研究誌 「アジア新時代と日本」

第106号 2012/4/25



■ ■ 目 次 ■ ■

編集部より

主張 日朝関係、「脱覇権で見直し」を!

投稿 激変する朝鮮半島の軍事バランス 京都総合研究所 佐々木道博

「議論」の場 「覇権国家」は必要か、大阪市長橋下への評価

国際短信




編集部より

 

 いま、九州が元気だという。JR九州新幹線が開通して一年、九州新幹線への利用客は前年比40%の増加だ。九州各地をのんびりと走るローカル線の観光列車も人気が高い。  
  地域振興のあり方が大きく変わりつつあるようだ。一昔までは地域振興といえば雇用の場を作る工場の誘致や公共事業が基本だった。その為に高速道や地方空港を整備し、海を埋め立て、ダムを作り、四国には三本もの橋を架けた。そのいずれもが赤字を産み、地方財政を苦しめている。
 今や新鮮な魚介類の取れる海やダムのない清冽な川、のんびりと走るローカル線が多くの人を呼び込む。言い換えるなら、これまでは自然破壊を代償にすることで地域の活性化を計るやり方だったとするなら、地域や地方の歴史や文化、風土や自然の魅力を最大限に生かすことで地域を生き返らせる方向へと大きく変わってきた。それが全国へと広がっていくなら素晴らしい事だと思う。
 もう一つの変化は、地方が東京ではなくアジアへと目を向け始めたことだ。例えば、福岡市は東京へ900キロ、上海へも900キロとちょうど中間点にある。九州は、アジアの客を呼び込むことで地域の活性化に結びつけようとしている。この発想もまた面白い。 これまでは東京からの距離が近いかどうかが地方が繁栄するかどうかの最も重要な指標となってきた。今や、東京からの距離ではなく、アジアに近いかどうか、アジアの客を呼べるかどうかが活性化の鍵となっている。
 各地域が自分達の魅力を最大限活かしながら自分の知恵と力で未来を切り開いていく。何よりもそれまでは気づく事のなかった自分の住む町の魅力に気づき始めたことが大きい。そのような新しい時代へと地方は変わりつつあるのだ。
 ネット社会がそれを可能にしている。過疎化した田舎や農村の空き家に都市の生活に飽きた若者やIT企業がパソコンを片手に会社ごと移り住むとことも珍しくない。都市に大量の情報が集中し、地方には情報は少ないというような時代ではなくなっている。デジタル社会が進めば地方と都市の情報格差はほとんどなくなる。
 2012年度予算が成立した。大型の公共事業が相次いで復活している。「コンクリートから人へ」はどこへ行ったのか。

小川淳



主張

日朝関係、「脱覇権で見直し」を!

■孤立・圧殺から関与・協調へ

 オバマの米国は、いま対朝鮮政策の見直しを進めている。ブッシュの孤立・圧殺から関与・協調路線への転換がそれだ。
 昨年夏以降、続けられてきた朝米高官協議は、金正日総書記逝去で中断はあったものの、新年も継続、2月23、24日に合意が成った。ところが朝鮮の光明星三号人工衛星打ち上げ発表で、米国はこれを「弾道ミサイル発射実験」であり2月の朝米合意違反だとして「食糧支援はできない」と反発、しかしながらベルリンでの朝米非公式接触など対話姿勢を保っている。
 ブッシュ時代の米国なら、いち早く「制裁」となったはずだが、オバマの米国は朝鮮に「自粛」を求めるという慎重姿勢だ。あくまで関与・協調、そして対話基本の路線を維持している。

