理念と政策こそ、野党再生の鍵
小熊英二(慶大教授)によれば、ここ10年の国政選挙にはつねに「3:2:5」の構図があるという(「世界」1月号)。保守が3割、リベラルが2割、棄権(無党派)が5割という構図だ。保守連合(自公)が常に3割の得票を維持し、得票率が5割台以下なら、保守(3割)はかならずリベラル(2割の野党連合)に勝つ。事実その通りの結果になってきているからこの仮説は正しいのだろう。だとするなら、リベラルが勝つためには、支持率を上げる(09年のような風を吹かせる)しかない。
旧民主党は、社会党や民社党、日本新党、新進党などが合流し、党勢を拡大してきた。そのベースにあったのは野党が一つにならなければ巨大な与党に対応できないという考え方だったのだろう。今回、理念や路線なんかどうでもいいから、希望と一緒になって一対一の構図を作り出せば政権交代が可能になると読み、前原誠司前代表は民進党を解体し希望との合流に踏み切った。その結果は惨憺たるもので、民進党は三分裂したが、新たな再合流の動きもある。しかし、立憲民主党の枝野代表は、「いい加減なところで妥協して数だけ増やせばいいという発想はない」と言い切っている。
野党を結集し党勢を拡大することで同党は09年に政権を取ることもできたのだから野党が一つになることは無意味とは言えないが、問題なのはそれに反比例して理念・政策がどんどん薄まり、結局のところ、何のために政権を取ったのか分からなくなってしまったことにある。旧民主党のように、理念や政策の一致がなく党勢拡大に走れば、原発や沖縄、安保法などの国の未来を左右する重要政策で民意を反映した政策や自公との対決点を鮮明に打ち出せなくなる。ここに民主党の決定的な敗因があったと思う。
とは言え、小選挙区での政権交代は、小選挙区で自公に勝たなければならない。いかにして「3:2:5」の構図を打破するのか。それはリベラルだけで実現できるものではなく、圧倒的な無党派、保守派の支持、力の結集が不可欠だ。
そのためには「理念や路線なんかどうでもいい」のではなく、原発再稼働反対や安保法、国家機密法、沖縄基地問題などに反対している「民意」に依拠し、そのための理念と路線、自公との対決点を鮮明にしていく、そうしてこそ、無党派、保守派の支持も集まるはずだ。
立憲民主党は年内には、安保法制違憲、原発ゼロ、辺野古見直しも盛り込んだ「基本政策」を打ち出すという。民意を反映した「基本政策」に期待したい。
主張
去る11月5日から10日間、トランプ米大統領のアジア歴訪が行われた。それがもたらした意味は大きい。だが、意味は意味でも、それは当初の米国の狙いとはかなりかけ離れたものだったのではないだろうか。
■露呈された米覇権の崩壊
トランプは、「歴訪」に当たり、その目的を「北朝鮮に対する中国をはじめアジア諸国による圧力強化」、そして「中国などアジア諸国と米国間の貿易不均衡の是正」におくと公言した。
その結果、目的は達成されたのか。周知のように、トランプ大統領自身は、「大成功」を連発している。しかし、誰も認めない「成果」への自画自賛ほど滑稽で本人を軽くするものはない。
今回の「歴訪」は、多くの人々が言うように、明らかに失敗だったと思う。「北朝鮮問題」は、はぐらかされ、「通商不均衡の是正」は、かわされた。「北への圧力一辺倒」に賛成したのは、従来通り、日本だけだったし、通商不均衡の構造的是正を約束した国はなかった。
何が「大成功」だったのか。トランプ氏の口から出てくるのは、中国との「28兆円」の取り引き、日本や韓国への米国製兵器の押しつけ、あとは、中国による「前例のない大歓待」だけだ。これでは、カネをつかまされ、持ち上げられて、「歴訪」の目的も何もすっかり見失い、「兵器押し売り人」に身をやつした「覇権国家、米国のなれの果て」が見えてくるだけだ。トランプの見るも無惨な姿にこの「米覇権の現実」を連想しなかった人はいないのではないだろうか。
今、「米国による平和」、「パクスアメリカーナ」の終焉を口にする人が急増している。「歴訪」の意味は、何よりもここに現れているのではないかと思う。
■これからの世界、新しい時代は?
