研究誌 「アジア新時代と日本」

第58号 2008/4/5



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

情勢 帝国化、一極化か、自主化、多極化か 焦点、アフリカでの攻防

「日米同盟」によるでっちあげ捜査に反撃を

論点 外国人研修生 全国フォーラム

環境を考える(最終回) 生物進化に学ぶ 体内環境バランス

世界の動きから



 
 

編集部より

小川 淳


 3月8日、東京渋谷のレモンホールにて、「小田実さんの志を受けついで」と題した「九条の会」講演会に参加しました。
 大江健三郎、加藤周一、鶴見俊輔、三木睦子、井上ひさし、奥平康平、澤地久枝という、そうそうたる顔触れの講演会で、前売り券はとっくに売り切れ、立ち見がでるほどで、当日券を求めてやっと入場することができました。
 各講演を面白く拝聴したのですが、中でも私が印象的だったのは井上ひさし氏の「良心的軍事拒否国家」の話でした。
 小田氏がドイツの「良心的徴兵拒否制度」にヒントを得て提唱したことは知っていましたが、恥ずかしい話ですが当初は小田さん一流の法螺話が始まった程度の認識しかなかったのも事実です。しかし、今回、そのロマンあふれる雄大な構想に触れ、日本が「憲法9条を具現する」とはどのようなものなのかを改めて考えるとき、意外にも現実的で説得力のある構想ではないかと認識を改めた次第です。
 夢といえば夢のような話かもしれませんが、夢のある話だからこそ心を駆り立てる不思議な力も湧いてきます。今、9条擁護論に必要なのは、人に夢を与えることだと小田さんは思ったのかも知れません。小田さんはそれができた稀有な人でした。
 もう一つは、玄順恵さんの話の中で、小田さんが若い時に、アジアに触れたこと、それがなかったら、のちの小田実は存在しなかったという話もなぜか強く心に残りました。
 小田さんは周知のように西欧文明の原点ともいうべきギリシア古典から出発した人ですが、若い時にアジアを歩いたことが、後の「行動する作家」としての小田さんの原点になったという、この視点から小田さんをとらえ返せば新しい小田実像が見えてきそうな気がします。「アジア」という視点からこの日本をとらえ返すこと、それは小誌の出発点ともぴったり重なっています。このアジアの視点を生かしていくこと、それが小田さんの志を受けついでいくことにつながると、私はそう信じています。


 
情勢

帝国化、一極化か、自主化、多極化か
焦点、アフリカでの攻防

小西隆裕


 今、アフリカが熱い。1960年代から70年代にかけて自主と独立の大陸として嵐のような熱気に沸いたアフリカが、国家主権を否定するグローバル化、新自由主義化の逆風との長期にわたる苦闘を経て、今日、アメリカによる世界の帝国支配、一極支配を崩す、自主化、多極化の世界史的闘いの一つの焦点として再び熱気を取り戻してきている。

■加速する経済成長、脚光あびるアフリカ
 今日、アフリカの経済成長は目ざましい。07年まで4年連続でGDP成長率5%を超えた。アンゴラの23・1%(07年)など、二桁成長の国も増えている。
 その引き金になっているのが原油やレアメタル(希少金属)など、天然資源の価格の高騰だ。銅4倍、原油3倍、そしてコバルトやクロム、タンタルなどレアメタル2〜8倍、等々、この5年ほどの一次産品の価格の大幅上昇は、資源の宝庫、アフリカの経済力を一段と高めている。
 原油一つとってみてもそれは明白だ。過去10年に世界で発見された原油埋蔵量のうち27%をアフリカが占めており、埋蔵量のシェアは世界の10%にのぼっている。そうした中、アメリカの輸入原油のうちアフリカの占める比率は15年には25%に達し、サウジアラビアを抜くとの予測もあり、中国も原油輸入の4分の1をアフリカに依存している。
 一方、ハイテク産業に不可欠な各種レアメタルやウラン、ダイヤモンドなど豊富な天然資源は、原油や天然ガスなどとともに、折りからの一次産品価格の高騰にともない、アフリカ経済の力を押し上げ、中国、インドなどに続く新興国への発展の展望を大きく開いていっている。それが、アフリカを舞台とする欧米や中国などによる資源争奪戦と相俟って、アフリカを世界政治の一つの焦点にしていっている。

