研究誌 「アジア新時代と日本」

第45号 2007/3/5



■ ■ 目 次 ■ ■

時代の眼

主張 ―アジアの闘いが生んだ米朝合意― 今こそ、安倍政権に反対する主体的な闘いを

研究 高まる「愛国志向」を考える

論点 三角合併をどう見るか

寄稿T 「鈍感力」

寄稿U 金属泥棒

寄稿V 宮本さんから学んだ真の誠実さ

世界の動きから

編集後記



 
 

時代の眼


 最近、テレビのニュースを観ていて目だつたもの、それは、大リーグに行った日本人選手たちに関する報道だ。松坂、井川、岩村、それに古株のイチロー、松井など、彼らが出てこない日はない。
 それを観ながら、いつも思うのだが、日本のプロ野球はどうなっているのだろう。キャンプの進み具合やオープン戦の様子など、さっぱり出てこない。時折、出てきたと思えば、大リーグ情報の後に申し訳程度だ。
 だが、この報道姿勢に対して抗議の電話やメールが殺到したという話はついぞ聞かない。ということは、大リーグはメジャー、日本のプロ野球はマイナーという認識が国民的合意になっているということか。
 この現実を見るにつけ思うのは、米一極支配のもとでの日本の属国化だ。野球の世界も大リーグを頂点に、そのもとに各国のリーグが位置づけられ、各国の優秀な選手が大リーグに引き抜かれるようになっている。これも、アメリカの圧倒的な力の前では致し方ないのか。実際、メジャーリーガーたちの中に入り、日本の選手たちも、一級高い野球ができて幸せそうに見える。
 だが一方、これでよいのかという気にもなる。こんなことをしていれば、マイナーリーグ化した日本のプロ野球は第二次的で味気ないものになってしまうのではないか。
 しかし、主観的願望を混じえて言わせてもらえば、おそらくそうはならないだろう。政治の世界では、米一極支配は崩壊の危機に瀕している。今や、多極化が世界の基本趨勢だ。野球の世界も、これはもう少し時間はかかるかも知れないが、早晩そういう方向に向かうのではないだろうか。大リーグで鍛えられた世界各国選手たちの成長、彼らが活躍するWBCの権威の高まり、そして何より、政治や経済の世界での多極化の進展がそのことを予感させてくれる。


 
主張 アジアの闘いが生んだ米朝合意

今こそ、安倍政権に反対する主体的闘いを

編集部


 六者協議での合意を受けて、米朝は関係正常化、朝鮮半島非核化に向けて大きく動き始めている。東アジアにおいて、ブッシュ政権発足以来続いた米朝核対決という構図に転換の兆しが見え始めた。このまま米朝の関係正常化は進展するのか。ブッシュ政権と足並を揃えて対決姿勢を取り続けてきた安倍政権にとって、この米朝合意は何をもたらすのだろうか。

■安倍政権の誤算
 早くも安倍政権の失速が始まったようだ。とりわけ政権支持率の低下が著しい。NHKの世論調査では、政権発足以来、初めて不支持(43%)が支持(41%)を上回った。「朝日新聞」は、この急速な人気下落を「もはや赤信号に近い」(社説)としている。とりわけ20代で32%、30代で34%と、若年層の政権支持率の低下が目立つ。公明党支持層の内閣不支持さえも20%だ。北九州市市長選では敗北。圧勝が予想された愛知知事選も薄氷の勝利で、かろうじて面目を保っているのが現状だ。
 強引に成立させた教育基本法改正や防衛省昇格などの安倍政権が誇る「実績」さえも、支持率につなげることができていない。行政改革担当相の辞任、閣僚の失言問題、郵政民営化反対議員の復党問題、久間、麻生などの対米批判発言など、政権への求心力も著しく弱まっている。
 ところが、参院選まではなんとしても人気取りに終始しなければならない事情が安倍政権にはある。参院選後の政治スケジュールは人気絶頂の状態でなければ一歩も進まない、論議を呼びそうなものばかりがリストアップされているからだ。
 ▲日本版NSC(国家安全保障会議)や日本版CIAの創設。▲集団的自衛権行使の可能化と在日米軍再編問題。▲消費税の引きあげ。▲保守勢力を糾合し、次の任期中に憲法改正の成就、そのための国民投票法と共謀罪制定など、これら難題を強引に成立させるためには、圧倒的な安倍人気なしには不可能だ。
 安倍政権にとって、最大の誤算は六者協議での米朝合意であったことは想像に難くない。「主張する外交」を掲げて出発した安倍政権にとって、ブッシュ政権の譲歩とも妥協とも見える米朝合意は予想外で、盟主米国の対朝鮮政策転換によって、いわば「梯子を外された」形となった。米国の路線転換は当然にも今後の安倍政権運営に軌道修正を余儀なくさせるだろう、という見方が有力となっている。