今回の「歴訪」の主役は、大方の見立てでは、トランプではなく習近平だった。覇権国家・米国は、新興大国・中国に翻弄され、その前にかすんでしまった。
先の共産党大会で「強大な習近平体制」を内外に誇示した中国は、今、米国に代わる覇権への野望と動向を一段と鮮明にしている。陸と海からアジア、ヨーロッパへと中国主導の経済圏を広げる「一帯一路」戦略、それを金融や自由交易で支えるAIIB、RCEP構想、そしてアフリカや中南米への政治、経済、軍事的な進出。それらが世界に広がる華僑、華人のネットワークと一体に「中華民族」意識で推し進められていっている。
米一極支配が崩壊する中、勃興してきているのは中国だけではない。ロシア、そしてドイツ・・・。今、世界は確実に多極化してきている。「進む覇権の多極化」。そこに、今日の世界の「実像」を見る見方も強まっている。
この「混戦」の中から抜け出てくるのは誰か?新たな覇権はどの国が握るのか?そこで問われてくるのは、世界に通用する「理念」だ。
グローバリズムは、国と民族、引いては、集団という集団をすべて否定し、世界をバラバラの個人に分解して一つの市場にまとめ上げ支配する、これ以上にない究極の覇権主義だった。そのグローバリズムが破綻した。イラク、アフガン戦争の泥沼化やリーマン・ショック、自国第一主義の嵐など、軍事、経済、政治、あらゆる分野、領域にわたる破綻だ。それにともなう究極の覇権主義の終焉は、覇権そのものの終焉を意味していると言える。
実際、グローバリズムに反対して登場したトランプの覇権主義、「アメリカ・ファースト」は、その出発の最初から矛盾百出。大統領就任一年目にして、「ロシア・ゲート」など、早くもその退陣が日程に上るまでになっている。
エゴを「自由」や「民主主義」、「グローバリズム」など、オブラートで包んでこその覇権主義だ。他国の「国益第一」、「ファースト」を認めると言って置きながら、その実、「アメリカ・ファースト」の名で、エゴ丸出し、米国の国益を他国に押しつけるのでは、誰もそんな覇権は認めない。今回の「歴訪」は、その顕著な現れの一つだったのではないか。
「ファースト」と覇権、この誰の目にもよく見える矛盾。そして何より、その矛盾を覆い隠す力も余裕もない。トランプによる覇権、「ファースト」覇権は、その出発のはじめから覇権の「理念」足り得ないことを全世界にさらけ出している。
新しい「理念」のないところに新たな覇権はない。そこから見た時、今日の「多極世界」はどうか。「一帯一路」「RCEP」の中国しかり。「EU」のドイツしかり。その「理念」は、旧態然としたグローバリズムとその本質において何ら変わりがない。では、米国のグローバル覇権と対決する「主権民主主義」のロシアはどうか。中東では、シリア、イラク、イランなど、主権国家連合と、東アジアでは、米国をはねのける朝鮮と、そして欧州では、「自国第一主義」の諸勢力と結びつくその「ファースト」も、ロシア覇権をやるのなら、トランプと同じことではないかと思う。
■見えてきた脱覇権の新時代
トランプのアジア歴訪で明らかになったのは、中国や多極世界と米国との覇権の交代ではない。何よりもまず明確になったのは、対朝鮮圧力一辺倒路線が破綻したという事実ではないか。その後の情勢発展もそのことを裏付けていると思う。
中国が直ちに、習近平の特使として朝鮮に派遣した党の対外連絡部長は、朝鮮に「核とミサイル」を止めさせるどころか、朝中の友好を確認して戻ってきた。また、米国自身がとった処置、朝鮮のテロ支援国家再指定や史上最大の米韓合同空軍演習も、朝鮮による米全域を射程に入れた大陸間弾道弾発射実験成功で吹き飛んでしまった。
朝鮮をアジアの孤児にして包囲制裁するという「戦略」がいかに馬鹿げた妄想かは今や一層鮮明だ。事実、世界193ヶ国中、朝鮮と国交をもつ国は、この制裁期間、162ヶ国から174ヶ国に逆に増えているという。孤立しているのは、実は、米国であり日本なのだ。
一方、朝鮮が中国やロシアなど大国の後ろ盾を受け、大国によって動かされているという「よく言われる通説」も覆された。大陸間弾道弾、「火星15号」が、先述の中国特使の訪朝直後に、ロシアに至っては、大型国会議員団の訪朝真っ最中に、打ち上げられたという事実がそのことを雄弁に物語っていると思う。