■もう一つの焦点、「ダルフール」
 今日、アフリカが世界政治の焦点になっているのは、経済とともにアフリカ各地で起きている紛争のためだ。スーダンのダルフール地方、ソマリア、コンゴ、ケニアなど、民族間、部族間の紛争が大きな国際的問題になっている。
ダルフール紛争はその典型だと言える。03年、アラブ系中央政府に対し、ダルフール地方の黒人住民らがスーダン解放軍(SLA)などを組織して蜂起。これに対し政府軍の後押しを受けたとされるアラブ系民兵が黒人住民の農村を一斉襲撃して紛争が始まった。04年以降、アフリカ連合(AU)や国連の仲介で停戦や和平合意が結ばれたが、守られず、その死者は20万人、国内避難民は200万人に上ると推計されている。
 そうした中、これまでAUの停戦監視活動(7千人)が行われていたが、今年から国連とAUとの合同平和維持部隊(UNAMID、2万6千人)が活動するようになった。これで、アフリカで活動する国連PKO部隊は、コンゴやエチオピア・エルトリア国境など4カ所に上っている。
 ここで注目されるのは、アメリカが世界に展開している地域統合軍の司令部(現在、欧州、北方、太平洋、中央、南方の5つがある)をアフリカにも置こうとしていることだ。これは、アメリカがISAF(国際治安支援部隊)を前面に押し出し、国連主導の治安作戦としてアフガニスタンにおける反テロ戦争を展開し、それを世界政治の焦点にしようとしているのと連動している。
 単独行動主義によるイラクにおける反テロ戦争に失敗したアメリカは、今、国際協調主義による反テロ戦争を、国連を推し立て、当面、アフガニスタン、そしてアフリカで成功させ、焦点化しようと謀っている。アフリカ諸国の強い反対にも関わらず、執拗にくりかえされる地域統合軍司令部のアフリカ設置に向けた画策は、そのことを物語っていると言えるだろう。

■「アフリカ合衆国構想」をめぐる攻防
 第9次AU首脳会談は、「われわれは、一つのアフリカ同盟政府を樹立し、アフリカ合衆国創設を最終目標とすることを含むアフリカの経済および政治の一体化過程を促進するのに同意する」と宣言した。既存のAU(53カ国・地域)を中央政府を持つ合衆国型に改組する構想、いわゆる「アフリカ合衆国構想」だ。ここには、アフリカ諸国が力を合わせ、地域の政治経済的統合を達成し、アフリカを自主的で繁栄する大陸に建設しようとする強い意志と志向が込められている。
 しかし、残念ながらこうしたアフリカ諸国の意思はそのまま実現されそうにない。世界の帝国支配、一極支配か自主化、多極化かのアフリカにおける闘いは、この「アフリカ合衆国構想」をめぐってもくりひろげられている。
 今日、地域共同体をめぐる自主化、多極化かアメリカによるグローバル帝国化、一極化かの攻防は、アフリカだけでなく、アジアでも、中南米でも、ヨーロッパでも、世界中至るところで熾烈に展開されている。それは、その本質において、地域共同体を主権否定の集合体として米一極支配の一構成部分に組み込むのか、それとも主権尊重の共同体として多極世界の一極を担うようにするのかの闘いだと言うことができる。
 今年、2月、6日間にわたったブッシュのアフリカ5カ国訪問は、アメリカがいかにアフリカとの関係を重視しているかを見せつけた。それは、資源問題であるとともに、米地域統合軍司令部のアフリカ設置問題、そして「アフリカ合衆国構想」に関する問題だ。
 今日、アフリカでは、エジプト、リビア、アルジェリア、ナイジェリア、南アフリカを「5大国」と言い、この5カ国がAU予算の約半分を供出している。問題は、このうち3カ国がサハラ以北の地中海沿岸国であり、今年7月、パリで行われる「地中海連合」結成に参加することだ。これが、サルコジ・フランスを通してアメリカが「アフリカ合衆国構想」に影響を及ぼす一つの利用物にされるであろうことは十分に予測されることである。
 こうした欧米の動きとともに、この10年間で対アフリカ輸入を20倍に増やし、アフリカに50万人を送り込み各種プロジェクトを推進する中国の動きは、資源や市場の争奪戦とともに「アフリカ合衆国構想」にも、また別の作用をしないではおかないだろう。

