「反緊縮」は日本を救うのか
4月の統一地方選(前半)が終わったが、注目したいのは、左派リベラルの中から「経済」を争点に掲げた「薔薇マークキャンペーン」が始まったことだ。ここ関西でも、薔薇マークを掲げた候補者が、「消費税引き上げの中止、社会保障、医療、介護、保育などへの大胆な財政出動によって経済を底上げし、質の良い雇用を創出する」など、これまでの左派にはなかった大胆な経済政策を提言している。2017年の英総選挙で躍進したコービン労働党、若者から圧倒的な支持を集めたサンダース上院議員、フランスの黄色いベスト運動も同じく「反緊縮」のスローガンを掲げている。
「反緊縮」の背景には、2008年のリーマンショックがある。「百年に一度の経済危機」の中で、多くの国は財政拡張と金融緩和で対応したが、その結果、多くの国が財政危機に直面した。拡張から緊縮へと経済政策は180度転換し、厳格な財政の引き締めを行ったことによって経済環境が悪化し、ギリシャやポルトガルなどでは若年層の失業が50%を超えた。日本においても民主党政権下で財政が引き締められ、消費税引き上げの3党合意は文字通り「緊縮」政策の帰結だ。「反緊縮」はこの「不況下での緊縮財政」に反対する。具体的には、中央銀行による金融緩和、つまり日銀による国債購入によって赤字財政をファイナンスする手法だ。
国民一人当たり850万円という世界最悪の財政赤字水準にある日本で、さらに借金(国債を発行)しても財政は破綻しないのだろうか。
国の借金を誰にするのかが、ポイントになる。一般には国の発行する国債は民間企業(銀行など)が購入する。その場合は文字通り国の「借金」になるが、日銀が国債を買えばどうか。「日銀は国の子会社」という考えに立てば形の上では「借金」なのだが、返済期限は繰り延べることが可能で、利子も国庫に収まる。極端な話、日銀の「緩和マネー」ならいくらでも作れる。だからこそ危険性もあり、ハイパーインフレをどう抑えるのかなど、乗り越えるハードルは多く残っていて、話はそう単純ではない。
問題はこの日銀の緩和マネーを何に使うのかだろう。不況の元凶となっている貧困と格差をなくすこと、教育や医療、介護、保育など誰もが安心して暮らせる社会基盤をしっかり整えていく。そのために国が積極的に財政を投じていくことこそ今の日本には必要だ。そうすれば景気も回復し、社会に金もまわり始め、国の税収も増えていく。アベノミクスも「反緊縮」だが、その手法も方向性も正反対だ。しかし国民の安倍支持の基盤にはアベノミクスいう経済があるのも事実だろう。魅力ある経済政策なしに選挙では勝てない。「反緊縮」は左派の大きな武器になる可能性がある。
主張
戦争と敵対から平和と繁栄へ、東北アジアの時代的転換と朝鮮半島の非核化をめぐる朝米の対話は、先の第二回朝米首脳会談の物別れで終わった。
会談直前までの実務者会談では段階的非核化と制裁一部解除で合意し、合意文書まで準備されていたが、土壇場でアメリカが朝鮮にたいする全面的な核とミサイル廃棄を先行させることを主張し、言わばちゃぶ台をひっくり返すという事態で第一段階は終わったと言える。南北の融和と統一への動きが一気に進むことなどに対し、アメリカが朝米対話の進展を望まなかったのは確かだ。では対話が終わり、以前のような敵対関係にもどるのか、それとも新たな第二段階に進むのか、不明である。
ただ、この対話に対し、わが国がどう対応し、それがわが国にとって何を意味するのかについて総括しておく必要があるのではないだろうか。それを離れて、今後の朝米関係への国民と真の国益に沿った対応ができないと思うからだ。
■この1年間の日本の対応と結果
昨年から今年にかけての歴史的な朝米対話の全期間、東北アジアの当事国でありながら、「蚊帳の外」に置かれた日本は、「蚊帳の中」に入るため、自ら努力するのではなく、拉致問題をはじめすべての問題の解決を全面的に米国に依存しながら、南北融和の進展に水をかけ、第二回朝米首脳会談の物別れに対しては、それを悲しむのではなくむしろ喜んだ。