世界の大多数の国々へと国交関係を拡大し、中国やロシアの統制からも自由な朝鮮、しかも自力更生を国是とし生産の国産化を高度に推進する朝鮮に対し、経済封鎖や制裁で核とミサイルを止めさせることはできない。あとは核戦争をするしかない。核戦争覚悟で朝鮮に戦争を仕掛けるのか否か。米国に残されているのはこの二者択一の決断だけだと思う。
「歴訪」がさらけ出したこの現実は、一体何を意味しているのか。それは、一言で言って、朝鮮に対し、もはや、米国の覇権、引いては覇権そのものが通じなくなっているという事実だ。
これまで「核」は、「核」で脅して覇権する覇権の道具だった。しかし、今や「核」は、覇権国家と差し違え覚悟で脱覇権する脱覇権の武器になった。この武器を圧力一辺倒で取り上げようとして失敗したトランプの今回のアジア歴訪は、何よりもまず、朝鮮による「脱覇権宣言」を意味していたのではないだろうか。
今回の「歴訪」失敗の陰には、もちろん朝鮮の闘いがある。「失敗」を決定づけた「火星15号」の成功は、その闘いから生まれたものだ。しかし、「失敗」は、それだけによるものではない。米国による圧力一辺倒の要求に応じず、はぐらかしたASEANなどアジア諸国の間には、米覇権に抗し、脱覇権を志向する時代の流れが確実に流れている。
日本帝国主義の植民地支配に抗し、米帝国主義による戦後70年を超える分断統治と対決して闘い抜いてきた朝鮮の反覇権自主の理念とアジア諸国の闘いの理念は、完全に重なっている。そして今、究極の覇権主義、グローバリズムに反対し、トランプのまやかしの「ファースト」覇権を排撃して世界に広がる自国第一主義の理念。これら古くて新しい脱覇権の理念は、米覇権崩壊の新しい時代の新しい理念、自主の理念として、未来を代表する時代精神になってきている。
覇権の側にこれといった新しい理念が生まれない中、ますます生気を帯びる脱覇権自主の理念。その強力な土台の上に姿を現す脱覇権の新時代。それこそがトランプのアジア歴訪から見えてくるものなのではないだろうか。
議論
選挙公示直前に生まれ、綱領も組織的基盤もなかった立憲民主党は、わずか2週間たらずの間に多くの支持を受け野党第一党となった。現在も支持率を14%にと、他の野党を圧倒するほど支持を伸ばしている。その要因は、何だろうか?
小池氏の「排除」にたいする国民の大きな反発が作用したのが一つの要因だと思う。これに反対し立ち上がった立憲民主党にたいし、国民は「筋を通した」と評価した。筋を通したというのは、排除に対して立ち上がったのが正しいという意味がある。それとともに、これまで改憲や安保法制に反対してきた民進党議員たちがその立場を堅持し小池氏に跪かなかったということも大きいと思う。
たしかに野党がひとつに連合すれば、自公政権に勝利する可能性は十分ある。前原氏もそのことを狙って民進党候補者をまるごと希望の党から出すという試みをしたが、その結果、希望の党への野合は国民の支持を受けることができなかった。国民はもうひとつの改憲を掲げる党を望んでいなかった。政権交代の受け皿になりうる党とは、改憲、安保法制を掲げる党ではなく、安倍自民党と対決しうる理念と力量をもった真の国民大衆の党を国民は求めていたと思う。
現在の立憲民主党にたいする国民の期待は、立憲主義と呼ばれる考え方に賛同しているからではないだろうか。
国民から支持を得た立憲民主党が掲げているその価値観、理念について考えてみたい。
■日本は日本の憲法を基準にして
周知のように、立憲主義は2年前の安保法制を反対する闘いのなかで生まれた。
集団的自衛権容認にもとづく安保法制は、日米共同戦争体制を確立するというもので、「二度と戦争をしない国」を誓ったはずの憲法を否定するものだった。反安保法制闘争は燎原の火のごとく全国に拡がった。60年安保闘争を髣髴させるような大きな盛り上がりをみせた。
安保法制は多くの憲法学者が指摘するように憲法を否定するものだ。現憲法は自衛権を認めていても交戦権は認めておらず、他国と共同で戦争をおこなう集団的自衛権を否定している。