■アフリカ自主化への力強い前進
 原油やレアメタルなど一次産品価格の高騰に沸くアフリカは、かつてのアフリカではない。30年前、一次産品価格の急落によって、わずか一つか二つの一次産品輸出に全面的に依存していたモノカルチャー経済のアフリカは、国民生活に必要な食料も生産できない国民経済の崩壊、重債務、生活破壊の暗黒の大陸へと転落した。サハラ以南のアフリカ諸国のGDP総計が産油国ナイジェリアと南アフリカを除けば、世界全体の0・3%にも満たないという惨状がそれをよく物語っている。
 「過去の失敗は繰り返さない」。アフリカ諸国政府高官のこうした発言は、欧米や中国の援助への要求が、資金だけでなく、技術や投資など幅広いものになっていること、また、自国民の雇用創出や技術移転に結びつく援助が求められていること、等々に具体的に現れている。また、援助に頼らない自立的成長への努力もなされている。園芸産業の開花や農薬を減らす新農法の開発、携帯電話を用いた漁業の生産性の向上、等々だ。そしてなにより大きいのが、人材の育成や欧米へ流出した頭脳のUターンが図られるようになってきていることだ。アフリカ諸国政府官僚の「まじめさ、熱心さに感動した」と言う日本の商社員たちの証言はその証左だと言えるだろう。
 歴史は繰り返されない。かつて自主独立の息吹に燃えたアフリカは、グローバル化、新自由主義化のもと、モノカルチャー経済に特化して失敗した苦難の歴史を経て、今や経済の土台から自主化、自立化する新しい時代を迎えている。それは、新自由主義のもと民営化された鉄道や鉱山の劣悪な労働条件に抗し立ち上がっている労働者たちの闘争と相俟って、アフリカ自主化への歩みを一層強固なものにしていくだろう。それは、「アフリカ合衆国構想」をアメリカの世界支配のためのものでなく、世界の自主化、多極化を促進するためのものにするのにもつながっていくに相違ない。
 今年5月、日本で「アフリカ開発会議」(TICAD)が開かれる。それに向け、政府要人のアフリカ詣でが目立っている。こうした中、日本に問われているのは、徹頭徹尾、真心からアフリカの立場に立ち、その要求に応えることではないだろうか。それが結局は、時代の趨勢と日本の利益に合うことを忘れてはならないだろう。


 
 