こうした一連の行動により、日本にもたらされたものは何か。それは米従属の一段の深化に他ならない。
この間、安倍政権の対米従属は、世界のひんしゅくを買うまでに、決定的に深まった。拉致問題を自ら解決するのではなく、全面的にトランプに依存するようにしたこと、種子法、水道法など、日本経済の運営権を地方・地域の末端から米国に売り払う道を開く一方、日本の自衛隊を、「いずも」のF35B小型空母化など、米侵略武力の補完部隊に改編して米覇権軍事に組み込み、日本の経済も軍事も東北アジア全域への米ファースト覇権を支え補強する補完物に転化した等々、日本は、もはや米国の前に独立国としての体をなさないまでになっている。アメリカの覇権にしがみつこうとすればするほど、対米従属を深めるからだ。
次に、日韓、日朝関係の最悪化だ。
隣邦である南北朝鮮は、日本にとりもっとも友好親善が求められる国だ。その関係が悪化するだけ悪化し、今や互いに無視する関係になっている。
なぜそうなったのか。社会主義朝鮮との対決構造のなかで抑えられた植民地支配の反省、賠償問題、親日派の清算問題が南北の融和により浮かび上がったからだ。その根元には、日本が植民地支配の反省をやってこなかったことがある。
悪化しているのは、南北朝鮮との関係だけではない。米覇権を背に負って、アジアと世界に覇を唱える日本と各国との間にも、かつてなく冷たいものが流れている。世界各国から、朝鮮半島をめぐる緊張緩和を世界が歓迎しているのに、なぜ日本だけが歓迎しないで逆らうのかという不信と疑念の声があがっている。
■その原因はどこにあるのか?
事態のこうした進展を前に、日本には、今、朝米対話への対応の深刻な総括が求められていると思う。だが、安倍政権にこの総括を求めるのは到底無理な話だろう。
原因をみる上でまず、平和と繁栄の東北アジアを築くことが、日本にとってどういう意義があるのかを検討する必要があると思う。
戦後の東北アジアは、アメリカの覇権とアジア諸国の主権擁護の鋭い闘いの戦場であったと言うことができる。中国内戦への干渉、独立してまもない朝鮮民主主義人民共和国にたいする侵略戦争、ベトナムおよびインドシナ諸国にたいする侵略戦争、そして最近までの大規模な米韓合同軍事演習と、アメリカは武力介入を繰返してきた。
このなかで、戦後の日本の体制は、朝鮮戦争のさなかにサンフランシスコ講和条約と日米安保条約が結ばれたように、アメリカの世界制覇の一環としてアジア諸国にたいする覇権を支え、みずからの覇権を求めていく体制だといえる。つまり、日本は沖縄を米軍基地としてアメリカに差し出しながら、軍事分界線をはさんで朝鮮、さらにはアジア諸国にたいし、アメリカ傘下の日韓台が敵対していくという基本的な枠組みの中にあった。国民の多くが日本は平和憲法のもとで経済成長にとりくんできたと思ってきたが、実際はアメリカに従属しながら自己の覇権を求める「従属覇権」が戦後の日本体制だということができる。
ところが、昨年来の平和と繁栄の東北アジアをめざした新しい朝米関係の確立、朝鮮半島の非核化への動きは、これまでの「従属覇権」体制が崩壊するということを意味する。非武装地帯を平和地帯としていくという南北の融和と米韓軍事演習の中止で、軍事分界線が事実上、無意味なものとなった。
つまり、平和と繁栄の東北アジアという今日の時代には、アメリカの朝鮮、アジア侵略戦争体制の枠組みのなかで生きてきた日本のあり方が、もう通用しなくなったということを意味している。
ここから言えることは、朝米対話にたいする日本政府の対応の根源は、アメリカの覇権の陰で自己の覇権を追求する日本支配層の「従属覇権」にあくまで固執する姿勢にあると言える。
平和と繁栄の東北アジア新時代を開いた決定的な要因は、核武力を完成させアメリカを対話のテーブルに着かせた朝鮮とろうそく革命で文在寅政権を発足させた韓国民衆だ。