そこから立憲主義が掲げられるようになった。保守・リベラルの憲法学者が一致して反安保法制の闘いの先頭に立ち、数万人の学生・市民のデモが連日、国会を包囲した。
今回の総選挙では、安倍政権が改憲に着手することを明らかにし、安倍政権に代わる政党(受け皿)として登場した希望の党は、安保法制と改憲を踏み絵にしたことからも分かるように、憲法否定の新たな政党が生まれたに過ぎなかった。
「枝野立て!」という国民の声におされて立憲民主党が生まれたのはその為だ。それゆえ、一時的な風が吹いたのではなく、2年前の安保法制反対闘争の中で掲げられた立憲主義が、立憲主義を掲げる政党を生み出すまでに強くかつ広範な国民の中にまで根を下ろしたといえる。国民の意思が明確に働いたうえで立憲民主党の支持が集まったといえると思う。
立憲主義はもともと英国で国王や貴族の専制支配にたいし憲法に従えというところから生まれた。国の骨幹に憲法を据えることによって、いわば「権力を縛る」ことによって恣意的な専制支配を防ぎ国民の意思を守るという民主主義原理が確立された。だから、国民主権と立憲主義はかたく結びついている。
日本の場合、形の上で立憲主義を確立したのは、国民主権が明示された現憲法が制定されたときだった。しかし、制定当時は占領軍のもとでの占領軍に適用されない制限を受けた憲法であり、独立後も日米安保条約が憲法に優先されてきた。そういう意味では、これまで立憲主義が確立されていたとはいえない。
安保法制はアメリカの要求(アミーテージー対日報告書)によるものであり、それに応え、安倍首相がアメリカの国会で約束し、その後、日本で強行採決したものである。いわば、アメリカの意思により憲法が踏みにじられたと言える。憲法の上にアメリカの意思があれば、国民の意思を反映させる民主主義などありえない。
それゆえ、「一法案に憲法を従わせるのは民主主義の否定だ!」と叫んだ国民大衆が求めた立憲主義は、アメリカの意思より日本の憲法を優先させる立憲主義であったといえる。
それは対米追随勢力を憲法で縛り、アメリカに対し憲法否定を許さないというものだ。このように日本における立憲主義は対米自主の性格をもっているといえる。
立憲主義を価値観とする立憲民主党を国民が生み出し、さらにいっそう期待が高まっているということは、日本は日本の憲法を基準にして政治をおこなっていくべきとする国民の要求が高まっていることの反映ではないかと思う。
「二度と戦争をしない国」という立ち位置
憲法は単に法の上にある法というだけでない。憲法は国の立ち位置、世界とアジアにしめる日本の地位と役割、国のあり方を示した国の骨幹である。
現憲法は言うまでもなく、先の戦争の惨禍を経て、生まれた「二度と戦争しない国」という立ち位置を明示した平和主義を核心とする憲法だ。だから、憲法制定当時、絶対多数の国民が歓迎し支持した。
戦争で犠牲となった数千万アジア諸国人民と、数百万同胞を失い塗炭の苦しみを味わった日本国民が、二度と戦争をしないことを誓い、制定されたのが、現憲法だ。「第二次大戦で地獄のような体験をして、その結果つかみとったのが現平和憲法だ。それを投げ捨ててしまうのは、日本にとって大戦の意味が失われることになる」(栗田禎子千葉大教授)。
今やその平和と民主主義の価値観は、国民の中にすでに定着しているといえる。
かつての改憲論は、日本が独立国として自らの武力をもつべきという括弧付きの自主的な改憲論だった。今日、安倍首相が主張する改憲論は、それと正反対の米軍の指揮のもとアメリカと共同戦争体制を確立すべきという、対米追随の改憲論である。
それは、「二度と戦争をしない国」という日本の国の立ち位置、あり方を否定し、徹底したアメリカの属国、侵略戦争の尖兵としての日本に変えるというものである。
したがって、立憲主義は、「戦争をする国」になるのではなく、「二度と戦争をしない国」という日本の立ち位置、アジアと世界に占める地位と役割、日本のあり方を国民の手で確固とせんとする国民の強い意志だと思う。
■政治を永田町ではなく国民の手に