「日米同盟」によるでっちあげ捜査に反撃を

救援連絡センター事務局長 山中幸男


■踏みにじられた「一事不再理」原則
 事件発生から26年余、日本で長期裁判の末に無罪が確定した人を、なぜ米国警察が同じ容疑で逮捕できるのか。
 メディア各社は逮捕直後、<27年目の「新証拠」注目/実行犯は誰かがカギ>(25日付朝日)<FBI「新証拠」ある/一美さん銃撃、日本側に説明>(同読売)などと米捜査当局が「新証拠」をつかんだかのように報じている。
 ところが、26日(日本時間)に記者会見したロス市警の報道官は、今回の逮捕が1988年5月にとった逮捕状にもとづいて執行されたと言明、米捜査当局が入手したと報じられた「新証拠」については一切言及しなかった。
 1988年当時、日米の捜査当局は緊密に連絡を取り合っていた。ロス市警は「目撃者の証言にもとづく捜査報告書」や「現場の物証」などを警視庁に提供。警視庁は同年10月、三浦さんを「銃撃事件」の殺人容疑で逮捕した。
 今回、サイパンで執行された逮捕状が、日本での逮捕の5カ月前に出されたものだとすれば、三浦さんは同じ「容疑」、同じ「証拠」で二度逮捕されたことになる。しかも、その「証拠」にもとづく「公訴事実」は、日本の裁判所で完全に否定されている。
 これは、国際人権規約、憲法などで確立された刑事司法の原則「一事不再理」を踏みにじる暴挙である。日本の司法による確定判決を米国警察が公然と無視し,再び立憲しようというのである。日本の鳩山邦夫法相は、これに抗議するどころか、26日の会見で「日本での無罪判決は捜査協力を拒否する理由にならならい」などと述べている。日本のメディアはこの暴言を批判もせずに垂れ流した。
 その後、サイパンでは身柄拘束の是非、ロスへの移送手続きをめぐり、米司法当局と三浦さんの弁護人の間で攻防が続いている。メディアはその経緯を逐一伝える一方、23年前の「ロス疑惑」報道で使い古した映像や無罪確定で「反古」になった資料を持ち出し、再び三浦さんを「疑惑人」に仕立てている。
 今、これらの「疑惑報道」に携わっている報道関係者のなかで、最高裁で確定した「銃撃事件」東京高裁判決(1998年7月)を読んだ人はいるのだろうか。この間の報道は高裁判決が指摘した重大な問題を無視している。

■破綻している検察の「事件の構図」
 警視庁は88年10月、三浦さんと「実行犯」とされた米在住の知人Oさんを殺人容疑で逮捕した。89年から東京地裁で始まった一審公判で、検察は「事件の構図」をこう描いた。
 <会社が経営難に陥っていた三浦は、妻に保険金をかけて大金を入手しようと計画。米在住のOと共謀し、1981年11月18日、ロス市内の駐車場に写真撮影を装って車を停め、Oに妻を銃撃させた。三浦は、自分の嫌疑を避けるため、Oに自分を撃つよう指示、左足を銃撃させた。妻は一年後に死亡、三浦は約1億5千万円の保険金をだまし取った>
 検察が起訴の「決め手」としたのは、事件当時、現場で目撃された「白いバン」。銃撃前に三浦さんたちが撮った写真にも「白いバン」の一部が写っていた。日米捜査当局は事件の前日、Oさんが「白いバン」をレンタルしていたことをキャッチ、それをほぼ唯一の証拠としてOさんを「銃撃事件実行犯」と断定した。
 しかし、現場で目撃、撮影された「白いバン」は、Oさんがレンタルしたものではないことが一審審理で明らかになった。Oさんが借りたバンにはアンテナがついていたのに、写真のバンにはそれがなかったのだ。
 94年3月、一審、東京地裁はこれを認め、Oさんを無罪とした。「動機」とされた「経営難」についても、会社は黒字で金に困っていなかったことが立証され、判決はそれも認めた。「実行犯」が消え、「二人の共謀」が否定され,「動機」もなくなった。にもかかわらず、一審は検察が主張もしなかった「氏名不詳者との共謀」説を打ちだし、実行犯不明のまま、三浦さんに無期懲役の有罪判決を言い渡した。
 一審判決に三浦さんは控訴、検察も「実行犯はO以外にない」と控訴した。