今回、アメリカのちゃぶ台返しにより朝米関係に影がさしたが、だからといって米韓軍事演習や核実験の復活という以前の先鋭化した敵対関係にもどるという事はほぼありえない。歴史の流れは止めることができないからだ。
米覇権のもとで生きるという枠組みが遺物となりつつある今日、それにしがみついている安倍政権は、時代の流れと平和と自主を求める国民の要求に逆らっている反逆児としか言いようがない。
■日本のあり方を変える新しい政治をめざして
平和と繁栄の東北アジアの新時代に合流し、日本もアジアの一員としてそれを押し進めるためには、古い枠組みに固執するのではなく、根本的に日本のあり方を転換させる新しい政治をめざしていかなければならないと思う。
新しい政治をめざすうえで重要なことは、第一に覇権思想に徹底的に反対していくことだといえる。
今日、他国を恫喝し侵略していく覇権の時代ではない。大国が世界を動かしているのではなく、自国の主権を守っていく国々が世界を動かしている。
かつて日本は「大日本帝国」としてアジア諸国を侵略し、敗戦後も軍国主義勢力がアメリカの庇護のもとアメリカの覇権のお先棒を担ぎ、昔日の妄想を追ってきた。その体質化した覇権が当然だという考えから今日なお脱却しえないでいる。
覇権思想は各国の主権と国民の運命を踏みにじる考え方であり、それを当然のこととしているかぎり時代に取り残されるだけだ。今や覇権思想に徹底して反対し、国の主権を擁護、尊重することを第一におく考え方に転換しなければならない時だと思う。
覇権思想から脱却するためには、戦前の侵略戦争の反省と謝罪を真摯におこない、戦後アメリカの朝鮮敵視政策に荷担してきたことを深く反省していくことだと思う。
第二に日本独自の途を模索し拓いていくことだ。
今日、多くの国々が自国第一主義をかかげ、自国の決定権を主張している。にも拘らず日本はアメリカを盟主と仰ぎ、その言いなりになっている。
何よりも、アメリカとの「同盟関係」を国是とするのではなく、日本の利益を第一とし、日本独自の路線政策を自分で決定し確立していくことだと思う。何が日本と国民にとって大切なのか、それを基準にすべきだと思う。
第三にこの時代的要求に応えられるのは、唯一、日本国民自身しかいないということだ。
今、求められているのは国民が主体となって政党、政治を動かす新しい政治だ。旧支配層は新しい政治の担い手になりえない。国民主導の「新しい政治」を創り出していくこと、その重要さが増してしていると思う。
議論
■アベノミクス・カンフルは効かなかった
アベノミクス三本の矢の基本はどこまでも第一の矢、異次元の金融緩和にある。第二、第三の矢、機動的財政政策、民間投資を喚起する成長戦略は、すでにその失敗が証明されたケインズ主義・有効需要の創出、新自由主義・構造改革の焼き直しであり、その徹底化に過ぎない。
経済停滞の禍根をデフレに求めたアベノミクス第一の矢は、デフレ脱却の鍵をマネタリーベース(中央銀行による通貨供給)の拡大に求め、供給量を138兆円(2013年)から445兆円(17年)へと異次元に引き上げた。企業や人々の「インフレ予測」から生まれる貸し出し増、消費増を狙ったということだ。
第一の矢は、また、この通貨増発による円価値の下落(円安)とそれに伴う輸出量の増大も合わせて狙った。
第一の矢によって狙われたのはそれだけではない。それによる好況到来を予測する外国資本の大量流入と株価の高騰、そして、第二の矢(公共事業投資)への大量資金提供が目論まれた。
だが、このかつてない「カンフル注射」、結果はどうだったか。狙いは、株価を除いて、何一つ実現されなかった。銀行の貸し出しはまったく増えず、設備投資、個人消費は、冷え込んだままだ。円安にはなったが、輸出も増えていない。
第一の矢だけではない。第二、第三の矢も、公共事業投資は滞り、民間投資も喚起されていない。
■カンフル効果はなぜなかったのか?