立憲主義は民主主義と結びついている。
安倍首相は、安保法制の国会審議のときに、「決めるのは(総理に選ばれた)私です」と述べた。国会が国の最高権力機関であるにもかわらず、国会が形骸化し、安倍独裁が横行している端的な表れだといえる。かくして、多数を占めた自公与党と官僚、すなわち永田町が、総理の「ご意向」を忖度しすべてを決定している。
その結果、安保問題だけでなく、原発、格差問題、雇用、社会保障などで、ことごとく国民の意思が否定され、独占企業とアメリカに都合のいいように政策が決定されている。
今日の立憲主義は、憲法を生かしそれを基準にして原発政策や格差社会の是正など国民の生活を守る国のあり方に、これまでのアメリカと独占企業優先の社会から根本的に変えていく要求が反映されていると思う。
今回の総選挙で立憲民主党の登場に熱気が溢れたのも、多くの国民が自分の手で政治を動かすことが出来るという感触を感じたからだと思う。
立憲主義をかかげ「草の根民主主義」の民意によって政治をおこなっていくのが、今日の国民の要求だといえる。
この日本における立憲主義の闘いは、世界各地で主権意識の高まりによる主権確立、自国第一主義の潮流と無関係ではない。
アメリカの覇権が崩壊していくなかで、日本では立憲主義を掲げることによって、主権を確立し、日本の国民主権を実現していく闘いとなって表れているといえる。日本における立憲主義はまさにこの時代的潮流を反映し、それに合流していくものであると思う。
まさにそれゆえ、日本における立憲主義をめざす闘いはさらに勝利的に前進していくだろう。
現場から
■眠いけれどしかたない
しばらく諸事で忙しくて入れなかった派遣労働に久しぶりに行くことになった。眠い目をこすりながら起きた時間が午前5時半。こういう日は前日早く寝なければならない。午後10時就寝だった。
目覚まし時計とスマホのタイマーをダブルでかける。なまけものに近い自分を信用していない。起きるだろうと言う幻想を持ってはいけない。ましてや寄る年波もある。派遣労働者の信用は確実な現場着なのだ。はっきり言ってガムシャラに働く人より、確実に集合場所に来る人が求められる。
今日の集合場所はローカル鉄道に乗って、大阪・和歌山の県境にある駅。電車を乗り継ぎ、無事7時前についた。嬉しいことに相方も揃っている。
イベント用テントを公園に立てるだけの仕事だが、これがなかなか辛い。柱が6本あるので3人でヨイショっと声を合わせて3本立てる。次は反対側に回ってもう一方の3本を立てる。6人手配してくれたら一気に立てられるのだが、人手不足のため3人しか集まらなかったらしい。10個立てるそうだ。すると布の部分を10回かぶせたあと、20回、ヨイショっとしなければならないのか。気が遠くなるが、真夏の暑い時でないのが幸いだ。炎天下ではフラフラになってしまう。
夏でも冬でも気をつけなければならないのが、事故であることは言うまでもない。ふらついて倒したら大ケガだし、組立式のパイプの集合体を持ち上げる時に持つ場所が決まっている。不用意に違うところを持つと、指をはさんで中規模の負傷、下手すれば骨折になり、事業所も困るが、作業員も仕事や趣味に差し支えるから、絶対にケガは避けなければならない。
何といっても慌てないことだ。できるだけ緩慢な動作を心がけたい。見栄えや外見はよろしくないが、ケガをするよりよほどましだ。ただ、かけ声でタイミングを合わせなければならない。
■気を使う元請社長
さて作業が順調に進み、午前中に6本立ったので元請社長はニコニコしている。また、こういう単純作業は若者が敬遠するのか人が集まりにくく、来てくれるだけでありがたい、と社長が漏らしていた。だからほとんど怒ったりしない、怒って帰られでもしたら大変なのだ。昼食後に4本立てたら良いので楽勝だ。
社長の車で田舎スーパーまで乗せてもらい、買出しして帰り、公園のベンチで昼食休憩。機嫌の良い社長はお茶のボトルを買ってくれた。「また次の時も来てな。」「はいっ社長のためなら来ますがな」・・・いいやり取りだ、我ながら。ただこういう力仕事でも給料は1時間千円弱で、変わらない。派遣労働者の集まりが良くないからか、最近、基本時給1千円が増えてきた。