■高裁判決が示した明快な「無罪の根拠」
 1998年7月1日、東京高裁(秋山則雄裁判長)はOさんに一審と同じく無罪、三浦さんについても「氏名不詳者との共謀」を認定した一審有罪判決を破棄し、無罪を言い渡した。
 判決は検察の基本的主張をすべて退け、三浦さんの無罪の根拠を明らかにした。
 Oさんとの「共謀」に関しては、現場で目撃された「白いバン」とOのバンは別個の車と推察すべき根拠がある。Oには犯行に加担する動機がまったく見当たらない。本件前にOと三浦が謀議した痕跡が見当たらない。犯行の加担に関する報酬授受の事実がない。
 一審が認定した「氏名不詳者との共謀」については、証拠上、共犯者が特定されていないというだけでなく、まったく解明されていない。日本にいた三浦が、アメリカにいたと想定するほかない氏名不詳者の共犯をみつけ、銃撃事件について謀議する機会はほとんどなく、現実に謀議した痕跡はまったく見当たらない。一美さんを連れて渡米した経緯には、むしろ犯行計画を否定しているような事情が認められる。犯行加担に対する報酬支払いの事実がまったくない、と認定した。
 2003年3月、最高裁は検察の上告を棄却し、三浦さんの無罪は確定した。
 三浦さんは1985年9月、別件「殴打事件」で逮捕されて以来、18年間、「メディア主導、日米警察合作の冤罪」と闘い抜き、勝利した。
 彼はその経験をもとに、報道被害、冤罪をなくすために、「恵庭冤罪事件」「和歌山カレー事件」など、無実を訴える人たちの声に耳を傾け、その支援活動に取り組んできた。
 今回の逮捕は、三浦さんに対する日米捜査当局による報復の一面もあり、米国の横暴に抗議し、三浦さんの闘いに対して支援を呼びかけたい。
 この報告は、山口正紀さん(「人権と報道連絡会」世話人)の文章をもとにして一部加筆したものである。

――資料――

ロス疑惑事件とは
 1981年、輸入雑貨商の三浦社長と妻の一美さんがロス郊外で何者かに銃撃され、三浦さんは足を負傷、一美さんは頭に重傷を負い、一美さんは翌年死亡した。三浦さんは保険会社から総額1憶5千万円の保険金を受け取った。
 1984年、週刊文春が「疑惑の銃弾」と題した特集を組み、三浦氏が保険金目当てに仕組んだ事件ではないかと報道して以降、「三浦犯人説」を強調するマスコミ報道がテレビのワイドショーを中心に過熱した。
 銃撃事件の3ヶ月前に一美さんが後頭部を殴打されるという事件が発覚、三浦さんは殴打事件で逮捕され、懲役6年が確定。2004年に仮出所している。
 しかし、「一美銃撃事件では妻を銃撃したという確かな証拠はない」として東京高裁は三浦さんに無罪を言い渡した。
 2003年、最高裁は「一美さんを殺害したと認めるには合理的な疑いが残る」としてこの二審判決を支持、三浦さんの無罪が確定した。


