議論 「70年談話」で問われたこと 日本人としての謝罪の在り方
安保法案廃案へ、「闘い」は終わらない
歴史的な1週間となるかもしれない。「安保法案」は17日の参院本会議での強行採決へ、いよいよカウントダウンが始まる。
12万人が集結した8・30デモを主催した「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」は、「強行採決」阻止に向けて、14日から国会前で座り込み、国会包囲へ連続的に取り組んでいる。
10万の市民が国会を包囲しても、支持率がどう下がっても、アメリカに約束した安保法案を放り出すわけにはいかない安倍は粛々と採決を「強行」するだろう。これまでの反対運動は「法律」が成立したら「終わり」だった。いま反対運動に携わっている人たちは、どう運動を継続し、「廃案」へつなげるかを考えている。むしろ反対運動はこれからが本番だと与党は思った方がいい。
その戦術のひとつは"違憲訴訟"だ。過去に例のない原告の数を揃えて全国各地で訴訟を起こすという。弁護士の倉持麟太郎氏は言う。
「この法案には不可分・不可避的に"違憲性"や"法の欠缺"という爆弾がちりばめられている。今後、自衛隊員等が訴訟提起をして、違憲判決が下された場合、アメリカとの約束は結果的に果たせなくなるというリスクを抱え続ける。真に日米同盟を大切であると考えるならば、このような爆弾を抱えた法案を成立させることで、『約束に応えた』とするのは、パートナーシップとしてあまりに不誠実ではないか。『希望の同盟』を支える法案やそのために出動する自衛隊の基盤が、ここまで不透明かつ薄弱で本当にいいのか」と。
もう一つはこれから続く東北の地方選、そして来夏の参院選だ。安倍官邸は「反対運動」が長期化し、来年の参院選までつづくことを恐れているのは間違いない。
小沢一郎が旗を振った「野党共闘」が機能し、与党は岩手知事選、埼玉県知事選で二連敗した。民主、維新、共産、社民、生活の5党は、13日山形市長選を皮切りに、宮城、女川、相馬、釜石と続く地方選を「みちのくシリーズ」名づけ、安保法案反対の運動へつなぐつもりだ。9月に「東北シールズ」も発足した。
与党への逆風は選挙だけではない。沖縄・辺野古移設工事も強行されるなら、与党は改めてオール沖縄を敵に回すことになる。川内原発の再稼働でますます支持率は低下するだろう。
野党が安保法案反対で一致し、国民の怒りを受け止める受け皿をつくれば、間違いなく、安倍政権は倒れるはずだ。この秋、いよいよ安倍政権のメルトダウンが始まる。
主張
■「いつ植民地をやめるんですか?」
8月19日参院安保特別委員会で山本太郎氏が、安保関連法案の内容をはじめ秘密保護法、原発再稼働、TPPなどが2012年の「第3次アーミテージー=ナイ報告」の完全なコピーであると指摘した。これに対し、中谷防衛相は「結果として重なっている部分もあるが、あくまでも我が国の主体的な取り組みとして検討、研究をして作った」と、少なくとも類似していることは認めたのである。
山本氏は質問の最後を次のように締めくくった。「これだけ宗主国様に尽くし続けているのにもかかわらず、その一方でアメリカは同盟国であるはずの日本政府の各部署、大企業などを盗聴し・・・いつまで(米国にとって)都合のいい存在で居続けるんですかってお聞きしたいんですよ。いつ植民地をやめるんですか?」
国民の大多数の反対にもかかわらず、安倍首相は9月中に安保関連法案を成立させることを明言している。それは、アメリカの要求だからだ。安保関連法案は日本をアメリカと共に戦争する国にする法案であり、違憲である。にもかかわらず、それがアメリカにつきつけられた要求であるがゆえに、アメリカの覇権の下で生きようとする日本は実行しなければならない、というのが厳然たる現実だ。
CSIS(米のシンクタンク戦略国際問題研究所)のアーミテージー、ナイの報告書は、米国の対日戦略であり、これまで政権が民主党か、共和党かに関係なく実行されてきた。
第3次アーミテージー=ナイ報告「米日同盟――アジアの安定をつなぎとめる」は、「日本は一流国家(Tier-One Nation)たるつもりがあるのか」と問いつめ、「強いアメリカは強い日本を必要としている」と迫りながら、12項目を実行せよとの要求してきた。Tier-One Nationとは、十分な経済力と軍事力を有し、グローバルなビジョンを持ち、指導的な役割を担う国を意味するという。