■やれやれ・・・
さて仕事は昼から要領もつかめてきたからスピード無理なくアップし、残りを難なく立て、位置の微調整、「鉄柱に布の結束」などを完成させるとあっという間に夕方になった。少し早いが作業完了。早く終わっても予定時刻の5時までの分は支給されるように近年なってきた。
そして若者一人、同年輩一人と、社長の車で最寄駅まで送ってもらい、終了報告メールに往復の切符を写メール添付で会社に送り、久々の業務は完了した。近頃は派遣といえど、スマホで業務報告のサイトにログインして定型送信ができないとだめなのが少々わずらわしいが、仕方ない。
同僚と「とにかく今日も事故なく終わってよかったね」「また明日から、遅れず、事故なく、病気せず、おたがいがんばりましょうね(そこそこ)」と、言葉を交わして別れ、一日が終わった。
随想
歳をとると、どこへ行ってもだいたい同じような年代の人たちとの交わりが多くなる。
30代や40代の頃はまだかろうじて、10代や20代の人たちとの接点があるが、還暦を迎える頃になるとめっきりそうした機会が減る。あちらも寄ってこないし、こちらもなんだか自然にそうなっている。
つい最近「いのち」という本を出した瀬戸内寂聴さんだったか、「90歳、何がめでたい」の佐藤愛子さんだったか、「歳を取ったら年寄りと付き合ったらダメ、若い人と接しなさい。」とおっしゃっていた。そう言えば最近若い人たちと交わっっていないなーとわが身を振り返った。
だからという訳ではないのだが、新聞に催し紹介がされていた「学生が出会った沖縄」という集い(12月3日・大阪天神橋PLP会館)に行った。
会場は40名位の方々でほぼ満席。やはり年配者が多い。空いている席に座ったら、沖縄の基地反対闘争で有名な安次富浩さんがお隣にいらした。前の席には名護市議の翁長久美子さん。二人とも集会での発言者だ。ここまではお馴染みの風景だが、会場の周囲には工夫を凝らした手作り感満載の垂れ幕が並ぶ。そして前の主催者席に並ぶのは本当に初々しいという言葉がぴったりの学生のみなさん。
訪沖2回という関大生のMさんがDVD「私の見た沖縄」として、映像と共に自らの思いを語る。現地に行ってまず感じたことは、同じ国の同じ人間どうしが争っている姿を見て、基地の良しあし以前に悲しくて、涙が止まらなかった。何でこんなことをしなければならないのか?やはり基地があるためだ。しかし、沖縄の基地問題は単純ではない。沖縄と本土、辺野古とその他の地域、また辺野古内における賛成派と反対派。その根深さが現地にいって初めて分かった。反対する人はなぜ反対するのか、賛成の人はなぜ賛成なのか。いろいろな人の話を聞いて欲しいというのが自分からのお願いである。また、座り込みに参加しているのは現地の人と本土からの人達が半々くらいで、現地の人は60代70代以上のおじい・おばあが多い。学生が行くのは休みの時になるのだが、本当に孫のようにかわいがってくれる。是非若い人、行って下さいとのアピール。満場の拍手を受けていました。
続いては、「沖縄問題とは誰の問題か」と題して同じく関大生のFさん。
沖縄の現状は、騒音、米兵のよる犯罪、事故の多発など今も続いている。平和記念館で知った「捨て石としての沖縄」。これも変わっていない。太田元知事が遺した「軍隊は国民を守らない」の言葉。これを最大の教訓として沖縄のおじい・おばあたちは「武力で対抗はあってはならない」「基地はいらない」と闘っている。選挙でも示されたその民意は無視され、本土の無関心が重なっている。「捨て石」は今も続いている。
自分は最初沖縄の人たちは「かわいそう」と思っていた。呑気に平和は大切だよねと言っていた。でも、沖縄に行き、現地の人たちと交あう中で、「弱くてかわいそう」という見方から「意思が強い。不屈、勝つ方法を諦めない人たち」という見方に変わった。そして「かわいそう」という第三者ではなく、自分も沖縄の人たちの犠牲の上に生きている加害者である。誰かの犠牲の上に生きるのは嫌だ。自分は加害者・被害者どちらにもなりたくない。沖縄問題とはまさに自分の問題である、と意識が変わったと力強く語っていました。