■ブッシュ路線後退の意味とアジアの闘い
 2月13日、北京における六者協議で、「核施設の稼動の停止と封印」、その見返りとしての重油100万トンの支援など、「初期段階の措置」を取決めた合意文書が採択された。
 今回の米朝合意は、明かにこれまで米ブッシュ政権が強引に進めてきた「力による対決」路線を大きく転換するもので、ブッシュ外交の破綻と言っても過言ではない。朝鮮が求めてきたマカオ口座への制裁解除が一部実現し、テロ支援国家指定解除、IAEA・エルバラダイ事務局長の訪朝という、これら一連の動きは、今年前半にかけて、米朝が大きく関係改善へと動き始めたことを示すものだ。
 ただ留意すべきは、この合意がすなわち米国の世界戦略―反テロ戦争戦略、米一極支配―の転換と見るのは、早計ということだ。
 なぜなら米国の外交政策に後退があったとしても、その帝国主義的本性に変化はありえないからだ。米朝の半世紀にも及ぶ対決の中で、ジュネーブ合意のように和解の端緒は幾度もあったが、そのつど米国は破綻させてきた経緯がある。米朝対決は本質において国家主権をめぐる闘いであり、核対決はいわばその象徴に過ぎず、核問題解決がすなわち米朝正常化の最終ステップではない。
 今回、アーミテージやチェイニー副大統領が訪日し、日本にイラク支援継続を要請したことでも明らかなように、米一極支配という米国の戦略にはいささかの変化もない。日米は今回、世界における米一極支配の維持と強化、それを軍事的に支える日本の役割の重要性を改めて確認している。
 今回の米朝合意は、あくまでも米一極支配を維持・強化する上で、朝鮮の核開発、すなわち核の拡散は放置できず、軍事的オプションは使えない条件下で、朝鮮の核開発を何とか停止させたいという戦術的転換であって、決して戦略的転換ではないということだ。
 その上で、このブッシュ政権の後退、東アジアの平和と安定への展望を生み出したのは何であったのか。それは、何よりも朝鮮が米ブッシュ政権の軍事的恫喝や核威嚇に屈せず、またイラン、イラクやアフガンなどでくり広げられているアジア人民の反米抗争、米一極支配に抗する主体的な闘いが大きく前進、勝利したからであったと思う。

■客観情勢に任せることはできない
 米国の反テロ戦争、対朝鮮強硬路線という「米朝の対決」を後盾に、国内的には反拉致気運を追風に政権の運営を画策してきた安倍政権にとって、今回の米朝合意は大きな打撃となった。だが、それをもって安倍政権の破綻だと考えるのは早計に過ぎるのではなかろうか。
 既に確認したように、ブッシュ政権が対決から対話へと大きく舵を切ったとはいえ、ブッシュ政権の反テロ戦争を主軸とする世界戦略にはいささかの変化もない。また、それを支える安倍政権の改憲路線に対しては、それを押し進めるよう米国は圧力をかけ続けている。
 当面する日米間の最大の関心事は、朝鮮の核放棄、言い換えれば米一極支配の維持にあり、この目的において日米間に何の矛盾も亀裂もない。朝鮮の核放棄をいかに実現させるかの方法論においては、これまで通り「圧力」もあれば、「対話」もありうるだろう。安倍政権もまたこのブッシュ政権の硬軟両用戦術を受けて狡猾に対応してくると見るのが最も妥当ではなかろうか。すなわち、日朝が対決しつつも米朝は対話する、というような一見矛盾したやり方もありうるということだ。
 安倍政権にとって「改憲」は何よりも米国の要求であり、「戦後レジームからの転換」―9条改憲、集団的自衛権の行使できる国への転換は、朝鮮との対話を進めながらも執拗に追求してくるに違いない。たとえ「日朝の対話」が始まっても、改憲というタカ派路線がなくなるわけではない。
 従って、今回の米朝の合意によって一枚岩であった日米間に今後、対朝鮮政策で決定的なギャップが生まれ、安倍政権はいずれ破綻するというような見方は楽観的過ぎるのではなかろうか。放置すれば日朝正常化へと自然と向うという情勢では決してないということだ。

