧伝されたが、一握りの独占資本に富が集中し国民の大部分が貧困化することで消費が減退し景気が減速するという宿痾を克服できない。
 新自由主義経済が生み出すのはそれだけではない。独占資本に集中された富は、消費の減退により、生産を高めるための設備投資には投下されず投機に回されるようになる。それが住宅バブルとバブル崩壊によるサブプライムローン問題を引き起こし、また原油や資源、そして食糧価格の高騰を生み出す。
 投機の膨張とその崩壊が実体経済に及ぼす影響ははかりしれない。こうして生まれた米景気後退が対米輸出に依存する台湾や韓国の経済を一層不振へと追い込み、生活苦を一段と深めていく。
 中南米だけではない、台湾や韓国などアジアにおいても新自由主義による経済と生活の破壊は顕著になってきている。

■問われる、米一極支配からの脱却
 韓国、台湾での政権交代は何を教えているのか。
 米一極支配の下での新自由主義経済がアジアでも破綻し、それが経済の優等生だった韓国、台湾でも国の経済を破壊し国民に生活苦を招くことにより政権の交代を促したということだ。
 それにもかかわらず、韓国の新大統領・李明博氏がやっていることは何か。彼は、4月の訪米でも、外資導入を乞い願い、そのための規制緩和、税率引き下げや労組規制、さらにはFTAの年内批准などを約束した。すなわち、李明博氏の経済実利政策とは、韓国経済のさらなるグローバル化、新自由主義改革である。
 それが今後、米国をはじめ世界的なスタグフレーションの深まりの中でどのような禍を韓国にもたらしていくか十分に予測されるのではないだろうか。
 それでは、台湾の場合はどうか。台湾企業の中国進出は、米国が狙う中国の資本主義化の先兵として機能した面があり、馬英九氏の唱える「両岸共同体」もそうした側面をもつことは否定できない。しかし、中国は、米国の意図を分かった上で、技術を発展させ、様々な分野での国産化を強めるなど経済の自立性を高めようとしている。また、上海機構や東アジア諸国との経済的連携を強化し多極化を目指している。
 こうした中国と一体の「両岸共同体」がどのような結果を生み出すか注目する必要があるだろう。
 韓国、台湾での政権交代が教えてくれているものは何か。今こそ日本は、米一極支配からの脱却、新自由主義経済からの脱却をどうはかるかの深い検討が問われているであろう。


 
研究

迫り来るスタグフレーションの危機を直視する

小西隆裕


 景気の減速が確認され、原油や食糧の高騰が叫ばれる中、不況とインフレが同時に進行するスタグフレーションの危険性が言われている。1970年代半ばから80年代半ばにかけて問題となり、ケインズ主義から新自由主義への転換の「口実」にされたスタグフレーションがなぜまた生まれてきているのか、そしてそれは、一体何を告げているのだろうか。

■蘇るスタグフレーションの亡霊
 アメリカの景気後退が鮮明になってきている中、日本でも景気の「足踏み」から「減速」へと景況感の悪化が確認されるようになっている。
 今年2月で7年目に入った景気回復を持続できるか否か、展望は明るくない。住宅投資の急減に加え、大型店の出店削減など建設投資の大幅差し控え、原油や穀物など原材料高騰による企業収益の圧迫とそれにともなう設備投資意欲の減退、アメリカの景気後退による対米輸出の伸び悩み、等々、景気回復の先行きは「内憂外患」の難局に突き当たっている。事実、企業倒産は、昨年、3年ぶりに1万件の大台を上回った。
 不況への様相が深まる中、一方、インフレへの懸念が深刻化している。
 今年3月、国内企業物価指数(2005年=100)は、106・7となり、前年同月比3・9%という27年ぶりの上昇幅となった。07年度平均の物価上昇率を見ると、消費税導入時以来の高水準で、スクラップ類の30・7%、石油・石炭製品の13・0%、鉄鋼の7・4%、非鉄金属の5・6%と軒並みに上がっている。この背景に、原油や石炭、非鉄金属、穀物など原材料価格の信じられないような高騰があるのは周知の事実だ。この1年で原油は2倍、原料炭、3倍、小麦、4倍、大豆、1・5倍という異常さだ。
 この事態発展の深刻さ、それは、スタグフレーションの再来を想起させる。

