研究誌 「アジア新時代と日本」

第108号 2012/6/5



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

主張 成長か緊縮か、ユーロ圏をめぐる攻防

議論の場

講演会 「アフガンの大地を語る」

国際短信




 

編集部より

小川淳


 野田内閣は内閣改造人事で民間人初の防衛大臣に森本敏元拓殖大学教授を指名した。これに驚いた方も多いのではないか。森本敏とはどういう人物なのか。
 「(中国に対し)日本としては自国の国益を守り、自国領域の防衛と海上輸送路の保護を確保するため防衛力と日米同盟を効果的に機能させて目的を遂行するべきである。そのためには、日米協力を深化させることは重要な手段である。日米防衛協力ガイドラインの見直しをすすめ、周辺事態法を改正して日本の対米協力分野を質量とも拡大することが求められる」とする。
 そのためには「イージス護衛艦・大型DDH・対潜戦無人ヘリ・原子力推進型潜水艦・第五世代戦闘機・無人偵察機・空中給油機の増加などを図ることが、防衛力整備の目標となるべきである。また、米軍グアム基地に自衛隊の派遣基地を建設し、そこからテニアン・パガンの訓練施設を活用することが望ましい。グアム基地を活用して、多国間訓練・演習や情報交換の基地に発展させることが必要である」という。
 また、武器輸出3原則については、「これはまだかなりの制約要因があり、自由に武器を輸出できるようにはなっていない。限られた範囲の中で兵器技術や製品に関する移転・輸出の機会を増やす努力を行うことは、日本の軍事技術向上のみならず、防衛産業の生産技術基盤や人材育成にとって不可欠の問題である」とする。
 民主党政権の誕生の意味したものとは、巨視的には戦後半世紀にわたって続いてきた自民党政治からの脱却であり、その中身の一つは、「対米従属政治からの脱却」であったはずだ。具体的には「東アジア共同体への参画」を通じた政治、経済、外交での対米従属からの転換であり、その延長には当然にも沖縄普天間基地の海外への移転なども含意したはずだった。戦後日本の自主的な発展を阻害してきた桎梏からの転換をそこに期待したからこそ、沖縄を含めた多くの国民がこの政権交代を支持したのだと思う。
 ところが実際はどうだったのか。鳩山、官、野田と政権の顔が変わる毎に、その「原点」は忘れ去られ、旧態依然とした対米従属の「度合い」が増してゆく。今回の森本防衛大臣の就任はその最たるもので、ついにここまで来たのかと思う。もはや自民党政治との区別は何もない。何のための「政権交代」であったのか。



主張

成長か緊縮か、ユーロ圏をめぐる攻防

編集部


 ユーロ危機の中、成長か緊縮かの攻防が激化しており、ユーロ共同債をめぐり熾烈な闘争が展開されている。先のギリシャ総選挙、フランス大統領選の争点は、まさにそこにあった。結果は周知の通りだ。緊縮には国民的な「NO」の判決が下された。既存政府と国民とのこの攻防がどういう意味を持っているか、日本とも深く関連するこの問題について考えてみたい。

■採択された「成長」
 この数年、ギリシャをはじめヨーロッパ各国で展開されてきた緊縮財政に反対する広範な国民的運動は、貧困層に犠牲を強いる、金持ち優遇財政反対の反格差運動として暴動化するに至り、ついに国政レベルで緊縮を否定し、成長を採択するところにまで発展した。
 フランス大統領選でオランド氏は、成長の優先を明言し、仏国民過半数の支持を獲得した。財政再建を先立て、緊縮財政で国民に犠牲を強いるのではなく、国民生活の向上第一に経済成長を優先させ、その結果として、税収増など財政の健全化も図るということだ。
 そこで問題にされるのは、それが実現可能かということだ。最大の問題は、「金融市場の逆襲」だ。すなわち、財政再建に熱心でない国の国債は金融市場で格下げされ、経済成長のための資金調達が困難になるという問題が突きつけられている。
 この現代資本主義世界の現実に対してオランド氏は、「『市場を人間より優先させる政治』に走るのは言葉の高貴な意味での政治とは呼びません」と述べながら、「金融市場の逆襲」を打ち破る対策として「ユーロ共同債」を提唱した。
 すでに以前からその是非が論議されてきたこの「ユーロ共同債」とは、ユーロ圏加盟国が連帯責任により国債を発行するもので、信用力が落ちた国も低い金利で金を借りられるというものだ。これについてはオランド氏以外にも、EUの行政機関である欧州委員会、さらに国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)もその導入を促している。