アベノミクス失敗の原因は何か。それは一言で言って、日本経済の病状が「カンフル注射」で何とかなるようなものではなかったからだ。
何よりも第一に、極度の格差と不均衡だ。それがアベノミクス期間、さらに甚だしいものになった。よく言われるように、企業の「内部留保」が446兆円(2017年)と安倍政権のそれまで5年間で142兆円も増えた。それに対し、実質賃金は、同4年間で18・5%の減少。一握りの大企業への富の圧倒的集中と広範な貧困層のさらなる拡大。これでは、マネタリーベースをいくら増やしても個人消費を促すことも、設備投資を刺激することも、そして民間企業の貸し出しを増やすこともできなかったのは当然だ。
第二に、日本産業の空洞化だ。円安効果が輸出拡大につながらなかったのは、企業が輸出量より製品価格の引き上げに走ったのもある。しかし、それより何より、当初の想定をはるかに超えた製造工場の海外移転、ここに根因がある。
日本経済の病状として、第三に挙げるべきは、少子化、労働人口の減少、そして正規雇用大幅削減に伴う熟練労働者の減少、等々による深刻な人手不足だ。これが大々的な公共事業投資自体をできなくし、その効果の足を強く引っ張った。
そしてもう一つ、第四に、イノベーションの停滞、これが大きかった。この期間、特許件数自体は少なくなかった。しかし、産業構造の転換を促すような、未来をつくるイノベーションが少なかった。科学技術大国、日本のこの凋落が「カンフル効果」に大きく影響したのは明らかだ。
最後に決定的だったのは、この間大きく進んだ日本経済の米国化ではないだろうか。
1990年代以降、「年次改革要望書」を通じ続けられてきた米国による日本経済の新自由主義化、米国化は、2000年代に入りながら、米国企業の日本経済への大々的な参入という新段階を迎えた。「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指したアベノミクスは、法人税の大幅引き下げ、公共事業運営権を民間企業に委託するコンセッション方式の導入、働き方改革、等々、それを決定的に推進するものだった。
この米国企業の大々的参入がアベノミクスにより強まった富の国外流出と日本経済の停滞につながったのは容易に推測できるのではないか。
■アベノミクス、そのあり方の根本を問う
富の極度の偏在と流出は、日本経済の循環と成長を著しく阻害した。
この経済停滞の根因に対し、アベノミクスは無力だったばかりか、それを一層促進した。
それは、よく言われるように、もはや利潤をあげる余地がなくなった「成熟経済」を無理矢理成長させようとしたからだったのだろうか。
そうではないと思う。そもそも、格差と不均衡、空洞化、少子化による人手不足、イノベーションの停滞、そして日本経済の米国化、等々は、経済成長一般の必然的帰結なのか。それとも、これまでの経済のあり方の誤りが招いた「病」の現れなのか。
そこで銘記すべきは、アベノミクスが、これまでの経済と、そのあり方、さらにはその根底にある経済それ自体の捉え方まで、本質的に同じものを持っており、その極致だということだ。
事実、何よりもアベノミクスにおいて、その目標は、「人々の豊かで幸せな生活を保障する」ところにではなく、先述したように、「世界で一番企業が活躍しやすくする」ところに置かれている。
また、経済を人々の集団的営為だと見る観点がないままに、人々の集団毎に経済の単位があり、中でもその基本単位が人々の社会生活単位である国にあるという認識もない。
そしてもう一つ、アベノミクスには、経済が、その単位毎に、ヒト、モノ、カネや生産と流通、消費など、自律的に循環している生き物だという観点がない。
経済に対し、こうした観点でいるアベノミクスによる経済のあり方はどういうものになるか。