■今、なぜスタグフレーションの再来か
 元来、景気循環の周期(約20年)から見れば、現行の景気上昇は少なくともあと2〜3年は続くものと見られていた。この数年来の企業の設備投資意欲の高まりはその現れだったと言うことができる。それが、今なぜ景気の減速なのか。
 それについては、アメリカの景気後退による対米輸出の減少、原油や穀物など原材料価格高騰による企業収益の圧迫とそれにともなう設備投資意欲の減退、建築規制の強化など官製不況の広がりなど様々な要因が挙げられている。しかし、ここでもっとも決定的なのは、やはり新自由主義のもと、社会の二極化、膨大な貧困層の形成を背景とする消費の低迷である。01年から04年の3年間で法人企業の経常利益が28兆円から45兆円と17兆円増加したのに対し、雇用者報酬は、00年の271兆円から04年の255兆円と4年間で16兆円の減少となった。労働市場の不安定化などによるこの年収300万円時代の到来が個人消費の低迷と直結しているのは言うまでもない。輸出主導の景気回復など、GDP成長で外需の果たす役割が5割を超える日本にあっても、やはり内需の規模は外需の約20倍と決定的だ。その内需が消費の低迷により上がらなかったところにこそ、景気減速の最大の要因がある。
 では、消費が低迷しているのになぜ物価上昇なのか。その背景に原油や穀物など原材料価格の高騰があるのはすでに見た。問題は、この原材料高騰の第一の要因が投機にあり、それが、新自由主義により独占資本へ集中された富が消費の低迷にともない設備投資へ回されなくなっていることに依って増幅されているところにある。
 原材料価格高騰の要因として、需給の逼迫があるのは事実だ。特に穀物の場合、欧米やロシア、オーストラリアなど穀倉地帯の干ばつ、トウモロコシなど穀物のバイオ燃料への転用、等々の影響は大きい。また、原油の場合も、イラク戦争による中東地域の石油生産能力の減退や中国など新興国の需要の急増など需給逼迫の要因は存在する。しかし実際には、このところ原油需給の逼迫は生じていない。にもかかわらず、原油の価格高騰は続いている。その要因は何か。それが投機にあるのは、今や世界が公認する事実となっている。
 今日、世界を駆け巡る投機マネーの総額は300兆ドルと言われる。その規模の大きさは、世界のGDP総額30兆ドル、貿易総額8兆ドルと比較しても歴然としている。また、21世紀に入って6年間の世界株式市場総額の年平均伸び率がGDP成長率、貿易伸び率の各々4倍、2倍であるところからも、投機マネー流入のすさまじさが窺える。そうした中、世界の原油価格形成を主導するWTI原油先物市場における投機の割合は、03年以前の1割前後から現時点での5割超へと急増しており、住宅バブルの崩壊にともなう食糧市場への投機マネーの大量流入も確認されている。

■二つのスタグフレーションから考える
 30年前、スタグフレーションはケインズ主義経済から発生した。公共事業の拡大など、国家財政を膨らませ、有効需要を創り出すことによって設備投資を促し、経済を活性化してきたケインズ主義経済がいたずらに資金供給の拡大、過剰流動性をもたらすだけで、設備投資効果を生み出せなくなったのだ。これが旧スタグフレーションの基本的な構造だと言える。  旧スタグフレーションの克服を看板に打ち出された新自由主義経済から今生まれつつある新しいスタグフレーションの構造はこれとは異なっている。すなわち、規制緩和や民営化、法人税引き下げなど、供給側である企業を強化することによって経済の活性化をはかる新自由主義経済の有効性が、膨大な貧困層の形成による消費の低迷とそれにともなう生産のための設備投資の停滞によって、独占資本に集中された富が行き場を失い投機へ回されるというかたちで失われたということだ。
 しかしながら、この二つの異なるスタグフレーションには共通性もある。それは、第一に、独占資本に二つの異なる経路から集まった富が設備投資ではなく投機に回されるようになったという事実だ。ケインズ主義末期における独占的大企業による過剰資本の株や土地など財テクへの運用、木材、セメントなどへの投機、そして寡占的支配力にものをいわせた生産の意図的縮小と投機的価格引き上げは、そのことを物語っている。
 その上で、独占資本への富の集中の度合いが異なり、金融自由化によって銀行が証券など直接金融部門を統合し乗り出してきている新自由主義の投機は桁が違う。サブプライムローン問題で露呈したシティグループなど米金融独占の損失が数百億ドルに上っているのはその一端を覗かせている。
 共通性の第二は、二つのスタグフレーションをともに促進するアメリカの危機、ドル安の進行だ。
 前述したように、今日、アメリカの景気後退が対米輸出の減少、外需の停滞を生んでいる。それが外需に依存する日本経済に及ぼす影響は計り知れない。そればかりでない。イラク戦争の失敗や新自由主義改革の矛盾の深刻化など、アメリカの危機が生み出すドル価値の低落は、ドルに依存する日本経済のインフレ化を大きく促進している。
 30年前も同様だった。ベトナム戦争の敗北、ドル基軸通貨制の動揺と変動相場制への移行など、アメリカの危機が叫ばれ、ドル危機が進行していた。一言でいって、ケインズ主義も新自由主義もアメリカで生まれ、その矛盾でアメリカが危機に陥り、ドル危機、ドル安が進行する中、アメリカに追随し依存する日本のスタグフレーションが促進されたという構図だと言えるだろう。
 ところで、こうした共通性を持ちつつ、新しいスタグフレーションの危機は、ケインズ主義のそれより幾倍も深刻である。それは、今日、アメリカへの依存が、新自由主義、グローバリズムのもと、より世界的範囲に広がっており、国境を取り払ったより一体のものに深まっているからだ。
 一方、新自由主義、グローバリズムにより、日本と世界からより無制限に富を吸収するようになった独占資本への富の集中と、世界中の労働者と共通の労働市場でより低い労働条件をめぐる競争を強いられる労働者の貧困化との格差はいよいよ甚だしいものになる。これが新しいスタグフレーションを幾層倍も深刻なものにするのは明かだ。
 二つのスタグフレーションは一体何を教えてくれているのか。それは、独占資本への富の集中とアメリカへの依存にこそ、スタグフレーションの根因があるということ、新自由主義のもとその悪結果は、はるかに甚だしいものになるということ、そして、新たなスタグフレーションの危機が現れている今日、問われているのは、この根因をなくす新しい体制の模索とその構築への努力であるということではないだろうか。