■緊縮、ユーロ共同債反対の裏にあるもの
 だが、このユーロ共同債に対し、ドイツなど信用力のある国からの強い反対がある。財政が健全な国も不健全な国も同コストで借金ができるとなると、放漫財政を助長し、健全な国までインフレになりかねないとの懸念からである。
 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁などは、「ユーロ共同債は、一種の財政統合が伴わなければ意味をなさない」と言っている。すなわち、ユーロ圏諸国の国家財政の一定の統合を実現し、「放漫財政」を許さない体制をつくらなければ、「共同債」などあり得ないということだ。ドイツ連銀総裁バイトマンの「高債務国の景気押し上げには歳出拡大ではなく構造改革が必要」「支出を抑制する手段なしにクレジットカードは渡せない」などといった発言も同様だ。結局、成長よりも緊縮、緊縮のための社会保障、公共事業の削減、増税など新自由主義税財政改革、そして、その断行のための主権制限、財政統合のグローバル改革だ。
 これが覇権の論理でなくて何であろう。ユーロ共同債で自国のインフレが懸念されるなら、さっさとユーロ圏から離脱してしまえばよいではないか。しかし、市場規模5億人というユーロ圏の最大の受益者、ドイツがそんなことをするはずがない。もし、ユーロという単一市場、単一通貨を失い、マルクに戻れば、マルク高などによりドイツが誇る輸出産業は甚大な打撃を受けるようになる。だから、ドイツは、あくまで緊縮を掲げ、ユーロ共同債に反対しながら、最終的には、主権制限とユーロ圏の政治的統合、そしてそこでの覇権を狙っているのだ。
 それに対し、最大の覇権国家、米国はどうか。そこで注目されるのは、そもそも今回のユーロ危機の発端となったギリシャ債務危機が、米国の格付け会社によるギリシャ国債の格下げに始まっているという事実だ。この「金融市場の逆襲」が米国金融独占の仕業であるのは推して知るべしだ。
 では、米国はこのユーロ危機、財政緊縮で何を狙っているのか。それは、米国による支配を嫌い、抗米60年の歴史を持つEU、ユーロ圏の崩壊と米国主導での主権否定のグローバル再統合ではないだろうか。緊縮はそのための手段だ。緊縮財政による経済破綻と政治混乱が狙われている。緊縮に反対する一方、EU、ユーロ圏からの脱退を叫ぶ右翼の行動は、その手の平に乗っている。

■ギリシャ、フランス国民の選択は衆愚なのか
 今、日本でもそうだが、増税など緊縮財政に反対すると、「ポピュリズム」(大衆迎合)のレッテルが貼られる。しかし、本当に緊縮、増税が正しい政治なのか。そんなことがあるはずがない。国民生活を圧迫し、消費を減退させ、経済を破壊して、財政再建もないではないか。
 もともと国民経済は国民生活のためにある。国民経済が発展すれば、国民生活もよくなる。逆に、国民生活をよくしない国民経済の発展などあり得ない。実際、国民生活が零落し、消費が落ち込めば、国民経済も衰退する。だから、一般的にこう言えると思う。国民が良いと言う経済が良い経済だ、と。
 税財政はそのためのものだ。税財政は国民経済を発展させ、国民生活をよくするためのものにならなければならない。国民生活と国民経済、両者は一体だ。国民生活を破壊する税財政は国民経済も破壊する。それが税財政自体の破綻を結果するのは言うまでもない。
 だから、成長優先を支持した、ギリシャやフランスの国民の選択は、決して「衆愚」ではない。それどころか、もっとも賢明な選択だ。そこにこそ国民生活にもっとも切実な利害関係を持つ国民大衆のみが知る真理がある。