12項目の内、安保関連法案との関係を見ても、2、シーレーン保護、5、インド、オーストラリア、フィリピン、台湾等との連携、6、日本の領域を超えた情報・監視・偵察活動、平時、緊張、危機、戦時の米軍と自衛隊の全面協力、7、日本単独で掃海艇をホルムズ海峡に派遣、米国との共同による南シナ海における監視活動、9、国連平和維持活動の法的権限の範囲拡大、11、共同訓練、兵器の共同開発とその内容が全面的に一致している。
その他の1、原発の再稼働、3、TPP参加、8、日米間あるいは日本が保有する国家機密の保全、9、集団的自衛権の禁止が同盟にとって障害だ、12、日本の防衛産業に技術の輸出を行うように働きかける、等の項目はすでに実施されている。
つまり、アーミテージー=ナイ報告は、日本で一つの漏れなく完全に実行されんとしており、安保関連法案はその最後の総仕上げだ。
■違憲への怒り、高まる自主の気運
アメリカはこれまで「日米構造協議」「年次改革要望書」「日米経済調和イニシアティブ」と名前を変えながら、アメリカの要求を日本におしつけてきた。それらが日本の国益や国民の利益を犯すものであったということは言うまでもない。いかに日本が従属国であるかを如実に示すものである。また、アメリカが押しつける政策に抵抗する自民党政治家は、田中角栄元首相をはじめことごとく、東京地検特捜部の捜査を受けて逮捕、辞任に追い込まれてきた。
それらはすべて主権の侵害だ。しかし、今回の違憲の安保関連法案は度を越している。
山本氏の指摘は、保守であろうが革新であろうが、誰の目にも、日本がアメリカの「植民地」であることが明らかになるまでになったことを物語っている。改憲論者の自民党OBや自民党議員が安保関連法案に反対し、右翼民族派がアメリカ大使館に米国の傭兵化反対を掲げながらデモをおこなうのも、憲法そのものが否定され、日本の主権があからさまに侵害されているからだ。
8月30日に12万人が国会を包囲し、安保関連法案廃案を求め全国各地で集会とデモが繰り広げられた。それ以降も新宿デモや全国各地の集会・デモが続いている。安保関連法案の参院強行採決がなされれば、その怒りはもっと大きくなり、国民大衆の安保関連法案反対の闘いは、違憲訴訟、集会とデモ、来年の参院選などへとさらに拡大し、続けられるのは確実だ。なぜなら、日本の政治社会の根幹をなす憲法が否定されているからだ。
違憲にたいする怒りで爆発した反安保関連法案の国民的闘いの新しい特徴は、アメリカに問題の根源があるとし、対米自主の機運が高まっていることだ。戦争法案反対、民主主義否定反対だけでなく、アメリカが安保関連法案を押しつけているところに問題の根元があるということがいっそう明らかになっている。
■露呈したアメリカの正体
「アメリカは、『自由と民主主義』のためとして、世界中に基地をかまえて、紛争地域を占領し、市民の生活を脅かし、そして9・11のあとに、『対テロ戦争』として、無差別殺人を繰り返してきました」(芝田奈々)、これが普通の学生が見るアメリカだ。
今日、アメリカは中近東、アフリカ、ウクライナなど世界各地で紛争を起こしている。その結果、戦乱が拡大し、大量の難民が生まれている。アメリカが押しすすめた新自由主義政策により世界的な経済格差・貧困もいっそうひどくなっている。
これまで軍事的にも経済的にも弱体化し、没落の道をたどってきたアメリカは、今日、覇権回復のために狂奔することにより、世界の矛盾を一層激化させ、自身の没落の速度を更にはやめている。
アメリカはもはや自由と平等の象徴ではなく、侵略と戦争、貧困と格差の古い政治の象徴となっている。
こうした中、アメリカの覇権回復の道具として日本があり、自衛隊がある。自衛隊がアメリカの戦争に傭兵として動員されるというのは、世界各地の紛争に日本が介入するということだけでなく、日本そのものが戦争に巻き込まれていくことを意味している。
まさに日本がアメリカへの従属をやめるということは、戦争をしない、戦争に巻き込まれないうえで切迫した問題としてある。
また、「第3次アーミテージー=ナイ報告」で原発再稼働やTPPに日本を参加させることが戦略目標だと指摘しているように、アメリカは社会経済的にも日本をさらに従属させ、財貨を収奪していこうとしている。
アメリカの危険で脆弱な正体が露呈していること、まさにそこにアメリカによって押しつけられた安保関連法案に対する違憲への怒り、対米自主の気運が盛り上がってきている背景があるのではないだろうか。
■尊憲で対米自主の闘いを!
