研究誌 「アジア新時代と日本」

第168号 2017/6/10



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

主張 グローバリズム経済からの脱却を

議論 起こせ防衛論議 「日本の防衛=憲法九条+日米安保」が「常識」でなくなる時代

寄稿 大きく変わる東アジア情勢に日本は、どう対処すべきか

現場から 派遣労働おじさんの三日闘争

資料 安倍内閣支持率急落の衝撃(日刊ゲンダイ)




 

編集部より

小川淳


 驕れるものは必ず滅ぶ
「驕れる安倍一強への反旗」(「文芸春秋」7月号特集)に掲載された前川喜平(前文科省事務次官)の手記を読んだ。
 どのように加計学園の獣医学部は認可されたのか。「総理の威光」で文科省行政が歪められていった経緯が明らかにされている。
 そもそも農水省によれば獣医師の数は足りており、獣医学部はこれ以上新設しないとなっていた。しかも国内の動物の数は年々減っており獣医師の供給が不足しているという実態もない。獣医学部を新設すれば税金を原資に多額の助成金が必要になる。開設の根拠がないまま新たな大学設置を認めてしまえば国民への説明責任が果たせない。これが文科省が獣医学部新設に反対した理由だ。しかし、安倍首相の威光を背景にこの件を早く進めようとする内閣府は、最終的な大学認可権限を持つ文科省に露骨な圧力をかけ続け、獣医学部開設が本当に必要なのかという根拠が曖昧なまま安倍首相の友人が経営する加計学園への認可を文科省は与えてしまった。この「文科省行政が政府の圧力で歪められてしまった」ことへの憤り。これが前川氏の告発の理由だった。
前川氏は小泉政権下では義務教育国庫負担金を減らす官邸に反抗した経験を持つ「異色の官僚」だ。「出会い系バー」通いも子供の貧困の実態を知るためのものでやましいような話は全くない。事務次官辞任後は夜間中学でボランティアをされていることにもその人柄がよく表れている。
 安倍政権による国政の私物化、官僚の忖度が歯止めのきかないところまで来ていることに危機感を覚え、意を決して立ち上がった。もし前川氏の反旗がなかったら、加計問題は闇に葬られていたかもしれない。良心を失わない役人が幸いにも我が国に存在したことに感謝したい。
 これほどまでの腐敗、露骨な私物化が横行する中で、なぜ安倍首相に意見を言う与党(公明党も含めて)議員がほとんどいないのか。今や自民党・公明党は驕りと退廃の極みにある。
 これほどの政治の私物化がまかり通るはずがなく、現に世論調査にも支持率の急落(北海道新聞によれば安倍支持が41%、不支持が57%)が現れている。まだまだ安倍政権への支持率は高いとはいえ、個人的な生活実感から言えば市井で「安倍はおかしい」という声をよく聞くようになった。世論を欺くことはできない。驕れる者久しからず。それが歴史の教訓だ。



主張

グローバリズム経済からの脱却を

編集部


 今日、グローバリズムの破綻は、世界共通に広がる経済の泥沼の停滞に端的に示されている。「アベノミクス」は、この停滞からの脱却を図る画期的処方箋のはずだった。だが、産み出されたのは、格差と貧困、経済不均衡など停滞の要因のさらなる拡大と深刻化だけだった。今年二月、この政策の提唱者、米エール大学名誉教授・浜田宏一氏自身が政策の「手詰まり感」を認めたのはその何よりの証左だと言えると思う。
 その日本経済に今、米トランプ政権から「強いアメリカ経済構築」のため、全面協力の要請が掛けられている。グローバリズムでガタガタになった米国経済建て直しのため、「日米経済一体化で頼む」ということらしい。この米国経済への組み込みが日本経済にとって何を意味するのか。
 この踏んだり蹴ったり、二重苦三重苦からの脱却こそが、今日、日本経済に問われていると思う。