それは何よりも、企業、それも大企業による大企業のためのものとなり、何の規制も制約もない弱肉強食そのままの「自由」な競争にすべてを委ねるものになる。そして企業にとって命である効率第一の原則の下、より安い資源や労働力、儲かる市場を求め、内を充実させるのではなく、国の外へ外へと出て行くものとなる。
米覇権の下、その言いなりになりながら、大企業の利益に沿って強行されるアベノミクスによるこうした経済のあり方が、これまでの誤り病んだ経済の極致として、経済停滞の根因をなくすどころか、それを極限まで深めるものとなるのは、必然だと言えるのではないだろうか。
■問われる「国の経済をつくる」という観点
強済停滞からの脱却、そのためには経済のあり方自体の根本的転換を図る必要がある。
だが今日、それは途方もないことのように思える。ヒト、モノ、カネ、情報が国境を超えて飛び交うグローバル経済、IT経済の時代にあって、経済の主体は、米覇権の下、その要求に従って生きるグローバル大企業になっており、その利益と要求を離れて経済を語ることができなくなっているからだ。
しかしその一方、今、この暗黙の「不文律」を打ち破る時が来ているのも事実ではないだろうか。
今日、グローバリズムに基づく経済の破綻は、誰の目にも明らかになってきている。経済の停滞は日本だけのものではない。世界に巻き起こる自国第一主義の嵐の根底にはこの格差と貧困の拡大など、矛盾に満ちた経済の現実に対する世界的範囲にわたる激しい怒りがある。
そうした中、今問われているのは、政治と同じく、経済の主体も国民だという観点、そして、企業も国民、中小企業はもちろん、経済停滞からの脱却に利害関係を持つグローバル大企業も国民の一員だという観点ではないかと思う。
そこで求められるのが、経済停滞脱却に向け、経済のあり方自体を根本的に問うこの闘いを、大企業までその主体として結集する全国民的な運動として推し進めることだ。
人々の豊かで幸せな生活のため、効率ではなく、均衡と革新を第一に、税制や社会保障、雇用の改革、地域経済や産業の改革、改編など、富の偏在、流出を正し、経済が国を基本単位によく回転し成長するようにする。それにより、若者たちが恋愛も結婚も出産もできるようにし、国を挙げてのイノベーションの興隆も、来てくれた外資系企業に対しそれへの服従の要請も行うようにする。
そのためには、経済は、企業の競争のままに任せるのではなく、国民皆でつくるもの。この「国の経済をつくる」、愛国自主の観点と意識こそが問われているのではないだろうか。
寄稿
フランスで「黄色いベスト運動」が広がっている。フランスでは自動車に黄色いベストが常備されており、その着用を抗議行動のシンボルとしていることから、「黄色いベスト運動」と呼ばれている。運動は昨年11月17日の土曜日に開始され、毎週土曜日にフランス全土で展開されている。今年1月26日までに11回の行動が行われている。
50年前の1968年にはパリの「5月革命」が起こったが、それを思い起こした人も多いだろう。しかし、当時は学生らによるパリ中心の運動だったのに対し、今回はフランス全土を舞台にした、それも地方を中心にしたものであること、参加者の多くが生活者=市民である点が異なっている。週末に行われたことから、2016年10月頃から韓国で展開された「キャンドル革命」を連想した人もいたかもしれない。直接的な運動の契機は異なっているものの、新自由主義的グローバリゼーションの結果生まれた格差拡大、富裕層優遇政策への怒りが根底にある点では共通している。「黄色いベスト運動」では権力によるフレームアップもあるが、暴力・略奪行為が報告されているが、「キャンドル革命」は全く報告されていないという点も指摘しておきたい。
■SNSで拡散