アメリカの古い政治の枠から日本が脱することは、覇権と従属の古い日本から脱却するうえで決定的になる。
かつての侵略戦争を真に反省しえないのも、欧米にたいする従属を反省していないからだ。自国の自主独立を守ろうとしない者が、他国の主権を尊重しないというのはメダルの表裏の関係だ。欧米列強に屈服しながら自分より弱小国を侵略し略奪していくというのが、日本の在り方だった。したがって、アメリカにたいする従属の鎖を断ち切ることは、「脱亜入欧」の富国強兵路線を歩んだ近代日本の在り方、対米従属の戦後体制から根本的に転換していくことになる。
アメリカが憲法を蔑ろにし踏みにじって違憲の安保関連法案の成立を日本に強要している今日、対米自主の闘いの旗印は尊憲である。
元来、自国の憲法にもとづき政治をおこなうことが自主独立国家の在り方だ。憲法は国の根幹をなす最高法であり、日本は日本国憲法を憲法として尊重していってこそ主権国家としての自主的な政治をおこなうことができる。
しかし、戦後の日本政治は、アメリカにより一貫して安保が優先され、憲法が蔑ろにされてきた。今日に至って、日本国憲法を完全に否定し、安保関連法案を成立させようとしている。その背景には侵略と戦争の元凶、貧困と格差大国の正体を露呈したアメリカの「余裕」の喪失がある。
その中で、右から左まで皆がアメリカに対する幻想をなくし、アメリカによる主権の侵害に怒り、違憲に反対する闘いに立ち上がっている。
尊憲で対米自主の闘いを!闘いのスローガンはこれだ。
議論 「70年談話」で問われたこと
戦後70年を迎えての首相談話で問われていたこと、それは、あの戦争で日本が塗炭の苦しみ、甚大な被害を及ぼしたアジアの国々と人々にあらためて謝罪し、もう二度と同じ過ちを繰り返さない新たな誓いを立てることではなかったか。この日本人としての当然の責務が顧みられなかったどころか、逆に、これまで曲がりなりにも続けられてきた謝罪ですら、もうこれくらいでいいだろうとばかりに、その終了宣言がなされたのが、先の「安倍談話」だったと言うことができる。
誰の目にも明らかなように、「談話」の核心は謝罪に置かれていなかった。確かに、安倍首相が忌み嫌う4つの「キーワード」、「植民地支配」「侵略」「お詫び」「反省」という文言は「談話」の各所にちりばめられていた。しかしそれらは、引用、間接表現に終始し、安倍首相自身の主体的な言葉として語られることはなかった。「わが国は、先の戦争における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました」、等々、「談話」が安倍首相自身のお詫びになっていないと言われた所以である。
まわりから言われ、仕方なくしたお詫び。もうこれくらいでと言わんばかりの謝罪。「談話」はなぜかそういうものになってしまっていた。それは、安倍首相がこの謝罪を何か忌まわしい屈辱としてしか見ていない証拠だと思う。「談話」中の次の一節はそのことを端的に物語っていた。
「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そして次の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」。
もともと謝罪とは、自分の犯した過ちをその被害者の前、公の前で悔い、二度と繰り返さない決意を固め許しを請うものだ。こうした謝罪は、誤りを犯した者の当然の責務であって、許されるまで行わねばならないばかりか、たとえ相手に許されたとしても、自分としては、その思いを持ち続けて行かねばならないものだ。