■主権と地域共同体、そして国民経済構築の熱風
 だが、今回の選挙で問題がすべて解決したわけでないのは言うまでもない。問題解決の正しい出発点に着いたと言うのが妥当なところだ。
 問題は、成長をどう実現するかだ。ユーロ共同債にしても、放漫財政を助長し、インフレをもたらすというドイツなどの懸念を払拭する方策が見つかっているわけではない。下手をすれば、財政破綻を一層深刻化させるだけに終わってしまう可能性すら否定できない。そうなれば、ユーロ共同債もユーロ圏の存続自体を危うくするものになってしまう。
 今日、ヨーロッパだけでなく、世界各国の政権に問われているのは、「金融市場の逆襲」を恐れるのではなく、自国国民の要求に忠実に経済を運営していくことだ。国民生活を犠牲に、金融市場の要求に従って税財政を行っていては、国民経済は崩壊してしまう。世界的な経済のグローバル化、新自由主義化とそれにともなう国民生活の破壊、国民経済の格差と不均衡、自律的回復力の喪失と停滞は、今日、普遍的な現象になっている。
 国民の生活への要求に応え、経済成長を図る上で重要なのは、経済の単位を国民経済に置き、国民経済を中心に経済の発展を追求することだ。金融市場が要求する経済の単位は世界経済だ。年間数百兆ドルのマネーが国境を越え世界を駆けめぐっている。だが、考えても見よう。人々の生活単位はどこまでも国だ。その国民生活を基盤に経済があり、その国民経済に依拠して人々は生活している。だからこそ、国民生活をよくしようとしたら、国民経済をよくしなければならず、金融市場の要求に国民経済を従わせるわけにはいかない。どこまでも基本単位である国民経済を中心に国民生活の要求にそって経済を発展させていくこと、そこにこそ経済建設と運営の鉄則がある。
 そのために決定的なのは主権だ。ときの政権が金融市場、すなわち米国の顔を見て政治をするのか、国民の要求に忠実に政治をするのかだ。今、ヨーロッパの諸国は脱米自主の方向に進んでいる。今回のギリシャ、フランスの選挙はその現れだ。
 この対米従属からの脱却で重要なのがEU、ユーロ圏の存在だ。事実、オランド氏は「金融市場の逆襲」に備えてユーロ共同債を提唱した。
 これまでEUでは「主権制限」が言われた。しかし、現実は主権尊重のためにこそEU(地域共同体)があることを教えている。
 脱米自主の国民主権、それを尊重し擁護する地域共同体、この両者がそろい、その下で、国民経済構築の気運が高まり、それが広範な国民的運動に発展したとき、「成長」の実現と「ユーロ共同債」の運用は問題ない。主権尊重のASEAN(東南アジア諸国連合)の経済成長とアジア通貨基金とも言えるチェンマイ・イニシャティブの成功は、そのことを示唆していると思う。



 

議論の場

編集部


《消費税増税に関して》

@やるなら消費税解散、脱原発解散を
 自民党の谷垣総裁が、消費増税関連法案への対応について「衆院解散を確約しない限り、賛成する選択肢はかなり難しい」と述べた。すなわち、自民党として消費税増税に賛成するが、そのためには、解散を確約しろということだ。
 消費税増税は国民の大きな関心事だ。ここで解散を言うなら、その是非を国民に問う解散を言うのが筋ではないのか。
 それなのに、消費税増税をした上で、解散するというのでは、党利党略以外の何ものでもない。谷垣氏は、法案に反対する小沢一郎民主党元代表との決別も求めている。与党と最大野党がグルになって国民を除外して、こうした取引に余念がない日本の政治ムラとは一体何なのか。
 彼らには、国民というものが目になく、民意に耳を傾けようという姿勢がまったくない。
 かつて、菅前政権時に「脱原発解散」も言われたが沙汰やみになった。「次の総選挙では脱原発を焦点にする」と言っていた橋下大阪市長も再稼動容認に態度を変えた。
 「消費税増税」も「脱原発」も共に国民の大きな関心事だ。自分たちで勝手に決めるのではなく民意を問え。解散を言うなら、その是非を国民に問う、消費税解散、脱原発解散をやるのが筋だろう。