■「アベノミクス」とは一体何だったのか?
 5月18日、内閣府から2017年1〜3月期の国内総生産(GDP)速報が出された。「GDP2・2%増」「5四半期連続のプラス成長」。同日、夕刊各紙にはその「成果」が誇示された。
 だが、どの紙面にも共通していたのは、「生活実感乏しい成長」だ。この5四半期、個人消費の伸びは、0・04〜0・4%増に止まり、設備投資も今期0・2%増と前期の1・9%増から縮小した。一言で言って、リーマン・ショック以前の最長期連続プラス成長時によく言われた「食費を抑えたい」という消費者の節約志向や景気の先行き不安から賃上げも設備投資も控える経営者の心理にまったく変化はないということだ。
 この停滞現象の根底には、経済の新自由主義・グローバリズム化が深く横たわっている。
 雇用の非正規化、成果主義・能力主義導入など、人々の働き方と企業のあり方を根本的に変えた「改革」により、雇用者報酬の大幅減少と法人企業経常利益の大幅増加がこの二十年近く間断なく続いてきた。一方、大企業経営の地方・地域から海外へのグローバル大転換とそれにともなう生産拠点の海外移転、企業城下町の垂直分業体制からグローバル・サプライチェーンをつくっての水平分業化、モジュール化が行われ、地域循環経済の崩壊、日本経済を支えてきた中小企業体制の衰退、そして海外からの生活必需品大量流入による内需産業の崩壊が雪崩を打った。
 これら経済の新自由主義・グローバリズム化とその矛盾が、「小さな政府」路線による社会保障、公教育否定と相俟って、日本と日本経済にもたらした禍根は計り知れない。それは、一言で言って、日本国民の生活と経済の総体を覆う著しい格差と貧困の拡大、富の偏在であり、それにともなう日本経済そのものの恐るべき不均衡だと言える。
 よく言われるように、経済は生き物だ。放って置いてもヒト、モノ、カネは回転し、不況になっても自律的回復力がある。それが経済だ。ところが今、日本経済のこの生き物としての生命力が著しく損なわれている。産み出された極度の不均衡が根因となって、経済の基本単位である日本経済の市場が縮小し循環が破壊されて、泥沼の経済停滞が産み出されている。
 アベノミクスは、この病を「デフレ病」と診断し、その克服のための紙幣の大増刷と大々的公共事業投資、そして農業、医療、雇用など新自由主義構造改革、国家戦略特区創設による外資の大量導入によって治そうとした。
 その結果はどうだったか。確かにデフレは少し改善された。しかし、個人消費も設備投資も停滞したままだ。そうした中、経済の不均衡は、治るどころか癌細胞のように一層進行している。

■日米経済協力が日本経済にもたらすもの
 大統領選時から、貿易赤字や円安誘導などを問題にし、日本攻撃をこととしてきたトランプ氏に、安倍首相は、今年二月、51兆円投資、70万人雇用創出の特大お土産を持って首脳会談一番乗りを申し入れ、それを果たした。
 そして四月、ペンス副大統領を招いての、これまた世界に先駆けての日米経済協力合意。@貿易・投資のルールや共通戦略A経済や構造改革分野での協力Bインフラやエネルギーなど分野別の協力の「三本柱」だ。
 五月には、ロス商務長官が日米経済対話の先行きについて、「われわれの希望は、最終的に日米の自由貿易協定FTAを結ぶことだ」とTPPなど多国間協定から二国間協定への転換を確認。
 この連続的な「対話」にあって、米国は、不気味なほど日本の言い分の聞き役に徹し、自分たちの要求内容については明らかにしていない。それにはもちろん、いまだ政権陣容が決まっていないという彼らのお家の事情もあるだろう。
 しかし、そうした中にあっても明確なことがある。それは、この「協力」が「強いアメリカ」経済構築のため日本経済が徹底的に動員されるということだ。それは、多国間協定にも増して米国の利害が押しつけられる二国間貿易協定より何より、二国間相互投資に一層顕著に現れることになるだろう。米国への日本の投資は、当然のことながら、数兆ドルに及ぶ米インフラ投資への補完になるなど、完全に「強いアメリカ経済」構築の一環として組み込まれるものになるだろう。だがその一方、日本への米国の投資は違う。それが米超巨大独占体、さらには米国政府の世界覇権戦略に沿ったものになり、日本経済の均衡的発展はそれにより決定的に破壊されるようになるのは、今から目に見えているのではないだろうか。