■オバマの見直しの中身

 イランのウラン濃縮活動をめぐる中近東の緊張を伝えるNHKのTV番組での駐イラン大使も勤めた孫崎亨氏の発言に、「いま世界が、カダフィのようになりたくないなら、朝鮮のようにやるべきだとなっている。これは制裁というやり方の誤りを示すものだ」とあった。
 この言葉は、オバマの見直しの中身を考える上で示唆的だ。「カダフィではなく朝鮮のように」の意味するところは何か?
 孤立・圧殺政策に耐えきれずカダフィは「大量破壊兵器開発」を放棄、米国に膝を屈して制裁解除、経済的支援を乞うたあげくが政権崩壊となった。一方、先軍で米国に抵抗した朝鮮は核保有国になって健在だ、だからカダフィ方式より朝鮮方式がよいと多くの国が思うようになったと孫崎氏は見る。ここから導かれるのは、下手すると世界がこうなるから、制裁一辺倒よりも対話基本の関与・協調路線を追求すべきだという結論だ。
 「米国の凋落」が言われて久しいが、イラク、アフガン戦争でさえ米国は軍事的に勝てなかった、いや敗北に等しい撤収を強いられている。これで朝鮮やイランのように米国を恐れない軍事力を持つ国が増えれば、米国の世界支配は徹底的に崩壊する。これがオバマの見直しの理由だ。
  オバマの見直しは、米国覇権のための見直し以外の何ものでもない。対朝鮮で言えば、覇権の障害物である先軍政治を対話で放棄させる見直しだ。
 オバマの次の発言は、その本音を語るものだ。「人工衛星一つ打ち上げる金で、朝鮮の国民のトウモロコシ一年分が買える」としながら、人工衛星はやめて食糧問題解決を優先すべきだと朝鮮に呼びかけた。「人工衛星打ち上げをやめれば、国際社会からより多くの経済支援を受けられる」との李明博大統領の発言もこれを補足するものだ。
 先軍をやめさせ米覇権回復を基本目的とした見直しだ。

■日朝論議に見える覇権の影

 ある雑誌に、「ピョンヤンの抱える本質的ジレンマ」というテーマの「朝鮮問題専門家」対談があった。
 米日との関係改善を求めて、先軍政治をやったはずなのに、先軍政治が外交の方法論(「瀬戸際外交」を指す)から国の制度として自己目的化され本末転倒してしまった。言い換えれば、米日の経済支援を得るための外交手段として核やミサイルで脅すという先軍であったはずが、先軍政治が制度化され手段が目的になった。これが「ピョンヤンの抱える本質的ジレンマ」だという議論だ。
 早い話が先軍政治をやめないと米日の経済支援を受けられず、経済強国建設は無理ですよというお説教である。
 同種の日朝論議として、日朝正常化を通じて「朝鮮を国際社会に引き入れる」だとか、「日本の戦後賠償金など経済的見返りと引き替えに核やミサイルなどを放棄させる」などというものがある。
 これらの論議の底には覇権の思考方式がある。共通するのは、「朝鮮の変化」を促すという上からの目線であり、朝鮮の経済的繁栄が日本や国際社会の支援によってのみ可能だとする当事者無視の覇権的態度だ。
 わが国は戦後も覇権超大国、米国の「威」を借りて世界で覇を競うという生き方、「戦後復興、繁栄」を体験してきた。米国など大国の覇権秩序に従って生きるのが国の生存方式だという、「脱亜入欧」以降の覇権世界を前提として考える思考方式が知らず知らずのうちに常識化されてしまった。
 日朝友好、国交正常化論議もこうした覇権的思考に陥っていないか自省の必要があると思う。