A財政再建と言いながら、なぜ「動的防衛協力」「TPP参加」なのか?
 野田政権は、庶民に犠牲を強いる消費税増税を財政再建のためだと言う。
 しかし、財政再建を言うなら、何故、これをやるのかと疑問に思うものがある。
 その一つは、米国のための軍事費支出での大盤振る舞いだ。野田首相は、4月、ワシントンでの日米首脳会談で、「動的防衛協力」を米国に約束し、普天間基地問題は棚上げにしたまま、北マリアナでの共同訓練など日米安保の更なる深化を決めてきた。この共同訓練場の建設費は日本が出し、グアム移転費用も日本が出すという。次期戦闘機のF35は、当初一機90億円であったはずが、米国の言い値で190億円で買うという。その他、「動的防衛協力」で、どれだけ膨大な国費を米国に貢ぐというのか。財政再建を言うなら、そうしたことをやめるのが先決ではないのか。
 もう一つ重大な問題がある。TPP参加問題だ。
 その日米首脳会議で米国は、TPP交渉に日本が参加する条件として、郵政、農業、自動車の3分野の開放を求めてきた。米国が求める「郵政」の開放とは、郵政の株を全面的に民間移行させ、郵政にある数百兆円のカネを米国にも使わせろということだ。しかし、郵政部門の「ゆう貯」「かんぽ」は、日本国債を200兆円分も買っている。米国の要求どおりに郵政を開放したら、どうなるのか。
 今、日本国債は97%を国内で所有している。だから、それなりに安定しており、外国投資家の食いものにされる事態も避けられている。にもかかわらず「郵政」を開放すれば、日本国債は外国投資家の投機の対象にされ、財政再建など消し飛んでしまう。
 野田首相が、財政再建のために消費税増税を言いながら「動的防衛協力」だの「TPP参加」だのと言うのは全く矛盾している。財政再建は、他の目的のための口実ではないのか。

《生活保護について》

@不正受給より政府の切捨て策こそが問題
 この間、お笑いタレントの河本準一さんの母親が生活保護を受けていたことをもって、生活保護のあり方について論争が起きている。
 自民党の片山さつき議員がこの問題を議会で取り上げ、「生活保護を受ける人の親族や資産に対する地方自治体の調査権限が弱く、執行体制を支える人員や予算も少ないので、これらを強化することが今回の問題の本質だ。『追及を弱めるな』という反響が多く来ており、自民党として、法改正や執行体制の強化に向けた提言を打ち出していきたい」と述べた。これを受けた形で小宮山洋子厚生労働相は、生活保護費の支給水準引き下げを検討する考えを表明し生活保護の受給開始後、親族が扶養できると判明した場合は積極的に返還を求める意向も示した。
 まさに劇場型政治だ。そのやり方に多くの批判が出ている。
 日本の生活保護利用率は1.6%に過ぎない(ドイツ9.7%,イギリス9.3%,フランス5.7%)。それさえも中々受理されず、北海道滝川市での二人の老姉妹の餓死、凍死という痛ましい事件さえ起きている。不正受給者は0・1〜0・4%程度にすぎないのに、劇場型に煽って間口を狭める制度改革がなされれば、餓死・孤立死・自殺が増えるのは目に見えている。
 福祉こと国政の根本であり、生活保護は国の義務ではないのか。マスコミ、政治家が一体になっての劇場政治。恥を知れと言いたい。
 こうした中で今、匿名氏が流したツイッター「不正受給してるやつが憎くなる僕は悪ですか?」ということをもってネット上で論議が起きている。しかし、不正受給者を憎むのは当たり前ではないか。だから「不正受給者を憎むのは悪ではない、善である」となり、それは、不正受給者を摘発しろ、受給資格を厳格にしろという上の風潮に繋がるものになりかねない。
 憎むべき悪は、国民に犠牲を強い、わずかな保護義務さえ果たそうとせず、国民を切り捨てようとする政府ではないのか。

A地域や住民のせいにするのか
 ある新聞に載っていた「地方の交通網―住民自らの手で再建を」という記事。
 それによると、…バス路線はこの5年に全国で1万キロ、鉄道は00年以降670キロが廃止された。地方路線が多い。それぞれ全体の2.5%ほどにあたる。バス会社の7割、鉄道会社の8割は赤字経営。…鉄道やバス会社に任せている限り、不採算路線が整理されるのを見ているしかない。地域の住民と行政が知恵やお金を出し合い、生活の足を確保する。そんな発想が必要な時代になってきている。たとえば、住民たちでNPOを作り、バスを自主運行する。道路運送法で認められたそんな方法がある… とある。
 「そんな発想が必要な時代」にしたのは「小さな政府」を標榜して自由主義改革を推進してきた歴代政府ではないのか。それで今や庶民の足まで自助努力なのか。それで一体、どれほどのことができると言うのか。「そんな方法がある」として紹介する例など例外中の例外ではないか。
 新聞が問題にすべきは、地域や住民に知恵を出せ、金を出せということではなく、地方の交通網を破壊したままで何の対策もとろうとしない政府のあり方であろう。