■問われる抜本的経済構造改革
 「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくり、そのための「デフレ脱却」、それがアベノミクスの目標だった。それが今、「強いアメリカ経済構築への寄与」に置き換えられようとしている。
 安倍首相としては、それこそが日本の「国益」だと言いたいのかもしれない。だがそれは、どう見ても、日本の国益とは言い難い。経済停滞の病を癒すどころか、病を決定的にこじらせてしまうこと請け合いだ。
 病を治すためには、「停滞」をその根本から治す治療が問われている。もはや、生き物としての生命力が弱まり、自律的回復力が失われている日本経済にあって、その甦生は地方・地域の再生に委ねるのみではできず、まして外資の力に頼るなど論外だ。それができる力は、唯一、われわれの生活の拠り所であり基本単位である自分の「国」以外にない。「停滞からの脱却」を日本のもっとも切実な国益とし、そのために「国」の役割を抜本的、決定的に強化するところにのみ、活路は開けて行くと思う。
 今、「停滞脱却」のため、何よりもまずやるべきは、諸悪の根元、「日本経済の不均衡」という癌細胞を癒し取り除くことだ。そのためには、免疫療法と外科手術など、ありとあらゆる療法を総動員する必要があるだろう。まず、格差と貧困、富の偏在の是正、所得の均衡的向上だ。そこでまずやるべきは、雇用の原則正規化と創出、ブラック企業の禁制、そして否定されていた社会保障と公教育の抜本的改革だ。それを金融・財政政策、法的統制だけでなく、「国」と社会総動員の全国民的運動として行うことが問われていると思う。その一方、グローバル独占大企業への税制など各種優遇策の廃止だ。大企業は、「国」から恩恵を受けながら、貢献することが少ない。それを働きに応じたものにするということだ。それが嫌なら出ていってもらうしかない。次にやるべきは、全国的な地域循環経済の建て直しだ。経済は、国家的範囲でも地方地域でも地産地消で循環しなければならない。国家主権に支えられた強力な地域主権の下、地域内再投資力が高められ、地域産業連関が構築されてこそ、中小企業や内需産業の発展も可能となり、地域間格差も是正されるようになる。
 経済の停滞脱却のためには、次に、産業構造の根本的転換を促すほどの異次元のイノベーションが必要だ。今日、科学技術研究開発への投資は、欧米の公2,民1に対し日本はその逆だ。また、高等科学教育への国家的取り組みも弱い。こうした米国におんぶに抱っこの対米依存体質の転換こそが今、徹底的に求められている。
 「停滞脱却」のため、もう一つ求められているのは、世界、中でも主権尊重のASEANなど東アジア経済共同体との自立共栄だ。こうした国際的相互協力が大きな力になると思う。
 「国」の役割をこのように高めるには、これまでの政治、既成の政党に頼っていてはだめだ。国民大衆が政治を握り動かす新しい民主主義が必要だ。欧米など世界と同様、日本でも、「自国第一主義」「新しい民主主義」のもう一段階高い発展こそが今切実に求められていると思う。