 
論点

外国人研修生 全国フォーラム

小川 淳


 3月8日、9日、明治大学駿河台キャンパスにおいて、「外国人研修生権利ネットワーク」主催の外国人研修生・実習生の過酷な労働実態、同制度の改善を求める全国フォーラムが、当事者である研修生も多数参加する中で開催された。
 外国人研修制度とは、海外において同業種に就労している人材を、1年ないし3年間日本の組合企業のもとに受け入れ、実務を通して研修を行い、技術・技能・知識を修得することにより、産業の振興、人材育成の協力、国際社会の貢献を目的として作られた制度で、それが外国人研修制度の基本理念とされる。もしその理念通りの制度として運用されているなら、素晴らしい仕組みといえるだろう。事実、多くの外国人研修生が日本の技術を学ぶために、あるいは家族の幸せのためにと、期待と不安が入り混じった気持でこの国に足を踏み入れていて、08年現在、その数は9万人を超えている。
 しかし実態はどうか。その理念とは裏腹に、「時給300円」に象徴されるように、現代版の奴隷労働に近い過酷な実態が明らかとなった。一例をあげるなら、岐阜県の縫製工場で働く6名の中国人女性は、日本で先進的な技術を学ぶことができ、しかも日本人と同じ賃金が支給されるという話を信じて、手数料として請求された6万元(約90万円)を工面して来日した。
 研修生のほとんどが来日前に抱いていたイメージとは程遠い現実に直面して愕然とする。岐阜の縫製工場では、「日本人と同一賃金」という話はデタラメだった。研修期間中は基本給4万5千円、残業手当は時給200円と、賃金や残業代は不当に低く抑えられ、強制貯蓄させられる。騙されたと気がついても、多額の手数料や家を担保にしてまで保証金を預けたまま帰国すれば、「逃亡」とみなされ、借金だけが残ることになる。
 逃げようにも、受け入れ機関である企業や協同組合は、彼らからパスポートや預金通帳をとりあげ、外出を制限し、携帯電話やパソコンを持つことさえ禁じている。こうした奴隷状態から抜け出したく思っても、その自由さえ彼らにはない。女性の研修生に対してはしばしばセクシャルハラスメントが起こっている。すべての人間に保障されるべき基本的人権や尊厳が彼らからは奪われたままだ。
 抗議の声を上げれば強制帰国させられる。強制帰国に抵抗した研修生による「殺人事件」や、06年には、鹿沼署の警官が中国人研修生を射殺するという、なんとも痛ましい事件さえ起きた。
 フォーラム会場には、研修生問題に長年取り組んできた組合活動家やソーシャル・ワーカー、労働問題研究者や新聞記者、弁護士や厚生省担当者も参加していて、同じ労働者でありながら、外国人研修生、実習生というだけで、憲法の人権規定も、労働法規も適用されていない非人間的なこの国の仕組みを変えるためには何が必要なのか、熱心な討論が続いた。
 フリーターや不安定雇用に苦しむ日本の「底辺労働者」だけでなく、日本で働くすべての外国人に対しても、人間としての尊厳、社会的正義の実現が今や切実に問われているのではないだろうか。
 いま多くの外国人労働者や研修生が日本の労組に入り、その権利を勝ち取るケースが少しずつだが増えているという。政府もやっと重い腰を上げて法的整備に着手する動きもある。これまで10数年にわたって地道に研修生問題に取り組んできた日本の労組活動家の献身的な闘いや努力が、真の意味でのアジアとの連帯や労働者同士の深い絆を生んでいることに心から敬意を表したい。


 
環境を考える(最終回)