■帝国主義の時代、覇権の時代は終わった

 話は横道にそれるが、「ときは帝国主義の時代であった」で始まるNHKの三年越しの長編ドラマ「坂の上の雲」は何を言いたいのかわからないまま終わった。原作からすれば、「東洋の小さな国」が「欧州の大国ロシア」に覇権を挑んだ日露戦争、明治人の気骨、勇姿を描くはずだと思った。主人公は、日本海海戦の「英雄」秋山参謀だが、多くの悲惨な死を見た悪夢に悩まされる「一個の人間」でしかない。「明治人」の見た「坂の上の雲」が良かったのか? 悪かったのか? このドラマの迷走は、二一世紀のいまが「ときは帝国主義の時代ではない」がゆえの迷走ではないかと思った。
 朝米合意をめぐる朝鮮と米国のミスマッチからもそのことがうかがえる。
 三月の朝米合意を米国は「食糧支援」と引き替えに朝鮮が「ウラン濃縮活動の一時停止」を受け入れたと宣伝している。米国が核開発停止の見返りに経済的利益を与えたということだ。
 他方、朝鮮側は、「朝鮮戦争の停戦協定を恒久的な平和協定に変える。それまでは停戦協定が朝鮮半島の平和と安定の礎石であるということを認めた」ことを朝米合意の前面に打ち出している。停戦協定で言えば、協定締結の三ヶ月後までに外国軍の撤収が決められており、北の朝鮮からは中国人民解放軍は撤収して久しいが、南半分、韓国では米軍駐留はいまなお続く。この停戦協定違反を無視しつづけてきた米国が、今回、「停戦協定が朝鮮半島の平和と安定の礎石」という文言に合意したのだ。このことは朝鮮半島からの米軍撤収、米軍基地撤去が日程に上る、少なくとも朝鮮側から迫られる根拠を与えた、このような合意を米国はさせられたのだと言える。
 この意味は、朝鮮半島で帝国主義、覇権の時代を終わらせるという合意を米国がさせられたということではないだろうか。
 朝鮮の人工衛星発射通告を受け、オバマはソウルでの核安保サミットを「北朝鮮の弾道ミサイル打ち上げ」非難の場に利用しようとした。中国、ロシアも「懸念」「遺憾」を表明したと日本のマスコミは伝えている。
 他方、同じ時期に開かれたBRICS会議(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)では、米国主導のIMF(国際通貨基金)に代わる新たな国際通貨体制創設が討議されたが、「北朝鮮の弾道ミサイル問題」は議題にさえ上らなかった。  平和的な人工衛星打ち上げは宇宙法(宇宙条約)で定められた各国の自主的権利に属する問題だから、各国自主権を尊重するこの会議の性格に合わないのだ。
 「ときは帝国主義の時代ではない」のだ。

■日朝関係、「脱覇権で見直し」の意味

 日本には「脱覇権で見直し」の日朝論議もある。
 福島原発事故後、一躍脚光を浴びた小出裕章・京大助教は「私は、原爆は悪いと思う。どこの国も持つべきでないと思う。朝鮮だってやらないに越したことはない」とされながら、「米国は核兵器、・・・・ありとあらゆる兵器を保有し、自らの気に入らなければ、国連を無視してでも他国の政権転覆に乗り出す国である。そうした国を相手に戦争状態にある国が朝鮮であり、武力を放棄できないことなど当然であるし、核を放棄するなどと表明できないことも当然である」と反覇権の視点から当事者の立場、先軍を選択した朝鮮を理解し尊重する姿勢を示されている。
 NPO法人ピースデポ特別顧問・梅林宏道氏は日本が「朝鮮戦争の停戦から講話への環境整備構築に大胆に貢献すべき」方策の一つとして、「日本と韓国が米国の核抑止力依存を廃止すること」、まず自分から動くべきことを提起されている(「世界」3月号)。まず覇権国家日本から「脱覇権」に動くことによって「北東アジア非核兵器地帯構想」を日朝双方で実現していこうという主体的な提言だ。これは一歩進んで「米国の核抑止力への依存廃止」=「脱覇権で日本見直し」の勧めだ。
 脱覇権の日本をめざすことと一体の日朝関係、「脱覇権で見直し」が論議されるべきだと思う。