 
論点

不動産不況の現場から

魚本民子


 4月21日、東京カンテイは3月度の三大都市圏中古マンション(70平方メートル=おおよそ3LDKの一般的なマンションの大きさ)の価格推移を発表しました。首都圏の中古マンション価格は3,267万円(前月比1.6%上昇)と3ヶ月ぶりに上昇に転じたものの、その実、東京都で0.5%上昇した以外、神奈川・千葉・埼玉とも下落。さらに、近畿圏の中古マンション価格は、1,886万円(同1.0%下落)と12月からの下落傾向が続く結果となり、中部圏では1,529万円(同1.3%上昇)と2月までの横ばい傾向からやや上向き傾向が窺われるとのことでした(住宅新報発表)。
 このように中古マンション価格が低迷しているということは、中古マンションへの需要が低下していること、言い換えれば、中古マンション購入者が減ってきていることであり、それは不動産業を営む者にとって不動産売買取引が減ったことであり、今後の観測として大変苦しい経営が問われるということです。現に我が社でも、値引きによる値引きを繰り返しながらも物件が売れず、苦戦を強いられています。
 この厳しい状況は、中古マンション市場のみならず新築マンション市場でも顕著です。3月度の首都圏の新規発売戸数(売り出し戸数)は前年同月比17.8%減の4,490戸、15年ぶりの低水準とのこと、その契約数(発売初月契約率)も65.2%と好調目安とされる70%を8ヶ月連続で下回っています。近畿圏の発売戸数も前年同月比26.6%減の2,544戸、契約率は59.2%という低迷振りです。この現実を前に、ある専門家は「販売在庫が高水準にある中、春の入居時期を過ぎて需要が一息つくこれからは、条件の悪い物件を中心に損切り覚悟の値引きモードが広がってくることが想定されます。市場縮小化、資材価格等コスト上昇に伴う収益悪化の流れの中で、中小マンション業者の掛け値なしの生き残り競争が始まる予感です」と憂慮していますが、すでに体力のないマンション分譲会社(アジャックスや東洋ホーム)の自己破産が出始めています。
 このマンション市場の低迷の理由としては、@マンション価格高騰で消費者の購入意欲低下、Aサブプライムショックに伴う経済混乱で消費マインドが悪化、B金利引き上げが遠のいたとの観測から消費者の駆け込み需要の減退、C団塊ジュニアの世帯形成層の需要がピークアウトしたことなどが推測されています。とにかく需要を回復しないことには景気の拡大もないのですが、そのシナリオを描けないでいるのが現実です。
 しかし、不動産業界を取り巻く経営環境の悪化は、何も需要の悪化だけにあるのでなく、もっと根本的な構造的変化に原因があるのではと思えてなりません。
 今年4月1日から、戦後日本の住宅建設のサポート役を担った「住宅金融公庫」が廃止され「住宅金融支援機構」に改変されました。この改変は5年前からの特殊法人改革の一環で、公庫の「民営化」とでも言いましょうか、住宅ローンの融資事業に民間銀行が参入してさまざまなサービスが展開される自由競争市場へと変わりました。いまや融資事業は、民間大手銀行もさることながら地方銀行、外資入り混じっての混戦状態となっており、サービス競争が過熱すればするほど、消費者にとっては「自己責任」が問われるようになってきています。そのような中で、日本版サブプライムローンはアメリカのGE子会社である「GEコンシューマー・ファイナンス」によって派遣社員向け、転職者向け住宅ローンとして商品化されています。借りる方も「自己責任」です。
 この「住宅金融支援機構」への改変、民営化が今後、不動産業界に具体的にどのような影響を与えるのかはさらに注視していかねばならないと思っています。
 ただ今言えることは、住宅市場が縮小していく状況下で、外資も含めたより多くの資本が投入される過当競争、そこでは体力ありき者は更なる利を上げ、体力なき者は淘汰されていく二極化構造が進行していくのが至極当然の理です。この市場至上主義の波が、不動産業界を飲み込んだということではないでしょうか。
 そしてその根本に社会の二極化、膨大な貧困層の形成による消費の停滞があるのは言うまでもないでしょう。一言で言ってしまえば、新自由主義のもとでの不動産不況ということではないかと思います。