ところが安倍首相は、この謝罪を行うことを「宿命」とまで言い、忌み嫌っている。それは、安倍首相があの戦争を過ちと思っていないからに他ならないと思う。彼にとって「大東亜戦争」は、欧米列強の抑圧から日本が抜け出るための自存自衛の戦争であったし、アジアを列強から解放するための聖戦ですらあった。そういう安倍首相にとって、侵略と戦争への謝罪を日本に求め続けるアジアの国と民族、人民の要求はまったくの理不尽に尽きるのではないだろうか。
その安倍首相に言わねばならないのは、「貴方の考えは転倒している」ということだ。今、われわれ日本人に問われているのは、あの戦争の正当性への自認から出発し、理不尽な「謝罪の歴史」に終止符を打つことではない。逆に、戦後70年を経た今に至ってもまだ、謝罪が求められるほどに深い傷を負わせたアジアの国々、人々の気持ちを思い量り、この70年間、十分にそれに応えて来ることができなかった自らの至らなさを振り返って、日本人としての謝罪のあり方をあらためて考えてみることではないだろうか。
日本人としての謝罪のあり方が問われた戦後70年、安倍首相にはもう一つ、日本人の代表として求められていることがあった。それは他でもなく、日本国民の意思と要求を体現することだ。そのためには、もう二度と同じ過ちを犯してはならないという国民の反戦の意思、アジアとの友好を求める心をそっくりそのまま受け入れ、それに基づいて、日本人としての謝罪のあり方をさらに深めることだった。だがここでも、安倍首相には、それを妨げる安倍個人としての「思い」があり、それが先立てられてしまったのではないだろうか。
安倍首相に受け入れられ、自分の思いにもまして先立てられたのは、アジアの国と民族、人民の意思でも日本国民の意思でもなかった。覇権国家、米国の意思と要求だった。「談話」の核心が「(英米覇権の国際秩序に挑戦した)過去の否定」「(米国に従った)戦後への誇り」「(積極的平和主義など)さらなる国際貢献の決意」の「三位一体」に置かれたのはその現れだったと言える。
覇権時代の終焉がよりくっきりとその姿を現してきている今日、「談話」は道義的にも時代的にも二重の意味で誤っていた。受け入れられるべきは、米国ではなく、アジアの意思、日本国民の意思だったし、「談話」の核心はどこまでも謝罪に置かれるべきだった。そうしてこそ、「談話」は新しい歴史創造のための指針足り得たと思う。
投稿
この夏、ソウルの統一大会に出かけ、日本での朝鮮半島に関するシンポやイベントに参加した。しかし、現実の朝鮮半島はそこで語られた以上の、かつてない軍事的緊張と緩和、関係改善へと前進した。緊迫した朝鮮半島情勢を考えてみたい。
緊迫した情勢変化は地雷の爆発から始まった。8月4日非武装地帯で地雷に触れた韓国兵二人が負傷するという事件が起こった。韓国政府は10日、この事件を発表し、北の木箱地雷と発表した。筆者はこの報道を韓国で聞いた。兵士たちのインタビューが報じられ、野党幹部が負傷した兵士の見舞いに出かけた様子もテレビに出た。新聞などでは北が埋設したとすれば、韓国軍は何をしていたのだという批判記事が出た。地雷爆発から発表までには6日を要しているが、その理由は明確ではない。その後、韓国政府は北向けの宣伝放送を再開した。さらに、南北間の砲撃戦が起こったという。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)側は、地雷にも砲撃にも関与していないとし、緊急軍事会議を開いて「準戦時状態」を宣布、48時間以内に宣伝放送を中止しなければ軍事行動に出ると明らかにした。韓国側も警戒レベルを上げ、一触即発の局面を迎えた。韓国側の報道では、朝鮮の潜水艦が出港したもようだが捕捉できず、朝鮮軍が前線に移動していると報じられた。朝鮮はこうした軍事行動の一方で、高位級会談の開催を提案。朝鮮が軍事行動の期限とした時刻が迫るなか、急遽板門店での高位級会談がもたれることになった。マラソン協議の結果、軍事緊張は一転して関係改善に向かった。