■主体の闘いこそが情勢を切り開く
 東アジアの平和と安定を阻害してきた最大の要因は、米国が朝鮮の主権も生存権も認めず、敵視してきたことにある。アメリカが朝鮮の自主権を認めてこそ、東アジアの平和と安全は初めて可能となる。そもそも朝鮮の核はアメリカの核威嚇がもたらしたものであり、米国の敵視政策さえなくなれば、朝鮮に核は必要なく、朝鮮半島の非核化も可能となるだろう。
 朝鮮の「非核化」ではなく、米朝の共存と関係正常化こそが東アジアの平和と安定の鍵となっている。この視点から見ると今回の米朝合意は大いに歓迎すべきことであり、この時代の流れをいかに加速させていくかが課題となるだろう。
 アジアの闘いがブッシュ路線の後退、譲歩を生んだように、この日米の硬軟両用戦術を破綻させ、日本を自主的な国へと実質的に転換させていくのは、我々日本国民の主体的な闘い以外にありえない。
 米朝の合意があったとしても、安倍政権がそのロードマップを進んで修正、放棄することはありえず、安倍政権がこの路線にしがみつけばしがみつくほど、東アジアの情勢とも、日本国民の要求ともますますかけ離れていくことは確実だ。情勢は決して悪くない。統一地方選や参院選が控える今年、安倍政権の進める改憲政治に終止符を打てるかどうかは、主体的な闘いの一点に懸っていると言えそうだ。


 
研究

高まる「愛国志向」を考える

魚本公博


 2002年に香山リカ氏が「ぷちナショナリズム症候群」を出したが、「愛国志向」は、ますます強まっているようだ。昨年の終戦記念日には靖国神社に25万人が参拝し、その3人に一人は30歳以下の若者だったという。
 「愛国心」については、多くの識者が、これを戦前の「忠君愛国」と同じものと見て危惧を表明してきた。確かに戦前を経験した人たちにとっては、「愛国」という言葉は、聞いただけで戦慄するような嫌悪感をもつものだろう。しかし、そうした世代が減少する中で、「愛国志向」を強める若者が増大していることついては慎重な考察が必要だと思う。
 若者の「愛国志向」について、若者たち自身は次のように言っている。
 「生まれた国を大切にするのは当然でしょう」(22歳学生)。「国は家族と同じ。父親である国が病気で弱っているから、私たち20代は愛国心を呼び起こされているのでは?」(20歳学生)。「バラバラになった個人をつなぎとめる靭帯として『国への帰属心』が呼び起こされているのでは?」(「愛国・憂国サイト ウヨタマ」を運営する男子学生)。「信頼できるのは、家族、地元。それと日本だけ。おれが知っている限り、社会はどんどん壊れてっている。信じられないものばっかりだ」(ヒップポップグループ「妄走族」の28歳の男性)。
 朝日新聞は、こうした「愛国志向」の背景について、「信頼できぬ社会、政治、『日本が残った』」とか、「戦後60年を過ぎた今、英霊が命をかけて守り抜いた日本が溶解しつつある−そんな焦りが行動にかりたてている」と分析している。
 識者も、「集団が破壊され個人が『原子化』している…加えて格差の拡大。誰かが自分たちを代表していると実感をもてない層が共鳴板を求めている」(姜尚中)などと述べている。
 すなわち、彼らの「愛国志向」は、新自由主義改革による利己主義競争の奨励(自己決定・自己責任)によって、これまでの共同的な関係が破壊され(地域、職場)、人々が個々バラバラにされている中で、「それでも確かなもの」、「最後の拠所」として日本という国を求めているということなのではないだろうか。
 この「愛国志向」を頭から危険な「戦前回帰」と見ることは、正しくないと思う。
 1月25日の朝日新聞は、昨年12月に有権者3000人を対象にした世論調査を発表したが、そこでは、「日本に生まれてよかった」という答えが94%に達し、「愛国心がある」と答えた人が78%(大いにある20%、ある程度ある58%)もいる。
 そして、注目すべきは、日本が過去におこなった植民地支配や侵略に対して「反省する必要がある」が85%にも達していることだ。しかも、「愛国心が大いにある」と答えた人の内「大いに反省する必要がある」は39%(「ある程度反省」は49%)で際立っている。すなわち「愛国心がある」人ほど「反省すべき」が多いということだ。これは、自民支持層でも同じで「反省すべき」は、大いに、ある程度を合わせて84%になっている。
 この数字は、多くの人に「意外感」をもって受け止められたようである。確かに、国民のほとんどが愛国心を持っているということ。とりわけ「愛国心がある」と自覚する人ほど「過去の反省」も真摯だということは、意外な結果であった。
 愛国心とは、人々が長い歴史の中で、国を単位に共同的な関係を結びながら生活する中で生まれる人間感情であり、歴史的に形成されるものであろう。そうであれば、過去の歴史から謙虚に学び、誤りは誤りとして認め反省し、二度とそのような間違いは繰り返さないと考えるのは愛国心の重要な内容の一つになるだろう。
 大多数の国民が愛国心を持っており、愛国心を持っている人々ほど過去の過ちを反省すべきと考えているということは、愛国であればあるほど国の誤りを認め、正していくことが不可欠だということを示している。
 朝日新聞世論調査が示す数字は、自由主義史観派が言うように、戦後教育は自虐的な反省ばかりで「誇り」を失うものだとか、安倍が「謝罪はもう十分だ(中国には24回も正式に謝罪している)」などという言辞がいかに的外れであり、安倍や自由主義史観派が考える「愛国」と国民の考える愛国は似て非なるものであることを示している。
 アジアへの侵略と戦争の歴史への反省が愛国と一体なのは、今日、アジアの存在感がかつてなく高まり、アジアなしの日本がありえないという現実とも関連していると思う。
 これらのことは、今日高まっている「愛国志向」を頭から危険視するのではなく、国民がもっている愛国を正しく評価するだけでなく、ひいては、この愛国をもってこそ、安倍流の対米従属の戦争路線、改憲路線に反対して闘っていくことができることを示しているのではなかろうか。
 靖国参拝に行った若者の「決して戦前の軍国主義を復活させたいわけじゃない。ただ、戦後の日本は健全なナショナリズムを育ててこなかったと思う」(22歳男性)という問いかけに答える論理的営為こそが今求められていると思う。