生物進化に学ぶ 体内環境バランス

林功夫


 以下にアルカリ性食品で手頃な素材を挙げてみる。〈野菜〉玉ねぎ、茄子、胡瓜、レンコン、大根、ゴボウ、ジャガイモ、サツマイモ、人参、キャベツ、ホウレン草、コマツ菜。〈キノコ〉シイタケ、マツタケ、しめじ。〈果物〉バナナ、イチゴ、リンゴ、柿、ナシ、ブドウ、ミカン、クリ。〈海藻〉ワカメ、マカブ、昆布、〈その他〉牛乳、卵白、梅干し(注)。
 大まかに言うなら、リン、イオウ、チッソを多く含む肉類や魚介類は酸性であり、カリウムやカルシウムを多く含む上記のような野菜や果物がアルカリ性である。
 人体のPH調整には尿が使われているため、酸性食品を摂れば尿は酸性に、アルカリ性食品を摂ればアルカリ性となって体外に排出されるのである。
 尿酸はほとんど尿で排出される。その際、尿液がアルカリ性だと溶けやすく、排出がスムーズに行われ、当然、痛風や尿石の予防に効果も大きい。 また、「酸性食品」と「アルカリ食品」の区分けは、その食品が燃焼した後の灰を水に溶かした時に、どちらにより近いかで区分けされるそうである。
 さて、上の列記で注意すべきは、牛乳はアルカリ性だが、牛肉は酸性であり、卵黄(黄身)は酸性だが、卵白はアルカリ性という点であろうか。
 そして注目すべきは、人参、キャベツ、バナナがかなりの強アルカリ性だということであろう。そしてやはり海洋では化石サンゴ群と共に膨大な海の生命を養う海藻類はアルカリ性の宝庫と言えるのである。その代表食はワカメである。
 ところで、日本には大昔からアルカリ性食生活が根付いていた。小児科の医師であり、今年で87歳を迎える岡沢ミエコ博士は、人体の唾液分析歴40年にも及ぶ有名な女医である。彼女の話によれば人体の唾液を分析することにより、ほぼその人の体質が酸性傾向かアルカリ傾向かが判るそうである。唾液は血液から作られるからである。岡沢先生によると、酸性を作る原因は肉類、油類(主に動物性)といった高カロリー食品であり、日本民族は古来より余り食していなかったそうである。
 これに対し、アルカリ性を作る要素は野菜を中心とした植物性であり、これを還元食品(または食料)という。岡沢先生のお勧めの第一位は江戸時代より武家の藩用食材として重要視されたサツマイモである。土中の栄養素をふんだんに吸収し、繊維が張り巡らされたサツマイモは、米の代用として腹持ちもよい。更に便通もよい。ご飯や玄米は酸性であるため、江戸時代の日本人は武家も農家もサツマイモの効果を知っていたようである。お勧めの第二位は緑茶である。常飲することで血液も尿も酸化を防ぐことができ葉緑素の相乗効果もある。お勧めの第三位は、先にも挙げたバナナである。岡沢先生はバナナを最も優秀な健康保持食品に挙げておられる。但し、少々カロリーが高いため、カロリー調整が必要な方は毎朝三分の一でもよいそうだ。
 梅干しに注を記したのは、酢自体は酸性だからだ。しかし、梅肉やシソの葉はアルカリ性なので、うまく中和してくれる。これもまた、近年、欧米でも注目されている健康食品である。
 肉食により筋肉の増大は事実である。但し、酸化された肉を食べるため、専門のスポーツ選手でもない限り、持続性に優れず、老廃化も比較的早いのである。私自身の経験では、アルカリ性食品を多く摂取した週は寝つきや朝起き、共に良く、身が軽く快適である。反対に酸性食品を多く摂った週は、体が重く、寝つきや排便も悪く、動作も鈍りがちである。だが、肉食適応を果たした人間は肉類も必要である。
 実は太古の昔、狩猟によって動物性蛋白質を摂るようになったことで、人間の脳は飛躍的成長を遂げたという説もある。食生活の結論を言えば、野菜や果物と魚介を含む肉類の摂取比率は日々、七対三が望ましい。更に成長細胞が減少する中年期以降は、実は肉食は週に一回でも充分といえる。それが難しければ一日一品目でもアルカリ性食品を摂取するよう心がけてみよう。人体をアルカリ体質に改善していくことが体内酸化を防ぐ近道といえよう。私もラーメン、アルコール系飲料の日本酒、ビール、焼酎(ワインは中性)、タバコなどの酸性オンパレードが続く日は、身をもって教えてくれたあのイシガニの姿を思い出し、野菜や果物の買い出しに行くのである。但し、生物は人間より多種多様であるため、中には酸性環境を好む魚類も存在するが、人間とは進化過程も異なるため、現段階では参考にする必要はない。
 オゾン層破壊と森林伐採による温暖化で地球環境は待ったなしの状況に置かれ始めた。アメリカや中国等の大国は目先のエゴイズムばかり主張せず、地球の自然環境改善に本気になるべきだろう。アジアの新時代に生きる我々から、体内環境改善や周囲の自然環境に関心を持つことが、大きな力の一つとなる事は間違いなく未来への担保となるはずである。


 
 

世界の動きから

 


 3月1日にコロンビアがエクアドルに侵攻した事件は、隣国のエクアドル、ベネズエラの反米政権をにらんだ米国の策動と考えられ、その行方が注目された。以下、その関連記事。