朝鮮中央通信が報じた合意内容は次の通り。
「北南高位級緊急接触が2015年8月22日から24日まで板門店で行われた。接触には、北側から朝鮮人民軍の黄炳瑞総政治局長と朝鮮労働党の金養建書記、南側から青瓦台(大統領府)の金寛鎮国家安保室長と洪容杓統一部長官が参加した。双方は接触で、最近、北南間で高まった緊迫した軍事的緊張状態を解消し、北南関係を発展させるための問題を協議し、次のように合意した。
1.北と南は、北南関係を改善するための当局会談を平壌またはソウルで早期に開催し、今後各分野の対話と協議を行うことにした。
2.北側は、最近、軍事境界線非武装地帯(DMZ)の南側地域で発生した地雷爆発で南側軍人が負傷したことについて遺憾を表明した。
3.南側は、不正常な事態が生じない限り、軍事境界線一帯で全ての拡声器放送を8月25日正午から中断する。
4.北側は同時に、準戦時状態を解除することにした。
5.北と南は、今年の秋夕(チュソク、旧暦8月15日)を契機に離散家族・親戚の再会を行い、今後続けることにし、そのための赤十字実務接触を9月初旬に開くことにした。
6. 北と南は、多様な分野での民間交流を活性化することにした。」
■8・24南北合意の意味すること
朝鮮側の首席代表の黄炳瑞総政治局長は実質的に金正恩に次ぐナンバー2と言われる人物であり、金養建書記は対南工作の責任者である。したがって、南北首脳会談に次ぐ高位級会談だったことになる。「南北の2+2」といわれる所以である。また、朝鮮は昨年10月、仁川アジア・スポーツ大会閉幕式に高官を派遣したが、その中にこの二人も含まれていた。まず、8・24南北合意で留意すべきことは第二項の朝鮮側の「遺憾表明」である。遺憾表明とは「残念だ」と同義で、地雷敷設の非を認めて「謝罪」したわけではない。合意では取り上げられなかった「砲撃」についても同様のことがいえる。韓国の右派メディアは「北に譲歩し過ぎ」との論調だという。いずれも明確な動かぬ証拠を突きつけられなかったと思われる。さらに、第3項と第4項は今回の軍事的緊張を回避するものだが、第1項、第5項、第6項は今後の関係改善に関するものだ。協議が長時間に及んだことから、より包括的な合意を目指していると思われたが、期待以上だったと評価できる。南北の関係改善を妨げていたのは、2010年3月の天安艦沈没事件後に出された5・24措置である。韓国の艦艇が北の魚雷攻撃によって沈没したとして出されたもの。李明博時代に出されたこの措置には、▲済州海峡の全面不許可、▲南北交易の中断、▲韓国国民の訪朝不許可、▲対北心理戦再開、▲西海での米韓合同軍事訓練、▲大量殺傷武器拡散防止区に向けた海上遮断訓練、▲国連安保理レベルでの対北措置の推進などがある。開城公団以外の貿易と人的交流を遮断し、安保を強化したものだった。その結果、南北関係はほぼ遮断されてしまった。8・24南北合意は、こうした5・24措置の緩和を事実上意味しており、南北関係の新局面を切り開いたと評価できる。今年の秋夕は9月27日であり、この日に離散家族の再会事業が行われることが決まった。また、第6項の民間交流の促進は、524措置で禁止されていた韓国国民の訪北を認めることになり、文化・スポーツ交流、人道支援などが推進されることになる。8・24南北合意は、軍事的緊張を回避し、離散家族の再会事業など各分野の交流事業を促進し、今後対話と協議をするという。その先の関係改善は、当局会談によって決められる。当局会談とは政府間協議であり、そのレベルは南北首脳会談、首相会談、閣僚級会談が考えられるが、第1項の「各分野の対話と協議を行う」という表現から判断して閣僚級会談もしくはそれ以下の実務当局者会談が持たれることになるだろう。