 
論点

三角合併をどう見る

魚本公博


 いよいよ、この5月から「三角合併」が解禁される。三角合併とは、外国企業が日本の企業を買収する場合、日本に子会社を作り、その子会社と買収先企業が合併する形式を取れば、外国親会社の株を使うことができるとしたものである。形の上では三角合併になるためにこう呼ばれるが、本質は外国企業がこれまでのように現金ではなく自己の株をもって(それも時価評価額によって)買収できるようにしたところにある。
 元来、株価というものは変動する不確かなものだから、これを買収の対価にすることは認められなかった。しかし、昨年5月に施行された「新会社法」で、「合併における対価の柔軟化」として、株の時価評価額で買収ができるようにした。
 EUの場合、EU域内に籍を置く企業に限るなど制限している。外国籍企業の場合、その株価が正当なものかどうかの判断が困難なためである。ところが、日本の場合は、外国企業が日本につくった子会社との合併という形さえ整えれば、外国親会社の株を利用できるとしたのである。
 これは、ひとえに外国企業が日本企業を買収しやすくするための措置だと言うことができる。その証拠に、三角合併は米国の強い要求に日本が従ってとられた措置である。
 買収で問題になるのは株の時価評価だ。株の時価評価では、日本企業と欧米企業では大きな開きがある。例えば、医薬品業界でファイザー22兆8000億円に比べ、武田は7兆円。食品業のネスレ13兆3000億円−味の素1兆円。小売業のウォルマート(米)14兆8000億円―セブン&アイ3兆6000億円。電気では、GE(米)の50兆円近くに比べ、東芝、日立は2兆3000億円でしかない。
 ここで見ておかなくてはならないのは、株の時価評価は誰が決めるのかということである。一般的には、不特定多数の株主の評価によって決まると思われがちだし、そのように解説されるが事実は違う。
 日本で株式をどういう人が買っているかを示す株式所有比率(%)は05年で政府・地方、金融機関、法人、外国人、個人、0・2、31・6、21・1、26・7、19・1となっている。
 日本でも個人投資家は少ないが、株投資先進国である米国や英国では個人投資家の比率は日本よりも低く機関投資家が過半数を占める。機関投資家とはファンドなども含め、実体は金融機関である。不特定多数の評価が基本であれば、一定の公正さも生まれるだろうが、少数の者が圧倒的なカネを動かす場合には、極めて恣意的なものになる。まさに、欧米企業の圧倒的な株の時価評価額は、こうして作られたものである。
 しかも、こうした恣意的な手口の中には、策略的な仕掛けや駆け引きが含まれる。米系金融などは、5月の解禁を前に一度日本全体の株価を下げることを狙っているとされるが、不二家、パロマ、ヤマハ、大手ゼネコンの談合など企業不祥事の摘発にもそうした匂いを感じる。
 マスコミなどは「開放なくして成長なし」とか「怖がるばかりが能ではない」などと煽っているが、そんな能天気な問題ではないと思う。