また、沖縄に関心を持っている学生は少ないというところから、若者が保守化している現状について語ってくれましたが、興味深く聞きました。
そこには「貧困」という問題がある。ブラックバイトや奨学金の返済のため、社会に目が向けられない。明日が今日よりよくなるという希望がない。せめて今の生活を守りたいという思いという意識。自分の友人も290円の学食が高いと170円のコンビニのカップ麺にしていると。
なりたくもないのに加害者と被害者に分断されている現実、貧困の若者の現実。みんなの力を少しずつ掛け算すれば政治を変えられる。みなで変えていきたいと締めくくったFさん。後輩たちの尊敬する先輩とのことですが、頷けます。
自分の言葉で、一人称で語る若者たちのなんと清々しく輝いていることでしょう。やっぱりこれからは、もっともっと意識的に若者の中へ!を心がけよう。来年の目標はこれに決まりだ。
集会は盛りだくさんで、この後、翁長久美子さん、安次富浩さんのお話、高作正博先生からのアピール文、東京から今話題になっている「ニュース女子」の沖縄への偏見を煽る放送を許さない会市民有志の女性からのアピール、歌、踊りと続きましたが、集約すれば、本土のみなさん、一回でも、一日でもいいから沖縄に来て下さいということであったと私には感じられた。これも来年の目標にしよう。
抗議声明
■新体制作りを始めた矢先の弾圧
人民新聞社は1968年に創刊し、毎月3回発行しています。日本中・世界中で権力とたたかう人々の声を伝えてきました。この夏に大阪府茨木市に事務所を移転し、世代交代と地域密着でより広い協力体制を作り、編集体制の強化を進めていました。その矢先の11月21日、突然編集長が兵庫県警に不当逮捕され、事務所が家宅捜索されました。容疑は「詐欺罪」で、新聞社とは関係が無く、内容も不当そのものです。私たちは編集長の即時釈放と、押収品の返還を求めます。
■事務所を包囲する異様な捜査
21日朝7時、尼崎市の編集長の自宅が家宅捜索され、兵庫県警生田署に連行され逮捕されました。続けて9時ごろ、20人以上の警察が茨木市の人民新聞社の事務所を包囲し、社員1名が来ると家宅捜索を開始。こちらが各所に電話したり撮影・録音することを禁止し、社員は軟禁状態にされました。後から来た社員には令状も見せず、立ち入りを妨害。マンション入口に検問を張り、出入りする他の住民全員に職務質問しました。住民を怖がらせて移転した事務所を孤立させる狙いが明らかであり、捜査の不当性が際立ちます。
■全てのパソコン・資料を押収する不当捜査
この結果、新聞社は全てのパソコンと読者発送名簿も押収されました。新聞発行に多大な影響が出ており、兵庫県警に断固抗議します。また、大事な名簿が押収されてしまったことを、読者・関係者の方々にお詫び致します。報道では「自分名義の口座を他人に使わせていた」とありますが、それだけで「最初から口座を騙し取った」と言い切り、逮捕や家宅捜索まで行うのは明らかに不当です。私たちは今回の逮捕・家宅捜索は、人民新聞社の新体制へのあからさまな弾圧であると考えます。
■実質的な共謀罪の適用の可能性が
今回の件で東京でも警視庁が2箇所を家宅捜索し、関係者に任意出頭を要求しており、弾圧の拡大が懸念されます。6月に成立した稀代の悪法「共謀罪」は、犯罪の無い所に「犯罪をした」と物語をでっち上げ、市民運動や報道機関を弾圧・萎縮させる目的です。
警察は、実質的な共謀罪の適用を始めたと考えます。
■私たちは弾圧に屈せず編集長を取り返し、新聞発行を続けます
私たちは、弾圧には絶対に屈しません。新聞の発行を続け、権力の不正を暴きます。全ての報道機関と社会運動が同じ危機感を持ち、抗議・協力して頂くことを呼びかけます。
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捜査している兵庫県警:078−3417−441
ぜひ、ともに声を上げてください。
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