■当局会談で話し合われること
次に、当局会談で話し合われることは何なのか。大統領直属の統一準備委員会は、半島縦断列車構想を掲げ、テスト運行を提起している。ソウルから平壌、さらに新義州、羅津へと繋ごうというものだ。新義州は遼寧省丹東へ、羅津は中国、ロシアに繋げようという構想だ。人道、環境、文化事業としては、@国軍捕虜、拉致被害者問題、A「民族語大辞典」の共同編集事業、B開城の文化財遺跡の共同発掘、C非武装地帯に「世界生態平和公園」の建設、Dシルム(朝鮮相撲)の有形・無形世界遺産への共同登録などがある。北側はこの間、二回の南北首脳会談による宣言の履行を要求してきた。とりわけ南北協力事業を具体的に推進しうるのは、廬武鉉・金正日間の10・4南北共同宣言。その合意には8項目の合意が盛られ、軍事的敵対関係の解消、停戦体制の克服、経済協力の推進、各分野の協力、人道主義協力事業の推進など広範囲で、具体的地域を挙げたものもある。したがって、当局会談の大枠は、軍事的対立関係の解消、経済協力、文化・スポーツ交流、人道主義的問題の四つほどに分けられると思われる。軍事会談では、北は米韓軍事訓練の中止はもとより、停戦体制を平和体制にすることを要求するだろうし、それは10・4南北共同宣言にも盛られていることである。南側が非武装地帯に「世界生態平和公園」を提案しているが、どういう軍事的環境を考えているか不明だ。
8・24南北合意で触れられなかったのは経済協力である。この問題では韓国政府の意向よりは米国の意志が反映されるだろう。524措置のなかに「南北交易の中断」があるからであろう。しかし、これなしには関係改善は進まない。一般的な交易の再開はもとより、南側からの経済特区への投資などが期待される。中断している金剛山観光、開城観光などの再開問題も取り上げられる可能性がある。文化・スポーツ交流では前進がありそうだが、南側がいう国軍捕虜、拉致問題は難航するだろう。また、韓国側の半島縦断列車構想については、10・4南北共同宣言の同様の合意があるので、推進される可能性がある。
■南北は前進できるのか
順調に8・24南北合意が推進されれば、前述のような大きな成果を生み出し、南北の関係改善に向かうことができる。しかし、8・24南北合意が無効になる事態も起こりうる。この間韓国側から報じられている北側の建党70年記念行事に合わせたロケットの打ち上げが実施されるかどうかだ。ロケット打ち上げは全ての国に認められた宇宙開発の権利だが、国連決議では大陸間弾道ミサイルとして制裁措置の対象としている。北側はロケット打ち上げに言及したことはなく、その真偽は不明だが、仮に打ち上げられれば824南北合意は白紙化する可能性もある。
次に懸念されるのは米国の意向。米国の対朝鮮政策は「戦略的忍耐」といわれ、人権問題などで圧迫しつつ、朝鮮とは交渉しない、相手にしない政策をとってきた。したがって、米国を差し置いて南北関係が改善されることは米国の政策基調と合致しない。こうした米国の意向を反映した韓国内の対北強硬派勢力の反発・妨害工作がありうる。朴槿恵政権は対中政策で中国寄りの姿勢を見せているが、対朝鮮政策でも自由度を確保しうるのか注目される。南北合意後に朝鮮への先制攻撃を想定した作戦計画5015が明らかになった。従来の作戦計画5027は朝鮮の侵攻を防御して反攻に転じるというものだったが、より侵略的なものである。
朴槿恵にしろ、金正恩にしろ、国内的には十分な成果を挙げているとはいえず、南北関係の改善はそれぞれの業績となり、権威を高めることになると思われる。それは双方の経済発展にも有益だろう。朴槿恵はかつて、南北改善で「一発当てよう」と経済界に呼びかけたことがあり、芳しくない財界が積極姿勢となる可能性もある。南北関係改善をよしとしないさまざまな勢力の妨害を克服し、824南北合意が次のステージに向かうことを切に望む。