議論 起こせ防衛論議

「日本の防衛=憲法九条+日米安保」が「常識」でなくなる時代

吉田寅次


■「北朝鮮の核とミサイル」対処がどうして日本の防衛問題になるのか!
 米原子力空母・カールビンソン、朝鮮近海に向かう! 「トランプ米国がレッドラインをいつ越えるのか」? この「一触即発の朝鮮半島」事態は「戦禍が及ぶ危機」に何一つ為す術もなく、ただ「トランプの暴走」がないことを祈るだけという日本の安保実体の他力本願ぶりを痛感させた!
 そしていま「北朝鮮の核とミサイルの脅威」対処が日本の防衛問題とされ、自衛隊による「敵基地攻撃能力保有」が求められている。それは日本が朝鮮の交戦相手国になるということだ。朝鮮と戦争状態にあるのは米国であって、わが国ではない。なのにどうしてこのようなことになるのか?
 それは、日本の防衛路線が「自衛隊は専守防衛の『盾』、米軍は報復攻撃の『矛』の役割を担う」、つまり「憲法九条『盾』+日米安保『矛』」=日本の防衛となっているからだ。
 「日本の防衛は日本一国ではできない」は戦後日本の「常識」だ。日米安保をおおむね世論も認め、いわゆる「ビンの蓋」論、「米軍は日本の軍国化を抑える」ものと理解する護憲の人々も多い。軍事は米軍に委せ「軽武装で経済成長」という吉田ドクトリンが「戦後の成功策」と言われてきた。
 しかし戦後七〇年、集団的自衛権行使容認の安保法制が施行され、「北朝鮮の核とミサイル」対処が日本の防衛問題となり、九条改憲にひた走る安倍政権下で「米国と共同で戦争する日本」化が急速に進められている。
 いま、「憲法九条+日米安保」という日本の防衛の「常識」が非常識に感じられる事態を日本人は目の前にしている。この「常識」を根本から見直すべき時に来ているのではないだろうか。

             

■ その基礎にある「利益線を守る防衛」という考え方
「憲法九条+日米安保」という日本の防衛路線の基礎になる防衛理念についてこれまであまり議論にならなかった。しかしいまは防衛に対する考え方から根本的に見直すべきだと思う。
 2015年発刊の「逆説の軍事論」(パジェリコKK)という本がある。著者は冨澤暉という陸上幕僚長を務め、日本の防衛を第一線で担った人物だ。この書の推奨者、五百旗部真氏が日本防衛学会会長だということを見ても、この著書が歴代日本政府主流の防衛理念であることがわかる。
 この著書には以下のように書かれている。
 「主権は昔も今も、自国の軍隊が守るものです。一方、利益線の防護に関していえば(これは第二次世界大戦を引き起こした要因でもあったわけですが)、どの国の利益線も常に他国の利益線と重複しています。
 したがって、もはや一国で守るのではなく他国と協力した共同防衛、集団安全保障の形で守らざるを得ないというのが現在の安全保障に関する考え方の主流になっています」
 要約すれば、まず「主権を守る防衛」と「利益線を守る防衛」という二つの防衛理念があるということ、次に「主権を守る防衛」は自国の軍隊が守る「自衛」であり、そして「利益線を守る防衛」は(一国で守るのではなく)「集団安保」が現在の主流である、このように定義づけされている。
 「利益線防衛」という考え方は、かつて言われたマラッカ海峡防衛論といった「シーレーン(海上輸送路)防護」や「中東の平和(石油権益)維持」のような経済的利益など自国の主権線領域外にまで拡大された防衛理念である。
 この「利益線を守る防衛」=「集団安保」との考え方に基づいて「憲法九条・『盾』+日米安保・『矛』」との日本の防衛路線があることがわかる。
結論を整理すると以下のようになる。
 第一に、現在は「集団安保(国際安全保障)」の時代である。すなわち「利益線を守る防衛」が基本であるという考え方だ。
 第二に、「集団安保」基本の考え方では「自衛」は制限されるべきものとされる。自衛権とは、「一定の条件の下で『自衛権を行使しても許される』程度の限定的な権利となる。
 その論拠は国連憲章五一条とされる。「安全保障理事会が・・・(強制力行使の)一定の措置を執るまでの間、個別的あるいは集団的自衛(NATO、日米安保など軍事同盟)の固有の権利」が行使できるというものだ。逆に言えば、自衛権は安保理が必要な措置を執った後は、直ちに自衛行動を中止するべき、きわめて限定的な権利にすぎない。
 この考え方に従えば、「主権を守る防衛」、自衛は限定的なもので、「利益線を守る防衛」、集団安保が優先される。言い換えれば、「憲法九条+日米安保」という日本の防衛路線は、日米安保優先の防衛路線であるという結論になる。
 「利益線を守る防衛」理念からすれば「敵基地攻撃能力を保有」する交戦権を保持する必要、と日米安保が要求すれば、九条改憲は当然の安保義務だ。これがいま日本の直面している現実だ。