 
寄稿T

鈍感力

金子恵美子


 毎日新聞の2月24,25日の全国世論調査によれば、安倍内閣の支持と不支持が始めて逆転して、支持36%、不支持41%と不支持が支持を5ポイントも上回る結果となった。20代から60代まで各年代で支持率低下は起きているが、ことに女性と若者の安倍内閣離れが進んでいるという。
 不支持の理由としては「首相の指導力に期待できない」がどんどん増え、「指導力不足は党内掌握にもあてはまる」との自民党内からの指摘も出ており、6者協議では拉致問題も暗礁に乗り上げ、まさに安倍首相は四面楚歌的状況に追い込まれていっている。
 こうした中、元気のない安倍首相に対して、「支持率は上がったり下がったりするもの。いちいち気にするな。鈍感力をつけるのがよい」。と小泉前首相が助言。
 「鈍感力」という言葉がパッと頭に残る。テレビ、新聞、雑誌でもすぐに最先端のかっこいい言葉のようにして取り上げられる。この人の「言葉力」はたいしたものだ。中川幹事長は「絶対的忠誠心と自己犠牲性」を強要して安倍首相の指導力を打ちたてようとしたが、閣僚らからは反発を買い、国民には「安倍首相ってそんなに力がないんだ」と思われ、かえって逆効果をもたらした。しかし、小泉前首相のこの「鈍感力」発言はどうだ。実はこの言葉は小泉前首相のオリジナルな言葉ではなく、集英社から最近出版された渡辺淳一の「鈍感力」から拝借されたものであるが、この小泉前首相の一言で8万部の増刷になったとのことだ。
 実際読んでみれば、敏感なこと鋭いことが優れていて、鈍いこと鈍感なことは劣っているように思われているが、実は、鈍いこと鈍感なことは、身体的健康にとっても精神的健康にとってもとても重要なことで、些細なことでゆるがない鈍さこそ、生きていく上でもっとも大切で基本となる才能である。いい意味での鈍感力をもつことは、今を生き抜く新しい知恵であるということが、17章にわたって非常に分かりやすい言葉と例題をもって書かれているしごく当たり前の本である。一言でいったら、ずぶとくなれということである。小泉前首相はまさにこれを地でいっているような人だと思う。良きにつけ悪しきにつけマイペース。アメリカのポチと言われようが、非情な人間と言われようがいつもあのニヤニヤ顔。安倍さんにはちょっと無理じゃない?
 それに「支持率は上がったり、下がったりするもの。いちいち気にするな」はないでしょう。シーソーや階段じゃないのだから。目先のことに振り回されていけないということはうなずけるが、支持率というのは世論、即ち国民の声である。いちいち気にしてもらわなくては困る。真に国民の声に敏感になり、国民の心に届く言葉で話し、その要求にしたがって行動してこそ、支持率も上がり、安倍首相の憂鬱も消えるというものだ。鈍感力を身につけ、非難されようが、支持率が下がろうが「我が道を行く」では、自分は痛くも痒くもないかもしれないが、困るのは国民である。自分のことには鈍感に、国の利益、国民の声には敏感に。政治家にもとめられているのはこの両方の力であると思うのだが。