2018年の5月にセーヌ・エ・マルク県の女性が10月中旬までに30万人の署名を呼びかけたのが始まり。さらに、道路封鎖と黄色ベストの着用を呼びかけて始まった。行動の最初は11月17日、フランス全土で30万人が参加したという。さらに、11月24、12月8日と運動は発展し、一部では警察との衝突の場面もあった。こうした混乱の中、12月10日にマクロン大統領によるテレビ演説が行われ、「…2019年の最低賃金の100ユーロ/月の増加、2019年の残業時間、年末ボーナスからの課税の除外を約束した。また、毎月の年金額が2千ユーロ(約26万円)未満の退職者には、社会保障税(CSG)の増税から除外するとした」。この演説によって一定の沈静化に成功したものの、その後も運動は展開され、1月26日の11回まで続いている。行動の直接的な契機は燃料税の引き上げだった。地方でのモータリゼーションの拡大によって自動車は住民の足であり、引き上げは地方生活者に高負担を強いることになる。しかし、マクロンが富裕税を廃止するなど、金持ち優遇政策を進めていることへの怒りが根底にある。
彼らは何を主張しているのか。ネットで流れてきた彼らの主張を紹介する。2018年11月29日発表・12月5日改訂。
■彼らの要求
フランスの代議士諸君、我々は諸君に人民の指令をお知らせする。これらを法制化せよ。1)ホームレスをゼロ名にせよ、いますぐ。2)所得税をもっと累進的に(段階の区分を増やせ)。3)SMIC〔全産業一律スライド制最低賃金〕を手取り1300ユーロに。4)村落部と都心部の小規模商店への優遇策(小型商店の息の根を止める大型ショッピング・ゾーン〔ハイパーマーケットなど〕を大都市周辺部に作るのを中止)。+ 都心部に無料の駐車場を。5)住宅断熱の大計画を(家庭に節約/省エネを促すことでエコロジーに寄与)。6)〔税金・社会保険料を〕でかい者(マクドナルド、グーグル、アマゾン、カルフールなど)はでかく、小さな者(職人、超小企業・小企業)は小さく払うべし。7)(職人と個人事業主も含めた)すべての人に同一の社会保障制度。RSI〔自営業者社会福祉制度〕の廃止。8)年金制度は連帯型とすべし。つまり社会全体で支えるべし〔マクロンの提案する〕ポイント式年金はNG。9)燃料増税の中止。10)1200ユーロ未満の年金はNG。11)〔地方議員も含めた〕あらゆる公選議員に、中央値レベルの給与を得る権利を。
公選議員の交通費は監視下に置かれ、正当な根拠があれば払い出される。〔給与所得者の福祉の一部である〕レストラン利用券とヴァカンス補助券を受ける権利も付与。12)すべてのフランス人の給与と年金・社会給付は物価スライド式とすべし。13)フランス産業の保護:〔国内産業を空洞化させる、工場をはじめとする〕事業所の国外への移転の禁止。我々の産業を保護することは、我々のノウ・ハウと雇用を保護。14)〔東欧等からの〕越境出向労働の中止。フランス国内で働く人が同じ給与を同じ権利を享受できないのはおかしい。フランス国内で働くことを許可された人はみなフランス市民と同等であるべきであり、その〔外国の〕雇用主はフランスの雇用主と同レベルの社会保険料を納めるべし。15)雇用の安定の促進:大企業による有期雇用をもっと抑えよ。我々が望んでいるのは無期雇用の拡大だ。16)CICE〔競争力・雇用促進タックスクレジット〕の廃止。この資金〔年200億ユーロ〕は、(電気自動車と違って本当にエコロジー的な)水素自動車の国内産業を興すのに回す。17)緊縮政策の中止。〔政府の国内外の〕不当と認定された債務の利払いを中止し、債務の返済に充当するカネは、貧困層・相対的貧困層から奪うのではなく、脱税されている800億ユーロを取り立てる。18)強いられた移民の発生原因への対処。19)難民庇護申請者をきちんと待遇すること。我々には彼らに住まい、安全、食べ物、それに未成年者には教育を提供する義務がある。