編集部




投稿

激変する朝鮮半島の軍事バランス
                       京都総合研究所 佐々木道博  

 前回の論考では、田中宇氏の朝鮮従属国化論を批判したが、本論考では特に軍事問題にテーマを絞って論をすすめてみる。
 さて、昨年12月19日、金正日総書記死去のニュースが世界に流れた。
 アメリカタイム誌によるとこのニュースが流れた日より後の10日間で、金正日氏、 そして後継者の金正恩氏のグーグル検索件数が英語圏だけで6720万件あり指導者交代の案件では、過去最大であったと伝えた。
 英語圏以外の中国語、ロシア語、スペイン語、韓国語、日本語など他を含めると数億件にのぼったことであろう。
 又、世界のテレビ、新聞なども死後2〜3週間トップ項目を続けた。
 アメリカや中国の指導者が急死しても1週間がせいぜいであろう。なぜ、これ程までに世界に注目を浴びるのかよく考えてみる必要がありそうであるが、この事については、後で論述することにして論を進めたい。 前回の論考では93年以来、朝鮮とアメリカは核とミサイル問題で対立し続けてきたことを述べた。
 そして2006年ミサイル実験と核実験の成功によってこの対立局面が大きく変わったことを明らかにした。
 そして、2009年4月人工衛星光明星2号の打ち上げ、5月核実験、又南北の間では、李明博政権の極度の反北政策による度重なる米韓軍事演習の実施とそれに関連し、天安艦沈没事件、延坪島砲撃事件が発生し緊張が続いたのである。 こうした中で、昨年6月米中央情報局CIAで核兵器の専門家として勤めたピーターフライ博士が、アメリカの声VOA放送とのインタビューで、朝鮮が持っているEMP爆弾に関して衝撃的な発言をした。
 その内容を紹介すると、朝鮮が実施した2回の核実験は小型核のEMP爆弾実験であり、そしてアメリカには、それを防ぐ手段もないばかりか、報復も不可能だというのである。このEMP爆弾は、米ソが競って研究してきたもので、電磁波パルス爆弾であり、上空300〜400キロで爆発させれば、人体は殺傷せずあらゆる電気は停電し、電子機器も破壊、勿論GPSも破壊され、すべての経済、産業、農業も電気のなかった100年前に戻るということである。
 この発言にアメリカ、韓国は大きな衝撃を受けた。 核実験当初あまりに小さな爆発力で、これは失敗ではないのかという評価もあったが、実ははるかに高度なEMP爆弾だったという結論なのだ。この件に関してアメリカや韓国で様々なシュミレーションがなされているが、このEMP爆弾の攻撃を受けると、アメリカ全土のインフラが完全麻痺し、復旧に2兆ドル、3〜10年の年月を要し、穀物の収穫、運搬をすべて機械に頼る農業は壊滅し1年以内に国民の大半が餓死するということである。日本の場合、名古屋上空で爆発があれば、すべてのインフラ、交通機関、電子機器などが壊滅し、やはり復旧に3〜10年かかるということである。攻撃から爆発まで4分で終わり、世界最短の戦争になるとまで予想されている。
 この情報は、日本では昨年6月25日、産経で報じられたがその後話題にもなっていない。防衛省も外務省も知らないふりをしている。
 国民には、こうした事は知らせないのが、日本の統治方法だと考えているのであろう。今回の人工衛星問題でもこのロケットの残骸が領土内に落ちたら迎撃すると防衛省は破壊命令を出したが、PAC3の迎撃高度は、20〜30キロであり、前回のロケットでは、6分間で高度265キロまで行っていたことが北大の日置教授によって明らかにされている。防衛省は、竹竿で星を落とすようなことを平気で言っているのである。特に残骸物は軌道計算もできず、迎撃ミサイルを撃つことさえ不可能で、何の役にも立たない代物である。イラク戦争の時、20数発のスカッドミサイルに対して1発も命中しなかったのがこのPAC3である。
 こうしたイージス艦を含めたミサイル防衛システムに、政府は1兆円以上も費用を掛けているのである。まさに、防衛省のやっていることは児戯にも劣る愚かな暴挙なのである。 さて、朝鮮の兵器開発は、このEMP爆弾にとどまらず、米韓の国防部をしてなす術もないと言わしめた、レーダー破壊、GPS 破壊の地上における新兵器である。記憶に新しいところでは2010年11月の延坪島事件である。