 
寄稿U

宮本さんから学んだ真の誠実さ

M・M


 2月6日(火)夜、線路内に入り込んだ女性(39)を助け出そうとして東武東上線ときわ台交番の宮本邦彦巡査部長(53)が電車にはねられ重態。えっ、東武東上線ときわ台駅? 私が前日に渡ったあの踏み切り? 私は上京するたびにこの踏切を渡っていた。テレビに映し出された交番もよく見知っている。あの交番のおまわりさんが? 初めの衝撃はこうしたものであったが、次第に宮本さんという人間の平素の行いや人間性が伝えられるに従い、もっと深い感銘が私をおそった。
 宮本さんは、自転車の鍵を無くした母子が困って交番を訪れると、親切に工具を持ち出し、鍵の差込の部分を分解して動けるようにしてくれたという。「自転車屋へ持っていって直してもらって」と言われたらどうしようと思っていた親子はホットして心から感謝したという。親身になって人に対応する、それは事の軽重、大小によって変ることがなかった。宮本さんは自転車を直すことにも、人の命を救うことにも、同じ誠実さで対応している。真の誠実さとはこういうものなのだなーと学んだ。
 こんな宮本さんであったから、事故直後から折り鶴や見舞いの花が、宮本さんに世話になった近隣の人は言うにおよばず、日本全国から数多く送られてきた。しかし、そうしたみなの願いや祈りもむなしく、宮本さんは帰らぬ人となってしまった。
 宮本さんの死を惜しむ多くの声がインターネットに寄せられている。その中の一つに「こんな自殺志願のバカ女のために、かくも立派な警察官が身代わりになり・・・」というものがあった。率直な気持ちだと思うが、そういう人間だったから宮本さんは立派な人間になったのではないだろうか。もともと立派な宮本さんがあるわけではなく、どんなことに対しても、どんな人間にたいしても身を粉にして対応する宮本さんだったから立派になったのではないだろうか。
 今度上京した折にはささやかな花束をたむけさせてもらおうと思う。宮本さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。


 
寄稿V

金属泥棒

つね ひろお


 金、貴金属ならぬ、単なる金属泥棒が5000件を超えているという。被害総額も約20億円になるそうだ。ステンレス製の線香皿、車止め、銅線、はたまた火のみ櫓の半鐘までもがその対象となっては呆れて返す言葉もない。その背景には北京オリンピックを控えた中国の需要があるのではとの判断があるようだ(そう聞くと石油の高騰を思い出すのだが、投機目的の買い圧力が価格を押し上げたのが主たる要因だったように思う)。事実、目先の金儲けのために犯行に及ぶのだろう。が、これを社会全体のモラルの低下や公共道徳心の喪失として嘆いても片手落ちのような気がする。
 同様な事件がほかの国でも起こっているのかどうかは知らないが、資源をめぐる争奪戦をこれに類する行為として捉えるのは的外れだろうか。
過去の歴史を振り返れば、大国どうしが戦争をしてまで、植民地から略奪を行ってきた。近年では、米国主導で行われたアフガン戦争やイラク戦争の真の目的は石油だという説がある。アフガンはパイプライン、イラクは石油利権、両国民の少なくない人々がそう認識しているようだ。
 身近なところでは、北朝鮮問題ではないだろうか。日朝は拉致問題一色だが、米朝に至っては金融、核といった問題が挙げられている。北朝鮮を巡る問題の本質は、鉱山利権をめぐる争いだと言い切る元外交官もいるほどだ。氏によると、北朝鮮の豊富な鉱山利権をめぐって、英国が深く関与する形でファンドが設定されていて、それが一般に販売されているし、インターネットで広告までなされているという。
 金融問題でいえば、「米偽ドル疑惑」問題だ。ドイツの有力紙(フランクフルター・アルゲマイネ)に掲載された記事には、「偽米ドル」は米国自身がアフリカのある独裁国家を維持するために刷ったものであり、これがめぐり巡って、北朝鮮に渡されたものに過ぎないという。同様の内容が、スイスの有力紙(ノイエ・チュリッヒャー・ツァィトウンガ)でも昨年の11月19日付けで報じられているというのだ。米ドル紙幣は、ドイツの輪転機とスイスのインキを使って刷られているのだそうだから面白い内容だ。
 説によると、要は鉱山資源の開発のために投資してきた英国をはじめとする欧州の金が中国を経由して北朝鮮に大量に流れ込み、鉱山開発が着々と進められていて、それに乗り遅れ、この利権にありつき損ねた米国が打った手が、制裁だという。
 今回の6カ国協議の前に行われた米朝会談の成り行きと開催場所がベルリンだったことからして、この対立の構図は容易に推察できるというのだ。これからの時代、資源問題は人類の大きな課題であり、その利権をめぐる各国の思惑と駆け引きは熾烈を極めているということらしい。
 日本は朝鮮半島を植民地化していた時代、鉱物資源の調査と開発をしてきた経緯からして、その時の資料は現在も残っている。多種多様な鉱物資源があるのだそうで、この問題で蚊帳の外で踏ん張る日本は、この辺のところを認識したうえで米国の背中を見続け、高いモラルと公共性を維持しつづけるのだろうか。