 
時評

義務教育はすべて国の責任で

つねひろお


 子供たちの大好きな給食を巡る問題が学校で起きているという。新聞の見出しに給食費を滞納している父兄に対し、自治体によっては「給料差し押さえを伴う強硬策」で徴収しているという過激なものが目を引いた。払う能力があるにもかかわらず、子供が食べた食費を払わない不心得な父兄がいるためだというのだ。もっといえば子供に「無銭飲食」をさせているということになる。再三督促しても払わないのは「規範意識の低下」が背景にあるからだという。
 滞納は全国に広がり、文部科学省が昨年発表した全国調査では、給食がある小中学校の4割を超える13907校で滞納があった。児童生徒の約1%にあたる10万人近くに上り総額22億円余になる。各地の市町村教委が最近打ち出した対策は、あらかじめ警告し、滞納が続いたら法的措置に踏み切るというものだそうだ。自治体が危惧するのは年々滞納者が増え、このまま放置すれば益々給食制度そのものが成り立たなくなることだろう。給食の食材は概ね給食費で賄われている。自治体の負担は調理に関わる人員であったり施設の提供が主になっている。滞納の増加は質の低下と直結する。
 学校が考える未納の原因の約60%が「保護者としての責任感や規範意識」、約33%が「保護者の経済的問題」、約7%が「その他」。近年の格差がもたらす真に経済的理由であるならば、自治体によって違いはあっても、「就学児童支援制度」のようなものがあるはずだ。これを周知徹底すれば多少改善が見込める。それが出来ていないのであれば行政側の努力不足ということになるのではないか。経費節減のためこれを見て見ぬふりを決め込んでいるのであれば誰かと五十歩百歩の違いではないだろうか。
 現下の公立学校の教育費は馬鹿にならない。小生の知り合いの子供が公立の中学に入ったが、初年度の教材費や制服代などで年間10万円を超えるとぼやいている。「親より高いブレザーにトレーニングウェアーが学校指定なんだ」と。問題の給食費は月々約7000円だそうな。また、知り合いのおばあさんの娘に対する一言。「あんた馬鹿したね。子供を私立に行かせなきゃ家一軒建ったのにね」。レベルの違いこそあれ教育費はかかるということの一言。
 日本が教育にかける予算は欧州などに比べて少ないと聞いている。払う能力があるのに子供が食べた給食費を払わない父兄は言語道断だが、日本の未来を担う子供たちに均等な教育の機会を保証するのは国としての責任である。食育を標榜するのであれば、給食費について全ての公立学校は国の責任で保証するのは当然である。一部の父兄の規範意識の低下に右往左往するのではなく、国の将来に対する今の時代の責任として、公教育のあり方について今一度考える機会とすることが必要なのではないだろうか。