(2015年9月)
時評
この記事を書いている時点では決まっていないが、国会議席数から見て、この号が発行される頃には可決されている可能性が強い。全国で大きく盛り上がったたたかいだが、「がんばったのにガッカリ」「どうしてこんなムチャが通るのかわからない」「必死に行動しても無駄だったのか」などという声が予想できる。
ここでガッカリするには及ばないし、無駄ではないと断言する。そしてこんなムチャが通るのは一昨年の総選挙で安倍たちを通してしまったからの一言に尽きる。
■反対運動はよく頑張った
労組が次々力を奪われ、市民運動の組織も高齢化・弱体化しており、大きな動員力を持つ組織がほとんどない中で、パソコン・スマホなどを使ったインターネットの宣伝(最近は拡散と言うらしい)による若者を中心とした参加形態(仮にSNS派と呼ぶ)はわれわれミドルズ・オールズには考えもつかないものだった。それはすでに前例があって脱原発の関電包囲行動には年配者がビラや電話連絡で数十人集まるのに対し、SNS派はスーっと数百人が集まっていたのだ。我々から見るとSNS派は顔も名前も知らない。国会前行動に5回行った経験だが、SNS派とオールド派が回数を重ねるごとにそれぞれ数を競い合って増やしていったのがわかる。30年前と比べると有利なのは内ゲバが絶滅しているので心おきなく、安心して増やせること。
オールズがかなりSNSを使おうと努力したことも大きい。そして団塊世代後期も年金世代に加入して、余暇を活動に使いやすくなったことだ。さらに客観要因として、多数に驕り高ぶり、極右のバックボーンで薄っぺらい思想(とも言えないしろもの)を振りかざし、スキャンダルまみれの武藤貴也に代表される腐敗堕落ぶりで結果として安倍の足を引っ張ったと言える。
国会周辺を埋め尽くした12万人、扇町公園を消防法違反状態にしてしまった2万5千人、全国50万人を越すであろう高まりは、国会採決の結果で色褪せることはない。
■光州民衆蜂起
韓国で35年前、軍事独裁政権に命がけの抗議行動で立ち上がった民衆のデモは、側近が独裁大統領を射殺する意外な、しかしある意味自然な結果をもたらした。民衆の蜂起はそのあと、後継軍人の暴虐に抗議して光州市を民衆が武装蜂起で掌握するところにまで高まった。そこでは千人以上(正確には不明)が戒厳軍に射殺される結末となったが、それも無駄ではなく、金大中・盧武鉉という民主勢力大統領を誕生させる原動力が「光州市で徹底的にたたかった」事により生み出されたのである。
つまり、国会での結果に一喜一憂せず、戦争阻止へたたかい抜くこと、来年以降の国政選挙で安倍勢力を激減させること、今年11月22日の大阪府知事・大阪市長選挙において「安倍・菅・橋下・松井・関西維新」ラインが推す人物を惨敗させるエネルギーに昇華すること、そして現実の派兵阻止戦略として自衛隊員への働きかけを強化することであろう。すでに自衛隊幹部、元自衛隊員が立ち上がっている。ファッショの嵐が吹き荒れる戦前の日本軍でも決死の決起を果たした軍人もたくさんいる。「聳ゆるマスト」、「兵士の友」で検索してみると出てくる。
■「たたかい済んで日が暮れて」
これからが大事だ。上のことをしっかり肝に命じ、「無駄だったんですかね」「どうしたらいいか」などと言う人を見たらキッパリ「それではダメだ」と言って、「たたかいのあとのたたかい」の意義を熱く語るあなたであってほしい。そういう自分でありたい。
時評