 
 

世界の動きから

若林盛亮


■プーチンのミュンヘン安保政策会議講演
 (ロシアのプーチン)大統領は四十カ国以上の国防相が参加したミュンヘン安保政策会議で講演した。大統領は冷戦崩壊後の世界情勢について「地域紛争が増え、新たな悲劇が生まれている」と指摘するとともに、「多極化した世界の構築を目指さなければならない」と米主導の国際秩序をけん制した。(日本経済新聞)
 この日(2月10日)米国家安全保障会議スポークスマン、ゴードン・ジョンドルは、「米国はプーチンのミュンヘン安保政策会議講演に失望を感じた」と通報。またロシア外相ラブロフが、2月15日、アブダビでの記者会見で「ミュンヘンで行ったロシア大統領プーチンの講演は、いかなる『冷戦』でもなく、われわれが力を合わせ解決しようとする世界の運命に対する責任感から出発したものだ」と述べた。(イタル−タス通信)

■プーチン・ロシアの中近東外交
 ワシントンは他人の意見を無視し乱暴な圧力戦術にすがることによって中近東で豊かで頼もしい同盟者を失うようになった。結果、サウジアラビアは最近、ロシアへと方向転換。サウジアラビアは米国防省に対しアフガニスタン作戦遂行のための軍事基地提供を拒否し、代わりにチェチェン分離主義者に対する財政支援を遮断することに(ロシアと)合意した。ロシア大統領の歴史上初めてとなるリヤド訪問は両国間を接近させた。
 (両国首脳の)会談過程でロシアの武器購入問題が討議された。大きな外国の武器需要者を自分の輸出軌道に引き入れたことは、たった一度の大成果にとどまらず数年、数十年先の同伴者関係の発展となる(プラウダ紙)。
 ロシア、サウジアラビア実業界代表と会見の席上、ウラジミール・プーチンは「ロシアとサウジアラビアが世界エネルギー市場における同伴者であり同盟者」と言明(グラスナヤ・ズベータ紙)。
 カタールの首都ドーハでクウェート紙に伝えられた報道によれば、ロシア大統領プーチンが2月12日、「OPEC(石油輸出国機構)形態の天然ガス連合を形成する構想を排除しない」と語った。また「世界でロシアとイランに次ぐ第三番目のガス埋蔵量を持つカタールはロシアにとって特別な関心事」とも述べた。(新華社通信)

■韓国の新教科書記述問題
 これまで国史教科書で神話的形態で紹介されてきた古朝鮮建国が今年から普及される新教科書では歴史的事実として記述される。・・・
 昨年、「建国したとされる」という間接的表現から「壇君王剣が古朝鮮を建国した」との直接的表現に変えられた。朝鮮半島に青銅器文明が普及された時期もこれまでより一千年以上早くと叙述され朝鮮民族の古代国家建設事実が学問的に保証されることになる。
 中国の「東北公定」と日本の韓国史歪曲に抗してわが古代史をより明確に定立すべきとの社会全般の雰囲気を反映したものだ。(韓国MBS放送)
※ 平壌市近郊で壇君の王陵、遺骨発見以来、北はすでに「壇君建国史」を採用。これで、南北朝鮮で古代史認識も統一されることになる。

※   ※   ※

 中近東、朝鮮における離米、統一への動きは冷戦の遺物としての唯一超大国支配の終えん、そして世界多極化という時代的趨勢の反映であろう。


 
 

編集後記

小川 淳


 安倍政権に期待する政策で「改憲」はわずか8%(NHK世論調査)だという。でも安倍さんはこの国民の声が聞こえないのか、改憲を看板に掲げたままだ。
 エチゼンクラゲ大発生の謎を追う広島大の上真一教授は「クラゲは何も言わない。でも、大発生を通して私たちに警告を発している」のだという。安倍さんも世論調査で表れた国民からの警告を心して聞くべきではなかろうか。

 

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