■ラテン3カ国の紛争の根源は米国
 コロンビア政府軍が米情報部門の支援を受け、エクアドル領内1・8kmにあるコロンビア革命軍の秘密基地を攻撃しナンバー2であるラウル・レイェスと16名を殺害した。隣国のエクアドルとベネズエラは、ただちに国交関係を断絶し、国境地帯に軍隊を増派した。
 この事件の最も大きな要因は、コロンビアに対する米国の浸透にある。
 歴史的には3国は良い〔友〕であった。19世紀初のボリバルによる植民地解放闘争後、3国は大コロンビア連邦を形成したし、その後3国に分立した後も互いに協力してきた。69年には、ペルー、チリと一体化協定を結び共同の発展を模索するアンデス集団を形成し96年にはアンデス共同体を創設している。
 だがベネズエラとエクアドルで政治的変化が起きるや、米国はコロンビアとの関係を強化し3国の関係は悪化した。左翼人士チャベスとコレアは、反米色を強め、コロンビアは親米右派のウリベの指導の下に米国への依存を強め、自由貿易協定を締結した。07年3月にはブッシュが親善訪問している。
 ウリベはチャベスがゲリラを容認しているだけでなく資金、武器、人員移動などで支援していると非難。一方、チャベスは、米国の指示によって、コロンビア、特に軍部がベネズエラ政府を転覆しようとしていると見ており、両国間の2200kmの国境線では生態環境問題をめぐっても紛争が起きている。

(中国・世界新聞報)

■チャべス、米国との対決は不可避だと
 「我々が自由を望んでいる反面、彼らは我々が抑圧の中で生きることを望んでいる。我々はわが国民に光をもたらそうとしているが、彼らは暗黒の中で生きるよう策動している。我々は祖国を望んでおり彼らは植民地を望んでいる。それゆえ我々がどうして対決を免れるだろうか」。「コロンビア軍のエクアドル侵攻と我々への脅しなど、最近発生したすべての事態はすべて帝国の策動の一環だ」

(キューバ・ プレンサ・ラティナ)

■アルゼンチンでコロンビアと外交関係断絶を要求するデモ
 参加者はコロンビア大統領ウリベの「軍国主義」を糾弾し侵攻に抗議するためにコロンビア大使館前に集まった。
 アルゼンチン大統領クリスティーナは3月6日カラカスでチャベスとこの問題で討議した。アルゼンチンは、ブラジル、パナマ、ペルー、バハマと共に米州機構でこの問題解決のための成員国となり平和的解決に努力。

(イズベスチア)

■ブラジルが米州機構に対応を要求
 ブラジル外相が米州機構事務長と会談し、機構に対する信頼を維持するためにも素早い対応を要求。機構が応じなければ別個の調査グループを派遣するだろうと述べた。
※米州機構(34カ国)は、5日、コロンビアの侵攻を非難する決議を採択した。

(新華社)

■ラテン・アメリカ自体の力で
 リオ・グループ(20カ国)第20回首脳者会議がサント・ドミンゴで開かれ、地域の紛争問題を地域自体の力で解決できることを示した。
 各国首脳は例外なく他国の主権を侵したコロンビアの行為を非難し国際法を遵守することを要求。参加者は地域の平和と団結のために静かで説得力あるチャベスの演説に耳を傾けた。ウリベは国際刑事裁判所にチェベスを告訴する考えを放棄しエクアドルに謝罪し、今後どのような理由があろうと他国を攻撃しないと約束した。ニカラグァ大統領は国交断絶を考え直すとし(12日に関係を回復)、エクアドル大統領は、「これで問題は解決した」と述べた。彼らが壇上で互いに握手する姿を見て、ある代表は、ラテン・アメリカ諸国・カリブ海諸国は自分たちだけで危機を克服できる力をもっていると述べた。

(プレンサ・ラティナ)


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