難民庇護申請の結果を待つ場となる受け入れ施設が、世界の多くの国々に開設されるよう、国連と協働せよ。20)難民庇護申請を却下された者を出身国に送還すること。21)実質のある〔移民〕統合政策を実施すること。フランスに暮らすことはフランス人になることを意味する(修了証書を伴うフランス語・フランス史・公民教育の講座)22)最高賃金を15000ユーロに設定。23)失業者のために雇用を創出すること。 24)障がい者手当の引き上げ。25)家賃の上限設定 + 低家賃住宅(特に学生やワーキング・プアを対象に)。 26)フランスが保有する財産(ダムや空港など)の売却禁止。 27)司法、警察、憲兵隊、軍に充分な手立て〔予算・設備・人員〕の配分を。治安部隊の時間外労働に対し、残業代を支払うか代替休暇を付与すること。28)自動車専用道路で徴収された料金は全額、国内の自動車専用道路・一般道路の保守と道路交通の安全のために使うべき。29)民営化後に値上がりしたガスと電気を再公営化し、料金を充分に引き下げることを我々は望む。30) ローカル鉄道路線、郵便局、学校、幼稚園の閉鎖の即時中止。 31)高齢者にゆったりした暮らしを。〔劣悪介護施設など〕高齢者を金儲けのタネにするのを禁止。シルバー世代の金づる化はもうおしまい、シルバー世代のゆったり時代の始まりだ。32)幼稚園から高校3年まで、1クラスの人数は最大25人に。33)精神科に充分な手立て〔予算・設備・人員〕の配分を。34)人民投票の規定を憲法に盛り込むべし。わかりやすく、使いやすいウェブサイトを設けて、独立機関に監督させ、そこで人々が法案を出せるようにすること。支持の署名が70万筆に達した法案は、国民議会で審議・補完・修正すべし。国民議会はそれを(70万筆達成のちょうど1年後に)全フランス人の投票にかけるよう義務づけられるべし。35)大統領の任期は〔国民議会の任期と同じ現行の5年から〕7年に戻す。(以前は〔大統領選の直後ではなく例えば〕大統領選から2年後に行われていた国政選挙により、大統領の政策を評価するかしないかの意思表示ができた。それが人民の声を聞き届かせる方法の一つになっていた。36)年金受給は60歳で開始。肉体を酷使する職種に従事した人(石積み作業員や食肉解体作業員など)の場合の受給権発生は55歳に。37)6歳の子どもは独りにしておけないから、扶助制度PAJEMPLOI〔保育支援者雇用手当〕は子どもが〔現行の6歳ではなく〕10歳になるまで継続。38)商品の鉄道輸送への優遇策を。39)〔2019年1月1日から施行の〕源泉徴収の廃止。 40)大統領経験者への終身年金の廃止。 41)クレジット払いに関わる税金の事業者による肩代わりの禁止。42)船舶燃料、航空燃料への課税。
このリストは網羅的なものではないが、早期に実現されるはずの人民投票制度の創設という形で引き続き、人民の意思は聞き取られ、実行に移されることになるだろう。代議士諸君、我々の声を国民議会に届けよ。人民の意思に従え。この指令を実行せしめよ。 黄色いベストたち。
■その特徴は
フランスの現状に疎いので、それぞれの要求の意味を理解しているわけではないが、かくも多くの要求項目が掲げられていることは驚きである。いくつかの政治的要求にまとめ上げられていないが、ここにこの運動の特徴があり、リーダーレスの運動ということだ。政党や労組が指導しているわけではなく、SNSによる拡散によって運動は展開されている。この運動に関与しようとする左右の政治グループが存在するのも確かだが、リーダーシップを発揮しているわけではない。政治党派の指導性が発揮されていないことが、政治的妥協を困難にしている原因だし、マクロン演説によっても沈静化しない理由でもある。いまのところ、どのように収拾されるのか分からない。