 韓国国防省が誇るK−9自走砲6基のうち3基が作動せず、あとの3基もレーダーが破壊されどこに打ったか分からないという有様だった。
 この惨敗に韓国空軍がスクランブルを掛けようとしたが、全面戦争を恐れた米軍司令部に止められたというのは、韓国人なら多くの人が知っていることである。ここでも使用されたのが、核を使わない地上型レーダー・GPS破壊兵器だったそうである。2011年3月、米韓軍事演習中に西海岸、仁川国際空港周辺のGPSが使用不能になり一時空港閉鎖に追い込まれた事も記憶に新しい。
 韓国や米軍では、今まで周辺100mの極限られた範囲しか電波妨害できなかったが、朝鮮人民軍は、それを一気に100kmにまで拡大させたとの事である。本年2月以来この核と地上の2つのEMP弾が韓国のマスコミを騒然とさせたが、更に2月22日の韓国中央日報が、射程200kmの多連装砲を朝鮮人民軍が開発配備を始めたと報じた。ソウルにあった米軍司令部は、従来の北側の1万2000砲にも及ぶ多連装砲の射程内を逃れるため、南方の平沢に移転を決め、その移転最終段階に来ていた矢先にこの報道がなされた。
 射程200kmになると、この平沢も完全に射程内に入り、米軍司令部、のみならず韓国陸海空軍総司令部もここ平沢にあり、戦争が始まり砲撃が開始されれば1時間以内にすべて壊滅すると新聞では予想されている。
 この1年、朝鮮人民軍の新兵器が確認され米韓合同軍は対応に窮している。今、考えるにあの2年前の天安艦事件も、北側の潜水艦による魚雷攻撃だと韓国政府は発表したが、魚雷の爆発による水柱を目撃した人もなく、韓国人の大半が政府発表を信じていなかったが、もしかするとこの新型兵器のレーダー・GPS撹乱により米原潜と韓国哨戒艇天安艦が迷走のうえの、自爆衝突だったと考えるのが一番自然なのではないかと想像するのは私一人ではないだろう。こうした朝鮮半島の軍事バランスが総崩れの中で、今回の人工衛星打ち上げが予告されたのである。
 報道によるとアメリカは、既に昨年12月15日にこの件を通告されており、米朝合意に人工衛星禁止も明記できず、いまさらミサイルだからけしからんなどと主張し、大統領選を控えてのパフォーマンスをしているが、いずれ朝鮮側との対話に戻らざるを得ないだろう。
 もう既に主導権は、完全に朝鮮側が握っている状態である。又、韓国国防部広報官が、4月2日北側のロケットは、米本土に到達可能である。長距離弾道弾ICBMの能力がある、との発表をした。私は既にこの論考で、北大の日置教授の論文やその他の状況から朝鮮のロケットは、優に米本土に届く威力があると述べてきた。今アメリカは韓国の口を借りて、初めてそれを認めている。
 米軍は、既に巡航ミサイルトマホークの退役も決定し、GPSに頼るすべての兵器は、これからほとんど役に立たなくなってきている。役に立たないものばかりアメリカは日本に大量に売りつけている。情けない限りである。 さて、このように激変する朝鮮半島と世界の軍事バランスの変化は、朝鮮民主主義人民共和国の前指導者金正日総書記の指導による先軍政治によってもたらされたものであり、この10数年、アメリカはこうした動きに振り回され続けた。
 そして今日軍事バランスの均衡から逆転への状況が現出したのである。さて、この論考の最初に書いた金正日総書記の死去と次期指導者金正恩氏の交代にテレビ、新聞、インターネットなどの関心が、なぜ過去最高を記録したのかである。結論から言うと、リーマン以降、世界の資本主義の危機を背景に米欧、中東、アジアとデモや政府打倒の反乱が頻発し、世界が非常に不安定化している。
 そうした世界で、旧勢力代表のアメリカと、国の自立や民族の独立を志向する勢力の代表が朝鮮であり、米朝の力比べを世界が固唾をのんで注視しているということなのである。悲しいかな日本では、朝鮮報道といえば拉致、食糧難、脱北、などの報道ばかりが10年続いてきたが、既に世界は大きく変わりつつあり、今回の人工衛星問題に関して日本のマスコミも次第に立場を変えつつあり、ネットでは、更に真実に迫ろうという努力も拡大している。
 いずれにしても、この朝鮮という隣国に対し最も強行に対立しているのが日本である。アメリカの使いふるしの武器を高い金で押し付けられ、又それを自慢したくて沖縄にまでPAC3を運び火遊びをしようとしているわが日本政府には、世界の現実を直視し態度を改め、朝鮮側との真摯な対話を望むばかりである。