B「安保と経済の両立」ではない。経済で釣って基地を飲ませるということだ
 5月15日の「沖縄復帰40周年」に際し 読売新聞が「沖縄復帰40年 経済と安保を両立させたい」という記事を載せた。それによると、沖縄県民1人当たりの所得は全国平均の7割前後にとどまり、製造業は育たず、県内総生産に占める割合は40年前の11%から4%に低下したという。
 その原因は基地にある。全国の米軍基地の74%が集中する荷重な負担のせいで経済振興もままならないのだ。琉球新報の最新の世論調査によると、多くの県民が沖縄振興の重点として「米軍基地の整理縮小と跡地利用」を求めている。
 それにもかかわらず、「経済と安保」の両立とは一体何だ。基地負担してもらっている代わりにお金をあげますから我慢してくださいということなのか。
 記念式典に出席した野田首相は「アジア太平洋の玄関口として沖縄は新たな発展の可能性がある」と述べた。
 4月の訪米で、米軍のアジア太平洋重視戦略に従って「動的防衛協力」なるものを唱え、普天間基地移転を棚上げし、沖縄の基地機能強化を後押しておいて、何が「新たな発展の可能性がある」だ。
 「安保と経済」の両立などありえないし、それが問題なのではない。


 
講演会

「アフガンの大地を語る」

 


 アジアの中で実像が伝わってこない国の一つアフガニスタン。そこで30年以上に渡って医療や農業の支援活動を続けているNGOペシャワール会の現地代表で医師の中村哲さんが一時帰国し5月20日、大阪で講演された。アフガニスタンで今何が起きているのか。その講演(要旨)を紹介したい。