ひと際暑い夏に白熱する、国会前を始めとする全国の安倍降ろし反安保法案闘争。先日8・23はSEALDsの呼びかけで学生達6500人が表参道・原宿で、壮大な『戦争法案反対・安倍政治いらない』と、若者以外の世代も交えて反戦平和を強く訴える抗議デモを行った。『戦争いらない!集団的自衛権はいらない!民主主義って何だ?憲法守れ!命を守れ!』をスローガンに、車載スピーカーのラップ・サウンドをバックに歌い、そして思い思いのプラカードを掲げ、楽器を奏でて声を出して練り歩く彼らは、同じ国会議事堂門前に集結しても、50年前に結集した当時の学生・労働者達と違い、ナッパ服や作業着を着たり、タオルで顔を隠したりしない。それどころか、世界に最先端ファッションを発信する街だけに粋なお洒落着を纏って主張し、うつむいたりせずに前を見据えて堂々と進む。
SEALDs美女と呼ばれる女子大生は、TV局のインタビューにも堂々と応じ、この『戦争法案に反対する全国若者一斉行動(≒平成学生運動)』の意義を語っている。これが今の時代であり、実は学生運動ではなくて『若者達の政治行動』と言えるだろう。
親の目?気にしない。世間の目?気にしない。公安権力の監視?それが何だ。憲法九条を無視し、国民を戦争に引きずり込もうと企む憲法違反の政府の目を何で気にする必要があるの?親米政治の非合理に的を射た男子学生・女子学生の演説(リレーコールスピーチ)も実にサマになっている。ツイッターの書き込みには、新左翼の中核・核マルが資金提供か?!お前ら就職無理だぜ!等とやっかみや中傷もあるが、『就職には関係ないよ、みんな行っちゃえ〜、応援するからさ!』と前向きの記載が多い事に驚く。
今年始め、本誌で『今年からは新たな日米安保闘争の始まり』を予見したが、やや間接的ではあるものの僅か半年後にこんな姿で実現した事をとても嬉しく思う。但し、その先陣を形成するのが10代20代の若い青少年たちとは全く想像もつかない嬉しい誤算だった。こうなれば、私始めオジサン・オバサンが前面に出て御託を並べる出番などもはや無い?瀬戸内寂聴氏や村山元総理で充分だろう。そうかと言って、縁側で麦茶を飲んで引きこもっている場合でもなさそうだ。いや、むしろ壮年世代こそ、不憫にも若い子たちを巻き込んだこんな憲法冒涜政治を許した責任と、未来を負の遺産から正のそれに転換すべく主体的に行動すべきなのだろう。全ての世代の国民は、闘いを忘れていなかった。私達アジア新時代は明日にでも、SEALDsに賛同する戦う若者達を含む市民たちの輪に入ろう(美人学生の見学ではない)。微力ながらも、何らかの力添えにはなるだろう。
『米国議会で先に勝手に公約した結果ありきの対米公約を優先し、肝心の国会は消化試合のようにこなしているのが今の内閣。与野党議員は党議拘束を取っ払い、国民の代表者の1人と言う強い意識で審議に臨むべきです』…政治学で著名な姜尚中氏の主張は、良識ある国民なら誰しも感じるに違いない。この1日には自民党総務会で、安全保障関連法案への反対を訴えた全国一斉デモについて、民意を重く受け止めるべきだという意見が相次いだ。丹羽雄哉元厚相も12万人(主催者発表)が集まった国会周辺のデモを念頭に、「これまでデモにあまり関心のなかった人まで参加し、『戦争に巻き込まれる』という声を上げていた」と指摘し、より丁寧な説明の必要性を強調した。村上誠一郎元行政改革担当相も、デモは動員でなく自然発生的に大規模化したという見方を示し、「国民が自ら立ち上がりつつある。審議時間さえ積み重ねれば法案を成立させられるというなら、民主主義ではない」と述べた。公明党の堕落ぶりに愛想を尽かした創価学会も遂に反安倍行動を開始した。
アジアの歴史発展の合法則に抗う往生際の悪い安倍一派は、今すぐ潔く総辞職すべきだ!
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