議論(1)

議論の場

(前号で取り上げた「覇権国家がなくなれば世界は無秩序になり、混乱するだけではないのか? 」という質問に答えます)
世界は新たな秩序と安定を求めて動いている。日本も古い考え方を見直し、その流れに飛び込め

■覇権国家による安定は必要なのか

 永沼さんが引用しているブレジンスキーの見解は、「覇権国家が秩序と安定をもたらす」という「覇権安定」という考え方に基づいています。すなわち、国際舞台では、覇権抗争が展開されており、その勝者が覇権国家として上に君臨し統制することによって秩序と安定がもたらされるというものです。
 この考え方は、16、17世紀以来、戦乱と抗争に明け暮れた欧州で芽生え、覇権国家になった英国や米国が自らの行動をもっともらしく正当化するために使うようになった政治用語にすぎません。
 考えても見てください、「覇権安定」などと言いながら、どういうことが行われてきたのか。それは覇権国家が各国の上に君臨し他国を押さえつけて自国の利益を最大限追求するものでした。
 パクス・ロマーナとかパクス・ブリタニカとは、ローマ帝国やイギリス帝国が他国を属州化し植民地化し収奪したということではないですか。
 そして、そこでは、ブレジンスキー自身が言っているように、「残忍性と暴力で特徴づけられる20世紀のヨーロッパのような」覇権抗争が伴うのであり、それが果てしなく繰り返されると言うのです。  ブレジンスキーが言うように、凋落した米国を支えて、「覇権安定」を再興することなど全く不要なことです。たとえ、それが再興されたとしても、長続きするはずがありません。
 とくに多くの国々が目覚めて覇権国家の横暴を許さなくなっている今日、その命運はいくらにもなりません。
 米一極支配による「安定」は、わずか20年にもなりませんでした。

■新しい脱覇権自主の動き

 ブレジンスキーは、米国の凋落を尻目にロシアや中国が覇権を狙っているとしながら、そうなれば米国覇権よりもひどいものになるかのように言います。しかし、「覇権安定」の幻想が崩れた今、たとえ、ロシア、中国がそれをやろうとしても、それを認める国などないでしょう。誰も認めなければ覇権は成り立ちません。
 米国による「覇権安定」の崩壊を機に、世界では、覇権自体を否定する全く新しい時代的な動きが始まっています。アジア、アフリカ、ラテンアメリカで進む地域共同体の動きです。
 この地域共同体創設の特徴は、主権尊重のための地域共同体だということです。とくに、この理念を明確にしているのは、ASEAN諸国が主体になって進めている東アジア共同体構想です。彼らはこの構想への参加資格としてTAC(東アジア友好協力条約)への締結を各国に求めています。
 TACは1956年にインドネシアのバンドンで行われたアジア・アフリカ会議で採択されたバンドン宣言を踏襲したもの。それは、かつて植民地、半植民地にされた国々が、その血の教訓から、主権尊重を原則として、その下で協力して平和と繁栄を追求していこうというものでした。
 実に、東アジア共同体構想は、覇権に反対し脱覇権自主の道を進むものとしてあり、他の地域共同体も同様の立場であり、彼らは互いに連携を強化しています。
 主権を尊重した各国の団結と協力、これこそが最も強固な秩序と安定を生みます。
 主権を尊重すれば侵略はなくなり、各国の生き方を尊重し武力で脅したり内政干渉がましいこともできません。そして協力も心からのものとなります。
 こうなれば、各国は国際社会の主人として、この秩序と安定を自覚的に守っていくようになり、その秩序と安定は強固なものになります。
 今や数世紀にわたって国際政治の常識とされてきた覇権の考え方を見直すべき時代なのだと思います。覇権時代に代わる新しい脱覇権自主の時代が幕を開けてきている今日、日本もこれまでの古い考え方に縛られるのではなく、これまでの生き方を見直し、新たな流れに勇気をもって飛び込むことが必要なのではないでしょうか。
 永沼さんのような青年たちが、そうした道に果敢に挑戦して進まれることを期待してやみません。