※       ※       ※

 今アフガニスタンが何で苦しんでいるのか。日本に入ってくる情報は戦争に関するものです。政治に関するものです。現地で生活する一般の人々が何を考えどうやっているのかということはなかなか伝わらない。戦争だのアメリカ軍撤退だの極端な話、私達にとってどうでもいいことでして、その日の糧を得るのに皆一所懸命だという現実を知っていただければと思う。
 アフガニスタンを最も特徴付けるのは白い山並みです。アフガニスタンの国土は日本の面積の1・6倍。そのほとんどがヒンズクシ山脈という大きな山で占められています。「アフガニスタンでは金はなくても生きていけるけれども雪が無くては生きていけない」という諺があります。ヒマラヤ山脈から続く高い山々の万年雪がアフガニスタンの生命線でもある。何万年もかけてできた氷河が少しづつ溶け出してきて、谷沿いを潤し、アフガニスタンを豊かな農業国に育んできた。あの乾燥した中央アジアにしてどうして2500万もの人口が養えるのかということです。この命の水源がこの白い山々の雪なのです。
 もう一つ日本人に分かりにくいことは、アフガニスタンの人口のほぼ100%がイスラム教徒だということです。このイスラム教がアフガニスタンで果たす役割は非常に大きいものがありまして、山が高い、谷も深い、いろんな民族が谷ごとに住んでいるのがアフガニスタンであり、昔から民族の十字路と呼ばれてきました。分かっているだけで25の民族が山間に住んでいる。独立性が非常に濃厚な地域が、全体として一つの花束のようにアフガニスタンというまとまりを作ってきた。侍と百姓が未分離である。こういったバラバラになりやすい国民を一つに束ねているのがイスラム教である。どんな地域に行ってもモスクがある。地域の事を決定する集まり場所でもある。
 私達の活動は、1984年、今から28年前、ペシャワールで始まりました。1984年はアフガン戦争の真っ只中でした。アフガン戦争というのは1978年の12月、当時世界最強の陸軍といわれたソ連軍の10万人が大挙してアフガニスタンに侵攻した。翌年のモスクワ・オリンピックはボイコットという大事件でした。この戦争が3年間続いてこの戦争で死亡した人は最低で200万人といわれています。アフガン国民の10人に一人が亡くなったことになる。600万人が難民になってイランやパキスタンに逃れている。我々も医療の立場でそこに巻き込まれていきました。難民キャンプでアフガン難民の治療をしていましたけれども焼け石に水でその地域の患者のために何かをするとすればそこに腰をすえてやるしかないという中で、私達は大きな方針転換をしました。当時のハンセン病患者、最も無視されていたのがアフガンの患者でした。アフガンの患者は大抵が山側の無医村地区の患者さんだった。ハンセン症の多いところは他の感染症も多い。マラリヤ、天狗熱、あらゆる感染症の巣窟である。同時に医療施設がない。これでは間尺に合わない。ハンセン病といって特別扱いする治療はかえって弊害がある。ゆくゆくはそういった貧しい地区に診療所を出してそこでハンセン病もいろんな感染症の一つとして特別扱いしないという方針で、付き合いを深めていきました。
 ソ連軍は撤退を開始し、難民の多くも帰ってきた。我々もその難民帰還と合わせるようにアフガニスタンの東部に限られますが、次々と診療所を開設していきました。1998年、先は長いということを考えて、ペシャワールに基地病院を建設した。ハンセン病の仕事というのは10年20年で終わるものではない。
 アフガニスタンという国は非常に気の毒な国で、2000年になって中央アジアに集中した旱魃がアフガニスタンを襲った。当時世界保健機関の発表によるとアフガニスタンの人口の半分、1200万人が被災した。その飢餓線上にあったのが300万人。しかし当時はタリバン政権という反欧米的な政権であったためにみなの関心が集まらなかった。ばたばたと死んでいく中で、国際支援団体もばたばたと帰っていく。周辺の村々では次々と村が消えていく。村が丸ごと消えていく。私達も診療所で診療を続けていましたが多かったのは子供の犠牲者でした。腸管感染症と言いますが、下痢、赤痢が非常に多かった。赤痢ぐらいで子供は死にませんけれども背景に栄養失調がある。旱魃があり食べ物が取れない。アフガニスタンは自給自足の国です。水がないという言う事は食べ物が採れないということです。それにきれいな水が飲めないので子供はきたない水を飲む。身体が衰弱しているので抵抗力が弱く死んでいく。
 私達は初めて医療の「無力さ」を知りました。数億円もの抗生物質を買っても、飢えと渇きは薬では治せない。まずは清潔な飲料水だということで村人を集めて井戸の再生を始めたのが2000年8月の事でした。現在まで1600箇所で水源を確保しています。
 2001年になってニューヨーク多発テロがあった。アフガニスタンのテロリストの巣窟を空爆すべきという議論が世界中に巻き起こった。当時のアフガン政権がテロリストを匿っているということが空爆の理由でした。しかし、現地にいたわれわれから見ますと、それどころではなかった。100万人が生きるか死ぬかというときに爆弾を撒けばどうなるのか。テロリストだけでなくほかの人も死んでしまう。アフガン社会というのは徹底した復讐社会ですからその子が大きくなると必ず再び反抗する。今アフガンで必要なことは爆弾の雨ではなくてパンと水であると思いまして、ペシャワール側から1800トンの小麦粉を運びました。空爆下の危険な状態の中で実行されたわけですが日本にはほとんど伝わっていない。
 まず食べることです。人間何が無くいてもまずは食べる事です。飢えている人に必要なことは食べ物です。それも自給自足の農村生活ですから食糧増産ということを掲げまして乾燥に強い作物を作付けしてきました。しかし乾燥に強い作付けと言っても多少の水はないと育たない。「カレール」と言って地下水を利用した用水路がありましたが、掘ってもすぐに涸れてしまう。地下水利用の限界を感じました。
 大河川沿いについては立派な取水路を作って用水路で潤す。中小河川についてはため池を作って潤す。これ以外に方法はない。まずは第一弾として用水路工事を始めたわけです。2003年に入って、25キロを超える水路建設を計画しました。ともかく7年かけて水路が貫通しましたが、これによって3000haの土地が潤いました。
 実際に工事を始めるにあたっては、地元の人々が自力でメンテナンスできるものをと考えました。機械の調達もままならない、重機一台探すのに一年以上かかるという状態の中で何ができるのか。そうするとやはり古い日本の治水技術、自分の故郷である九州を調べると、古い施設がたくさん残っている。
 その中で目を引いたのが筑後川の古い堰でした。これが良くできている。かつて重機もダンプもない時代にせいぜい牛か馬を使って一つ一つ石を運んで作った堰で、それが250年間まだ現役として活躍している。まずは地元住民の手で維持できるものをと考えると日本の古い治水技術に行き着いたわけです。自然に上手く適応した日本の伝統的な技術は、自然とは争わず自然の恵みを戴くというこの技術が大活躍しました。
 四角いかごの中に石をつめて塊を作りこれを蛇籠と言いますが、これを沈めていく。この後ろに柳を植えていく。そうすると柳の根っこがびっしりと石の間に張っていく。日本人の偉大な知恵だと思いました。
 家族と一緒にふるさとで暮らす。三度のご飯が食べられる。これ以上の望みを持つ人は少ない。それさえも叶えられないと言う状態の中で用水路の開通と言うのは地域の人々にとって大きな意味を持っている。人が戻ってくる村が復興する。しかし新しい場所では開墾が続いている。これらの用水路で潤う土地の総面積は14000ha。60万の農民達が生活できるようになる。
 28年間の活動を振り返ると、いろんな非難や賞賛がありましたけれども、何よりも嬉しかった事は、人間にとって最後に守るべきことは何か、何が重要なのかということを学んだということにあったのではないか。今後も私達ができることを引き続き頑張っていきたいと思っています。