■「利益線を守る防衛」は防衛戦を自国の外に拡大する覇権の防衛理念
 結論から言えば「利益線を守る防衛」とは、自国国境の外に防衛線を拡大する覇権的防衛論だ。 司馬遼太郎の「坂の上の雲」で「かつては帝国主義の時代であった」と描かれたように「ロシアの南下を防ぎ朝鮮での権益を守る」として日本は日露戦争を引き起こした。その後は「満蒙(満州と蒙古)は日本の生命線」だとして満州事変を起こし満州国樹立に進み、さらに中国本土侵略のため日華事変へと、そして東南アジアへと戦線を拡大、ついには英米と権益が激突、第二次大戦(太平洋戦争)の惨劇と敗戦の悲劇をもたらした。  これがわが国の「利益線を守る防衛」の歴史だ。レーニン「帝国主義論」流に言うならば「利益線を守る防衛」論とは、帝国主義の経済権益線、植民地の拡大、植民地再分割、争奪戦である帝国主義間戦争を正当化する防衛論なのだ。帝国主義の時代は「利益線を守る」ためには民族自主権侵害、主権剥奪の植民地保有肯定が世界の常識だった。
 では現在の「利益線防衛」は? 本質において覇権擁護の防衛論という点に変わりはない。
 前掲書では「利益線」を「世界各国の協力で守るべきものを、最近はグローバル・コモンズ(全世界の共有物・共有権限)と称しています」としている。これを翻訳すればこういうことだ。
 かつては「利益線」=植民地権益をめぐって各国が争ったが、第一次、第二次と二度の帝国主義間戦争の結果、共倒れを防ぐ必要、協調が提起された。協調の必要から生まれた新たな「利益線防護」の考え方とは、反植民地主義、反覇権主義の主権擁護勢力の台頭から覇権的権益を守る国際協調の秩序をうち立てることだ。すなわち「利益線」を「一国で守るのではなく」、「グローバル・コモンズ」として共同で防衛するという覇権権益防護策を打ち立てたのだ。
 この集団安保を具体的な形にしたのが国連だ。
「国連では、勝者連合の主要5カ国が安全保障理事会の座を与えられましたが、それはとりもなおさず、アメリカ一極体制(秩序)維持に協力するということでもありました」(前掲書)
 実際には、集団安保として国連はあまり機能せず、東西冷戦時代にはNATO・日米安保とワルシャワ条約機構という東西大国を中心とする集団安保策が機能した。冷戦終結後も中ロの反対など国連安全保障理事会が機能せず、多国籍軍、有志連合という形で集団安保策がとられた。
 戦後の「利益線を守る防衛」の本質は、「アメリカ一極の世界秩序を守る」防衛論である。前掲書では日米安保も次のように定義されている。「アメリカから見れば・・・『日米安全保障条約』であって『日米相互自衛条約』ではない」つまり「日本の自衛」のためではなく「あくまでアメリカにとって有利なアジア太平洋地域の秩序をつくり維持することが目的」なのだ。問題はこれが日本のとるべき防衛理念として正しいのか否か、ということだ。