(編集部 文責・魚本)



議論(2)

橋下徹の「全ては憲法9条が原因」発言を叩く  身勝手を言うなら米国の身勝手を言え!

 2月24日に、橋下大阪市長がツイッターで「がれき処理になったら一斉に拒絶。すべては憲法9条が原因」という発言が大きな波紋を呼んだ。
 その部分は、憲法9条を改憲すべきだという氏の持論を展開した後に続けて、「世界では自らの命を落としてでも難題に立ち向かわなければならない事態が多数ある。しかし、日本では、震災直後にあれだけ『頑張ろう日本』『頑張ろう東北』『絆』と叫ばれていたのに、がれき処理になったら一斉に拒絶。全ては憲法9条が原因だと思っています」となっている。
 ガレキ処理「拒否」のどこが身勝手なのか。
 各県の首長が、ガレキ処理の受け入れに躊躇するのは、福島第一原発の事故で放射性物質が周辺に飛び散りガレキも汚染されている可能性があるのであり、県民の安全を考えれば、不用意に受け入れるわけにはいかないからだ。
 それを身勝手などと中傷するのなら、大阪市が受け入れを表明してみるがよい。そんなことができるのか。
 日本が海外派兵しないのは身勝手だというのが、橋下氏が言いたいことだ。そしてその原因が憲法9条にあるから「9条は身勝手」と言うのだ。
 これは、91年の湾岸戦争の時に、自衛隊を派遣しなかったとして、汗をかかない血を流さない日本は身勝手だという論の焼き直しだ。
 しかし、身勝手だったのは米国ではないか。自分の利益のためにやっているくせに、それがあたかも国際社会の利益を守るためであり、国際社会の意思であるかのように、国連などを利用してお膳立てし、他国を引き込み、応じなければ国際社会の要求に応じない身勝手な国だと非難する、そんな身勝手がどこにあるのか。
 米国のための派兵に応じなかったからといって日本は国際社会のために血を流そうとしない身勝な国などと言われる筋合いはない。しかも、日本はそのとき、130億ドルものカネを米国に巻き上げられたのだ。  大体、憲法9条のどこが身勝手と言うのか。
 9条は、アジアを侵略し甚大な被害を与え自らも多大の犠牲を払った日本がもう二度とその道は進まないという誓いの反映だ。  それ故9条は、国際紛争解決の手段としての戦争については自ら放棄し、そのための戦力は保持しないと明記する。それは、どんなことがあっても日本は海外に軍隊を出さない、覇権の道は進まないという決心の表明である。
 万が一、侵略を受けても、日本国内で撃退戦を展開して、ひたすら国内での防衛に徹する、その悲痛なまでの覚悟を示した9条の一体どこが身勝手と言うのか。 身勝手というなら米国の身勝手を問題にしろ。
 橋下氏は、TPPを支持するが、米国は、その交渉で、米国は、自国の関税障壁は維持しながら他国の関税障壁、非関税障壁だけをなくそうとしている。そればかりではない、米国は自分の基準を他国に押し付け、米国企業に障害になるものを提訴して無くすことができるというSDI条項も押し付けようとしている。そんな身勝手がどこにあるのか。 橋下氏は、何故こうした米国の身勝手さを言わないのか。米国については何も言わずに、9条が身勝手だと言う橋下徹とは一体何者なのだ。