第二に、これらの要求をまとめ上げるとすれば、新自由主義的グローバリゼーションの結果である格差拡大、富裕層優遇の現実への「異議申し立て」といえるだろう。ニューヨークでのウォール街占拠、韓国の「キャンドル革命」にも通底していると見ることができる。
さて、このような各国の動きがある一方、日本の運動がなぜ停滞しているのだろうか。真剣に考えなくてはならない。いわゆる「モリカケ問題」は安倍による政治の腐敗と私物化であり、朴槿恵前政権と変わらない。また、日本はアメリカに次ぐ格差社会であり、貧困が蔓延し、地方の疲弊が進行している。それはフランス以上かもしれない。それでもなお、日本の民衆は沈黙しているどころか、安倍政権下の国政選挙で自民党の連勝を許している。選挙制度が正しく民意を反映していないとはいえ、政治的な安定が続いている。野党の分裂もあるが、巧妙な支配構造の前に沈黙させられているのが現状だろう。日本においても広範な論議のもとに要求項目を作り上げるべきときだ。フランスは欧州3位の経済大国であり、日本のような先進国といえるだけに、日本との違いを噛みしめなくてはならない。
闘いの現場から
■破廉恥
大阪都をしゃにむに押し通そうとする維新のわがままで大阪府知事選挙・市長選挙が行われる事になった。事もあろうにそれを統一自治体選挙にぶつけたのが松井・吉村の傲慢コンビだ。世論調査でそれを支持する人は過半数に満たなかった。そもそも「構想が実施決定」しても「都」にはなれず、「大阪府にしかならない」から「大阪府妄想」としか言えない。また4年前の大阪市住民投票ではっきり否決されている。我執で強行するのを破廉恥・大暴挙と言う。
■大暴風
大阪府も大阪市もこの「妄想」にもとづく攻防ばかりしていて、有効な市民生活擁護の施策など打ち出せない状況だ。何千億かかるかわからない博打場建設を抱えていては福祉・教育の予算も削らざるを得なくなっている。いくら稼いでも、ギャンブル依存の世帯主がお金を持ち出すので生活費に窮する家庭みたいなものである。
維新の統一ポスターが大阪府下一円に貼られている。「大阪の成長を止めるな」だって?! 冗談もたいがいにせんかい。成長などない。議会と市民生活を不安定におとしめて衰退させているのは維新政治だ。
こんな事は誰でもわかるのに、4月7日投票箱を開けてみたら、維新の圧勝だった。この大暴風の中で自民党議員団幹部も落選したり、立憲は府議で当選1のみ、大阪市会は全滅、と4年前並みの惨敗だ。暗たんたる気持ちになった人も多い。
■自業自得
詳しい分析はまだできないが、今思うに、妄想を押し通すまでは「死んでも死に切れん(松井一郎)」と必死のこだわりで当初劣勢を伝えられた府市会維新候補底上げの大博打にでた維新に対して、自民は何と政策ポスターに安倍の嫌な顔の大写で対抗する愚挙に出た。立憲は枝野代表の「まっとうな政治」+抽象的なスローガンのポスターを出してしまった。うそ八百の維新プロパガンダにこれで勝てると思うのだろうか?。立憲大阪府連は候補公募しながら4か月も放置して新人の貴重な活動時間を奪う犯罪的サボタージュを行った。
■希望
厳しい状況にもかかわらず、各候補は頑張った。すでに再起を表明し、動き出している候補もいる。市民はそういう人を今度こそ実質の、そして最大限の支援をするべきだろう。
貴重な砦を大事にして、市民運動とのタイアップで反維新と市民生活擁護の議員作りを地道に、時にはダイナミックに前進させて行くしかない。例えば松尾匡立命館大教授らのバラマーク賛同候補は、大石あきこさん、弘川よしえさんらが惜敗する一方、京都の小山田はるきさん、神戸の高橋ひでのりさんなど当選組も生まれていて、大いに期待できる。
「アジア新時代と日本」編集委員会 〒536-8799 大阪市城東郵便局私書箱43号
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