■いまは「利益線を守る」防衛の時代ではない
 トランプ流米国ファーストに終始した先のG7(先進7カ国首脳会議)を終えてドイツのメルケル首相は「もう他国を頼る時代ではなくなった」「欧州は欧州独自の道を進む」と語った。もうアメリカ一極の世界秩序を守る時代は終わったということだ。日本からも「米国べったりの時代ではなくなった」の声が上がっている。
 「国際社会のルール違反」だとしたのが「北朝鮮の核とミサイル開発」に対する国連安保理の「制裁」決議だが、まともに履行されないのはその正当性を世界中が疑っているからだ。ましてや「懲罰」として朝鮮への軍事的打撃を加える集団安保軍、有志連合軍を組織するとして、いまこれに応じる国が世界のどこにあるというのだろう? しかし「憲法九条+日米安保」の防衛路線をとるわが国は断れない。
 いまや「憲法9条+日米安保」路線をその防衛理念の根本から見直す時だ。古い時代の「利益線を守る防衛」に代わる現時代の防衛理念として「主権を守る防衛」について考えることが求められている。そして「主権を守る防衛」の見地から九条自衛について論議を深めていくべきだと思う。


 
寄稿

米朝チキンレースから降りたアメリカには敗北の道しか残されていない。
大きく変わる東アジア情勢に日本は、どう対処すべきか。
2017年6月11日   佐々木道博


 この4月と5月、今後の東アジア情勢を占う大きな出来事がたて続いた。
 朝鮮民主主義人民共和国が、朝鮮戦争以来続く東アジアの米日韓の軍事同盟に対し最終的な決着をつけるべく大攻勢をかけている。1月には金正恩朝鮮労働党委員長が元旦メッセージで「ICBMの準備も最終段階に来ている」とアメリカに通告し、今年中の米朝の最終決着を宣言した。そして1月以来 新型のミサイル実験をたて続けに行った。従来の弾道ミサイルとは全く違う軌道を自在に変えられるミサイルや精密誘導で確実に敵に打撃を与えるミサイルなど、これらは従来のミサイル迎撃システムをすべて無力化する最新鋭のものである。6月9日のロシア「スプートニク」の報道でロシアの軍事専門家は、アメリカは「北朝鮮のICBM攻撃の脅威を除去できない」と断言している。先月アメリカが行ったICBM迎撃実験は、どのミサイルがどこから飛んでくるかあらかじめわかっている実験であり、実際の戦闘では役に立たないものであると述べている。朝鮮側は、地上、海上、空中のすべてに対応する兵器を完成させ、それを毎週の実験によって証明している。特にトランプ大統領が4月末、朝鮮労働党委員長金正恩氏との対話に言及し、マチス国防長官が「戦争になれば甚大な被害が出る」と戦争回避の発言をし、米朝チキンレースから完全に降りたあとの5月からは毎週のように各種ミサイルの連続実験に踏み切っている。まさにアメリカの足元を完全に見透かした行動といえるだろう。
 さて、8月に朝鮮では、大規模な勝利宣言のイベントを平壌と白頭山で計画しているという。そうだとするとこの6月と7月に、さらにアメリカを追い詰める大規模攻勢を準備していると見て良いだろう。この流れは、朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に変え、その先に米朝国交正常化、南北の統一に向けた大きな動きにつながっていくはずだ。 朝鮮戦争以来60年以上経過するが、アメリカは「社会主義朝鮮の崩壊」を策動しあらゆる敵視政策をとってきた。また核大国(国連常任理事国)を巻き込み国連を利用し何度となく制裁を加え圧迫を加えてきた。まさに朝鮮の核とミサイルはこうした帝国主義たちの大国主義的横暴に対抗する正義の武装である。そして今こうした敵視政策が完全に破綻し帝国主義の横暴を許さない確固とした後ろ盾として朝鮮民主主義人民共和国が世界に登場したとみることができるだろう。
 わが日本を振り返ってみるとどうだろう。安部政権はこの10年来アメリカの弱体化を認識し、危機意識に捕らわれ安保法制や国内危機に対処するために秘密保護法や共謀罪などの制定に躍起となってきた。そして今回のアメリカ「空母カールビンソンやドナルドレーガンの日本海派遣訓練の費用もすべて日本が出した」のではないかと永田町ではもっぱらの噂である。森友学園や加計学園問題で窮地に立つ安部政権は、北朝鮮ミサイルの危機をあおり何とか支持率を保ってきたようだが、アメリカがチキンレースから降りた5月には、そうした北朝鮮危機も全く功を奏さず支持率は急降下している。また頼みとするアメリカトランプ政権も国内反対派の攻勢に直面し「銃声無き内戦」状態である。
 1強支配といわれる安部政権もしょせんアメリカの従属国家の主であり、対朝鮮政策もアメリカのご意向には逆らえず、また独自に外交を展開する力もない。アメリカによる核の傘が完全に破れた中で日本の進路は迷走するしかない状態となっている。憲法よりも上位概念である日米安保条約に縛られた現在の日本を、一刻も早く安保のくびきから解放し、自立した平和で民主的な国家を目指すべきではないだろうか。
 今、目の前に展開されているミサイル実験は、日本の進路や政治状況に大きな影響を与え続け、その決着がすぐそこに来ている事を知らなければならない。
 特に日本の左翼と言われてきた皆さんは、朝鮮の実情をもっと知るべきであるし、帝国主義が牛耳る大マスコミの大宣伝に完全に洗脳されている人も多い。今この激動の最中もっと大きく眼を開いてほしいと考える。
 こうした中、民族派の雑誌「月刊日本」6月号では、「北朝鮮との対話に踏み切れ」との特集記事(亀井静香、菅沼光弘対談)を載せている。
 保守の大物政治家亀井静香氏は、別の雑誌対談では、「北朝鮮、韓国と日本が連携し米中ロの大国主義と戦おう」とも呼び掛けておられる。韓国文在寅政権の誕生とともに素早い行動を見せておられる。本来左翼の側が、こうした行動に立ち上がるべきではないかと考えるが、読者諸氏に問いたい。