(編集部 魚本)



国際短信

■アジアとの関係強化に力を入れるロシア

 この3月、ロシア首相プーチンが「ロシアと変化する世界」という文章を発表。中国との経済関係強化を主張し、両国は今後も国連、BRICS、上海協力機構で互いに支持し合うであろうと述べた。プーチンは5月に正式にロシア大統領になるので、これは新政府の新しい対アジア政策を示す るものになる。
 昨年、中ロは善隣及び親善協力関する条約締結100周年を祝った。両国間には高位級人物の交流が行われ協力関係は緊密化した。貿易額は800億$に達し、ロシアのガスを中国へ送る送油ルートも完成した。
 ロシアは、ASEAN諸国との自由貿易協定を計画している。今ベトナムと交渉中だ。これが成功すれば全ASEANに拡大するとロシア外相は述べている。世界の領土と人口の半分を占め豊富な資源をもつアジア太平洋地域と経済関係を強化し、エネルギー分野での投資を呼び込んでシベリア開発を進めようというのがロシアの意図だ。 膨大なガス資源をもつロシアにとって、この地域は有望な市場だ。それ故、ロシアは、これら諸国とのエネルギー協力を深化させており、ガス送油管建設とガス液化工場建設に力をいれている。 ロシアのこうした姿勢は、地域の団結と協力で繁栄と進歩をなしとげようとするものである。

(人民日報)

■米日間の「ビンのふた」を巡る争い

 日本を武装させアジア太平洋地域で反帝自主的な国々と大国を圧殺、牽制していこうとするのが米国の新しい軍事戦略の基本構想の一つである。これは必然的に日本の軍事大国化を後押しする。日本は最近、8隻の潜水艦を追加し2隻の空母を建造すると発表した。
 この動きは、米国がこれまで日米安保は日本の軍事大国化を防止する「ビンのふた」だと説明してきた論理をひっくり返すものになる。
 ビンのふた論が出たのは冷戦終焉後だった。当事、沖縄駐屯米軍司令官は「今は日本の軍事大国化を防止すべきときだ。そのためには米国がビンのふたの役割をしなければならない」と述べた。
 冷戦時に日本の軍国化を要求していた米国が、それが終了するや抑制に動いた理由は、日本の「米国離れ」を警戒したからだ。当時「ノートと言える日本」という本も出た。こうした状況が米国の神経を逆なでした。
 しかし、「ビンのふた」を巡る両国の葛藤は本物ではない。日本は米国を背に負ぶってしか海外膨張野望を実現できないことを知っており、米国の要求を無条件聞くしかない。日本は米国の支援の下で武力を強化しながら海外侵略のための軍事力強化に莫大な資金と技術を注いできた。 現在、日本の海上自衛隊は資本主義社会で米国に次ぐ戦力をもっている。日本をそのままにしておけば米国の「ビンのふた」から飛び出す可能性がある。

(朝鮮・労働新聞)

■第4回BRICS諸国首脳会議の成果

 第4回BRICS諸国首脳会議が3月28、29日にインドの首都ニューデリーで行われた。会議では、国際的に深刻で複雑な変化が引き続き起こり、世界経済の復興が不確実な要素に直面し新興市場国家と発展途上諸国が世界で占める地位と役割が高まっている中で行われた。
 各国首脳は、安全管理、持続可能な発展、協力、共同の関心事である国際及び地域問題での見解を交換し「デリー宣言」と行動計画を発表した。
 今回の会議は、困難な環境の中で互いに助け合い、BRICS諸国の協力同伴者精神を世界に示すものとなった。

(新華社)





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