 

国際短信

 


■新ロシア政府に対する中国の期待
 西側の一部は3月に行われたロシア大統領選挙でプーチン勝利にケチをつけるが、抗議デモにもかかわらず大多数のロシア人民は「ロシアにはプーチンが必要だ」と主張した。
 ロシアの隣邦であり包括的な戦略的同伴国である中国は新政府に大きな関心を寄せている。両国は上海協力機構の一員として互いに協力してきた。世界舞台で中国とロシアはシリア危機やイラン核問題で協力するなど国際問題で効果的な調停役を果たしてきた。
 より重要なのは、中国とロシアが国際共同体に対する一方的な支配を一切許さない多極化された世界を建設する共通の目的をもっていることだ。両国はまた、国際通貨体制を改革し世界経済管理を改善するために共同で努力している。
 国民の要求に応えて、国の経済を多角化し改革を推進するなど新政府がやらねばならない課題は数多い。しかし膨大な経済力と競争力のある技術をもっているロシアが新政府の下でその目標を達成する可能性は十分すぎるほどある。
 今は、ロシア人民が新政府の周りに団結すべきときだ。彼らに対する中国の期待は実に大きい。

(新華社)

■地位の低下を見せつけたG8首脳者会議
 米国キャンプデービッドでのG8首脳者会議は「富裕な諸国クラブ」の「貧しい」会合になった。会議は成果なく終わり、もはやG8グループが今日の政治経済的な難問題を解決するには荷が重すぎることを示した。
 ユーロ圏の経済危機は今回の最も重要な議論課題だったが二日間の会議で解決策は出ず、ただフランス、ドイツ、米国など諸国の意見相違が表面化しただけだった。イランなどに関する重要な安全問題でも、形式的な発言を繰りかえすだけで新しいものは何もなかった。
 米国大統領の休養地としてキャンプデービットは常に米国と諸国指導者の会談場になってきた。しかし、今回のように多くの国々の指導者が集まったのは珍しいことだ。分析家は、米国が外部と遮断されたこの場所を会談場にしたのは会議への期待感を薄めるための意図的なものだったと見ている。
 数十回にわたって世界経済及び政治分野で成果をあげてきた「富裕な諸国クラブ」の地位が低下している。今や新興勢力諸国が国際問題処理で重要な役割を果たしている。こうした中で世界管理の多極化を歓迎する声が高まっている。

(人民日報)

■アジア太平洋地域へ穀物輸出増大を図るロシア
 食糧安全問題はロシアが議長国となる今年のAPEC会議で最も重要な課題になる。ロシアは2020年までに穀物生産を2500万トンから4000万トンに増加できる能力をもっている。
 専門家の分析によるとアジア太平洋地域で穀物需要が急増している。経済発展するこの地域の人口は引き続き増加しているのに耕地は限られている。大都市集中と工業発展は農業用水を奪っており多くの国が水不足に悩んでいる。中間層の所得が増大するにつれ牛肉消費が増えており飼料の需要も増えている。
 ロシア農業はこの地域への食糧供給で決定的役割を果たすことができる。ロシアはAPEC議長国である間に食糧市場調節、農業生産物での詐欺行為対策、農業技術発展、食糧難諸国への食糧援助問題などを討議する。また外国投資家の投資についての案を提示する。
 ロシアがこの問題を解決する上で港での積み下ろしがネックになっている。現在、農業省では農業部門の下部構造を発展させ輸送を円満に保障するための綱領が準備されている。その綱領が実現すれば穀物の積み下ろし能力が40%上がる。この分野でも外国人投資家への門戸は開かれている。

(ロシアの声)


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