現場から

派遣労働おじさんの三日闘争

平 和好


 久しぶりによく働いた。ここのところ、色々な活動が続いていたのだが、久しぶりに3日連続で出勤したのだ。営業の兄ちゃんが「平さん、よく応募してくださいました」などと、使い慣れない丁寧語で喜んでくれた。
 去年、今日も明日も、来週も、来月も出勤無理と答えたら半泣きで「ばかばか」と嘆いた兄ちゃん。それもそのはず、私のようなロートルでも使わない事には派遣職場は人出不足がひどいのだ。ある募集広告メールには「最悪、手足が生えていたらOK」という差別的な表現で人手不足を露骨にアピールする求人もあった。

■御祝儀
 最初の日は、生駒山を超えたところまで車で連れて行かれて、高齢者マンションの2階から6階へ引っ越す入居者の家財道具一式運びだった。朝から夕方まで約5時間の実働。ベッドやタンスの移動があるので二人作業が必須。リーダーがいくら「仕事しい」でも、もう一人いないとだめなのだが時給1千円、合計5千円の仕事はおいしい仕事が好きな若者には人気が無いらしい。引き受けたら拝むように感謝されてしまった。
 半日とにかく歩き回り、エレベーターで荷物を移動し、とにかく荷物をぶつけたり落としたりして破損しないようにゆっくりと余裕を持って運ぶ「年寄り能力」を発揮したり、長年の使用でたまっていた綿ホコリを濡れた雑巾でさりげなく拭いたりして、夕方に作業が終わったら、喜んだお客さんがそっと封筒を差し出した。樋口一葉さんが二人に一枚ずつ。そうだ、引っ越しは結構、この手の「御祝儀」がつきものなのである。といってコッソリ受け取ってはいけない。どうしましょうかとリーダーにお伺いを立てる。いただいておきましょうと即断が出て所得税がかからない樋口さんを一枚ずつ山分けしたから結果的には時間給2千円。
 選挙闘争でも、ボランティア覚悟で行って献身していたら、時々(毎回ではない!)おいしい事があるのと似ている。