 
資料

虎視眈々と医療保険を狙う外資

本山美彦著「サミット論構築のために」抜粋


 「後期高齢者医療保険制度」によって、これまで保険料を支払っていなかった200万人を超す75歳以上の老人が保険料を払わなければならなくなった。子供の扶養家族として健康保険に加入していた75歳以上の老人はそこから外され毎月保険料を徴収される。保険料を滞納した老人は保険証を取り上げられてしまう。80年代に入って社会保障制度の市場化が推し進められてきた。医療保険では米国の保険会社が最も大きい市場シェアを確保して派手なテレビコマーシャルを流すようになった。
 医療保険を扱う保険会社にとって日本の医療制度の改革は絶好のビジネスチャンスとなっている。
 日本は医者にかかることの多い老人だけを集めて別な保険制度にするという世界にも類を見ない冷酷な社会についに突入した。年金という取りつきやすい財源からの天引きが、いとも簡単に採用された。国民の健康をいかにして護るかの視点を欠落させ、数字あわせのみを意図する政府の姿勢は国民皆保険制度を崩壊させ外資依存に傾斜することになる。


 
 

世界の動きから

 


 平和の祭典「オリンピック」に政治問題を持ち込もうとする米国などの動きを批判し、オリンピック精神を守り中国を支持する声が高まっている。

○元ドイツ首相シュミット
 私は北京オリンピックボイコットなど考えたこともない。私は政治的影響を受けない国際体育行事を評価したい。全世界で自身の秩序概念を注入するのが自身と同盟国の義務であると騒いでいる一部米国政治家の狂信には当惑した。主権国家への内政不干渉という国際法的原則を固く信じる。

(ドイツ新聞「ディー ジャイト」)

○ベネズエラ(チャベス)
 ベネズエラ大統領チャベスは、カラカス訪問を終えたインドの原油天然ガス相ミューリ・デオラに同行していたインド人記者との会見に応じて次のように述べた。ベネズエラは北京オリンピックを確固と支持しておりチベットは中国の一部であると考えている。チベットカンパニアの背後には米政府がいる。米国はオリンピックを準備してきた中国政府の努力を傷つけようとしているのだ。

(インド新聞「ヒンドゥー」)

○各国オリンピック委員会協会委員長
 「205の民族オリンピック委員会が提出した書簡には反対の文言は一つとしてなかった」「オリンピックの政治的利用のいかなる企図にも反対する」

(オーストラリアABC)

○中国海南島で開かれた、「アジアフォーラム」に参加した各国首班
・パキスタン大統領ムシャラフ「パキスタンは北京オリンピックが大きな成果を収めることを期待するし、そうなると信じる」。
・タンザニア大統領キクウェテ「わが国が聖火リレーを主催することは喜ばしいことだし、成功裏に終わるように最善を尽くす。これに反対することは誰であれ許されないことだ」。
・スリランカ大統領「オリンピックを妨害しようとするいかなる企図も失敗をまぬがれないだろう。成功を心から望む」。
・モンゴル大統領エンホバヤル「開幕式に参加することを非常に喜んでいる。成功裏に行われることを望む」。

(新華社)
・タイ首相サマク
 聖火が自国を通るのは栄誉なことであり、示威者が反対する理由はない。わが政府はその安全を完全に保証する。彼らは一体何を狙っているのか。彼らは中国で抗議行動をやらず何故タイでやるのか。
(AP)
・タイ外相
 北京オリンピック支持を強調しながら、タイ首相が開幕式に出席すると言明。「タイは台湾問題、チベット問題でも『一つの中国』を支持してきた。チベット問題は中国の内部問題であり地域の安全と繁栄のため、中国政府には適切に処理する能力があると信ずる。チベット問題とオリンピックを結び付けることには反対であり、聖火リレーも成功裏に行われると確信する」。
(新華社)

○インドネシア
 インドネシア国家体育理事会委員長は「オリンピックが政治に利用されてはならない。それはオリンピック憲章違反だ。『憲章51条』には政治を含むあらゆる宣伝活動は許されないと明示しており、我々はそれを守る」と述べ、副大統領ユスフ・カラは「チベット問題は中国の内部問題だ」とし中国政府の行動を支持した。

(新華社)

○中国外務省スポークスマン談話
 米下院でチベット関連及び反中国決議案が採択されたことに関連して、「決議案はチベットの歴史と現実を歪曲し中国の内政に干渉するものであり、中国はこれに強い怒りを表明し断乎反対すると」述べた。また「ダライラマは政治と宗教が結合した奴隷制度の総代表だ。この奴隷制度は人類歴史上もっとも悪辣な制度であり、ここにはいかなる民主主義も自由、人権も存在せずただ奴隷主の特権だけが存在する。彼が唱える『中間の道』とは自身の過去を取り戻すということであり、それは解放された百万農奴を再び暗黒の中に追いやることだ。そのような『道』を一体誰が支持するというのか」と述べた。

(新華社)


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