■現代夜なべ仕事
 さて、その日、帰宅して三時間寝、集会から帰ったら次の仕事が待っている。また営業の兄ちゃんが拝むように喜んでくれた深夜勤務。遊びたい盛りの若者には人気が無いのか、人が集まらない。ホームセンターの改装に伴うLEDへの蛍光灯交換。と言ってもつけるのは専門の電気屋さん。私の仕事は1千本近い直管の包装を解いて、下から差し出す「助手」専任。これまた電車では行き来できない山のふもと。車で運ばれ、夜10時から翌朝7時まで。深夜勤務だから1万3千円になった。少々コツがいる。間に合わないと電気屋が怒るので、包装を解く作業を合理化し、タイミングよく差し出すのと、床に散らばる包装紙を巡航速度で片づけていく掃討戦能力(そんな大げさではないが)、あまり周囲より早すぎて迷惑をかけない心配りも必要だ。
 腕と足が軽くこわばりそうになる夜明け頃に床を清掃して終わり。気を付けるべきは「仕事もう少しで終わり」と言う安心と油断。実は相当疲れているので足元と周囲に注意が必要なのだ。夜明け前は薄暗いから、下に置いてある簡単な台車に乗ってしまい、倒れて眼鏡を割ったことが実はある。教訓として、以後はパッパッと動かない事に決めた。 派遣労働は労災の巣だ。動作はあまり早くしないようにして、被害を防ごう!

■派遣ダブル登録
 翌日はあまり早起きでない時間からパソコンの一斉入れ替えだった。別口の派遣会社から来た依頼だ。専門知識? そんなものはいらない。配線や機械や中継装置を破損しないよう、慎重にとにかく外してばらして、同じ「部品」ごとにそっと回収箱に入れる。今日は100台だった。回収・箱入れが終わると新品をさらに慎重に開封してどんどん並べ、中継器と接続コードを全く同じような配列で並べ、あとは専門家に任せる。空き箱を回収し、潰し、床や机の上を清掃し、終わりだ。こちらはほとんど肉体労働でないので、うまく年寄り向きの仕事をくれるものだと、盆正月関係なく人出集めをしているオーバーワークの大学後輩N君に感謝しながら夕暮れの現場を後にした。
 気を付けるべきことが最近は増えて、少なしとはいえ会社勤めの時代の年金が出ている。限度額を合算で超えると年金減額か支給停止になる。だから超えないように出動を計画的に加減しなければならない。詳細は年金事務所のホームページを検索してほしい。そして上記で述べた、所得捕捉されない「御祝儀」を一定確保しておくことも必要だ。かくして、派遣ライフ3連戦が無事に終わった。みんなで幸せになろう。



資料

安倍内閣支持率急落の衝撃"消極的支持層"ついにソッポ

日刊ゲンダイ


 安倍官邸に激震が走っている。2つの世論調査で、内閣支持率が急落しているのだ。
 北海道新聞が5月26〜28日の3日間に実施した調査結果によると、安倍内閣を「支持する」は4月の前回調査から12ポイント減の41%、「支持しない」は12ポイント増の57%だった。
 さらに、6月1日に発表された日経新聞電子版「クイックVote」の調査結果は、もっと衝撃的だ。内閣支持率は前回調査の52.1%から25.4ポイントもダウンして26.7%だった。「クイックVote」は週1回、電子版の有料・無料の読者を対象に行っている。
 安倍官邸が慌てているのは、調査対象がまったく違うのに、それぞれ支持率が急落していることだ。地方と首都圏、両方の有権者が安倍政権に「ノー」を突きつけた形だ。支持率急落の原因は、<森友、加計、共謀罪、レイプ告発>の4つだ。
 この先、大手紙の世論調査でも安倍内閣の支持率は急落していくのか。「北海道新聞」と「クイックVote」の調査結果は予兆なのか。
「ニュースに敏感な層」と「消極的な支持者」が離れたとしたら、国民全体の世論を先取りしている可能性が高い。


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